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第36話 デートの待ち合わせ

 ショッピングモールで鉢合わせたあの日から、丁度一週間後の日曜日。


 今日は動物園にデートに行く日だ。


「変じゃない?」


 母に何度目かわからない質問をして、紗奈はそわそわと前髪をいじくる。


「可愛いわよ。大丈夫」

「本当?」

「もちろん。好きな人と会う為にって選んだのよ? 可愛いに決まってるでしょう?」


 何度目かわからないやり取りも、出かける時間が来たので終わりを迎える。


「気をつけて行くんだぞ」

「ねーね。行ってらっしゃい」


 リビングのソファに座っていた真人と、その膝の上に座っている義人が、手を振って送り出してくれた。由美だけは玄関まで見送ってくれる。


「デート、楽しんできてね」

「うん。行ってきまーす!」


 リビングの二人にも聞こえるように、大きな声で挨拶をしてからマンションを出る。


 待ち合わせは駅だ。紗奈は時間に余裕を持って、早めに家を出た。このぶんでは、約束の時間よりも十分ほど早く着くだろう。


。。。


 悠は母親にまた髪をいじられ、瞳が見える格好で駅にいた。


 好奇心というか、悠の容姿につられた桃色の視線が降り注がれて、正直居心地が悪い。歳上の女性に見つめられると、中学を相手に……。と辟易する。


「あ、あの。お待たせ……しました」


 不意に声をかけられて、一度腕時計を確認してから声のする方へ振り向いた。まだ時間には早いが、紗奈が到着したのだ。


「……あ」


 本当は「おはよう」と声をかけるつもりだったのに、紗奈の姿を見たら、思わず息を飲んで固まってしまった。


 今日の紗奈はいつものツインテールではない。可愛らしいカチューシャを付けて、ふわふわの髪をおろしている。いつもと雰囲気が全然違うので、思わずドキリとした。


 服装も、先週悠と一緒に選んだ薄ピンクのブラウスに、黒のシンプルなフレアミニスカート。スニーカーも服装に合わせて淡いピンクの可愛いものを履いている。胸にはレースがあしらわれた小さなリボンが付いていて、それが紗奈にとても似合っている。と悠は思った。


「可愛い……」


 つい口にしてしまったので、悠は慌てて口を押さえる。恐る恐る紗奈を見ると、聞こえていたらしくポッと顔を赤くしていた。


「ごめん。急に……」

「ううん……。嬉しい……」


 そう言って悠を見上げると、今度は紗奈の方から悠に感想を伝えた。


「悠くんも似合ってる。かっこいいよ」


 悠もこの前買った服だった。白の清潔感があるTシャツに、落ち着いた薄いブラウンのカーディガンをゆったりと羽織り、ズボンはスキニーで悠のスタイルの良さが際立っている。ちなみに、今日も眼鏡はしておらず裸眼だった。


「…ありがとう」


 二人は照れつつも、予定時刻の電車に乗るために改札口に向かう。


 紗奈があまりにも可愛らしいせいだろうか、先程、悠が一人で待っていた時よりも注目されてしまっていた。


「その、本当に可愛い? 変じゃないかな?」


 紗奈はもじもじと身体を揺らして、自信なさげにそう聞いた。本当に可愛いのに。悠はそう思って首を傾げる。


「なんで?」

「なんか、見られてるから」


 見られているのは悠への視線も含めたものなので、紗奈も勘違いをしてしまう。更に、若いカップルに思われているだろうから余計にだ。初々しいカップルを見守るような、微笑ましげな視線も注がれていた。


「北川さん。目立つ容姿だから」

「でも……」

「俺も、この格好だとよく人から見られるし。気にしたら負けだ」


 悠も目立つのは嫌いだが、対象が他人である分はマシなようで、余裕が窺える。遠くかチラチラ見られているだけだから、呼吸は大分楽だった。


「う、うん……」


 紗奈はもじもじしながら悠の後ろをくっついて歩き、定刻通りに来た電車に乗り込む。

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