前へ次へ
73/307

第65話 河川敷で二人

 約束のホワイトデー当日。


 悠はマンションの前で、紗奈に着いたと言う旨のメッセージを送る。


「お待たせ!」


 メッセージを送って数分、手を振りながらパタパタと駆け足で近づいてくる紗奈に、悠も軽く手を振って応えた。


「着いたばかりだから」

「ふふ。行こっか」


 今日の紗奈はハーフアップにしていて、春らしい薄黄色のセットアップワンピースを着ている。胸の白いリボンが特徴的で、紗奈が付けている花の髪飾りにも似た雰囲気が、よく合っている。


「可愛らしい色だね。その服」

「そうだよね? お気に入りなんだ」


 くるっと一回転すれば、長めの丈のスカートがひらっと花のように咲いた。


「悠くんも服、似合ってるよ」


 と紗奈は言ってくれるが、今日の悠は白のTシャツに水色の長袖シャツをただ羽織っているだけの、至ってシンプルな服装だった。


 それでも、紗奈が褒めてくれるのは嬉しい。悠は優しく微笑んでお礼を言うと、紗奈の手を握って歩き出す。


 手を繋いだまま暫く歩けば、学校が二つ見えてきた。


洋極(ようごく)藤波(ふじなみ)……?」


 学校の名前である。


 洋極学園が男子校で、藤波学園が女子校。二つの学園は川の向こう側とこちら側に別れており、大きな橋によって行き来が楽にできるようになっている。


 クラス分けが色別になっていて、特殊な特色を持つ学園なので、県内ではかなり有名な学園だった。


「うん。ここのね、橋の下。そこの河川敷で、お父さんとお母さんは毎週デートをしてたのよ」


 河川敷を下ると、川風がふわっと紗奈の髪を撫でた。水面が光に反射して、紗奈もなんだか眩しく見える。


 これは確かに綺麗だ。と悠は思った。


「本当に綺麗な場所だね」

「そうでしょ? お父さんは洋極で、お母さんは藤波の生徒だったんだって! それでね、お母さんがナンパされているところをお父さんが助けて…ここまで二人で走って逃げてきたのが始まり」

「ふっ……ドラマみたい」

「でしょ? お父さんも、お母さんの王子様だったんだよね」


 紗奈が河川敷に座るので、悠もその隣に座った。


「ここでこうして座って、よく二人でお話してたんだって」

「いいね。そう言うの」


 春の風が気持ちいい。悠はそのまま河川敷に寝転んで、青空を眺めた。太陽光が少し眩しいので、手で目元を隠していると、紗奈が突然立ち上がる。


「ねえ、悠くん!」

「ん?」


 軽く紗奈を見上げると、スカートがローアングルからひらひらとなびくので、またすぐに目を隠す。


「どうしたの?」

「ふふ。前にして貰ったから、悠くんもおいで?」

「何が……?」


 紗奈が座るのが音でわかったから、悠はスっと紗奈の方に顔を向ける。


 紗奈は自分の膝をぽんぽんと叩いて、やる気と期待に満ちた目で悠を見つめている。


「膝枕?」

「どうぞ」

「じゃあ、少しだけ……」


 悠は大人しく、紗奈の膝に頭を乗せる。紗奈がその頭を軽く撫でるので、悠はちらっと紗奈を見上げた。


 慈しむような表情でこちらを見てくる紗奈に、思わず見惚れてしまったのは仕方のないことないだろう。


 物凄く綺麗だと、悠は感じた。


「ワックス、服に着いちゃうかもよ?」

「そんなにベタついてないよ?」

「ならいいけど」

「綺麗に整ってるね」

「直してくれてるの?」


 紗奈はサラサラと悠の髪を撫でてくれる。

 

「崩れないようにといてるだけ」


 人から触られるのはあまり得意では無いのだが、紗奈にならむしろ心地よいと感じる。その心地のよさは、ずっとこのままでいたいと思ってしまう程だ。


 悠も紗奈に触れてみたくなって、目の前でなびいている長い髪に手を伸ばす。


「紗奈の髪、ふわふわだよね」

「ふふ。お母さん似なの」

「そういえば、紗奈のお母さんもハーフアップだね。今日の紗奈とお揃いだ」


 いつもハーフアップの髪型にしているのは、実は由美の方だ。由美は高校生の頃からずっと、その髪型がお気に入りらしい。


「うん! どうかな?」

「可愛いよ」


 毛先を触っているだけなのだが、ふわふわと紗奈の香りが鼻先にまで届いてくる。それも、やはり心地いいと思った。


「悠くん、いつも褒めてくれるね」

「紗奈はなんでも似合うから」

「ありがとう」


 紗奈はほんのりと頬を染めて、悠に聞いてみた。


「悠くんは、どの髪型が一番好き?」

「うーん……。前に見た中だったら、俺はカチューシャの紗奈が好きだな。初めてのデートの時の髪型だからってのもあるけど」

「動物園の時?」

「そう。あの時から、紗奈って俺のこと好きなのかなーって、ずっと思ってた」

「え!?」

「凄い積極的だったよね」


 あんまり言うと羞恥で紗奈は涙目になってしまうので、悠はここまでにしよう。と小さく笑った。


「嬉しかったよ」


 それだけ言うと起き上がる。もう少し紗奈に膝枕をして貰いたい気持ちもあったが、そろそろ彼女の足が痺れてくる頃だと思ったのだ。

※本日、同時刻にもう一話更新しております。そちらも読んで下さると嬉しいです。

前へ次へ目次