第33話 テストの結果
テストが終わって、返却日。紗奈はあおいと一緒に、上位成績者の順位表を見るために職員室付近にあるホールに出る。
「わあ。あおいちゃん、凄い! 一位だよ!」
自分の成績を見ても落ち着いているあおいとは裏腹に、紗奈はあおいの名前を指さしてはしゃぐように声をあげた。
「ありがとう。紗奈ちゃん。紗奈ちゃんも八位だよ?」
「うん。今回は沢山お勉強したんだ」
「ふふ。デートの服を買ってもらうんだもんね?」
「うん……」
コソコソと囁かれた言葉に恥ずかしくなってはにかむと、周りにいた男子達に惚けた顔で注目されてしまい、更に恥ずかしい気持ちになった。
「よう。一位おめでとう」
と、菖蒲が話しかけてくる。その傍らに音久がいたので、あおいの協力をきちんと遂行しているようだ。
「音久も褒めてやれよ」
「え? うん……。立花さん、塾でも頑張ってるもんね」
あおいと同じ塾には音久も通っている。彼女が音久を初めて認識したのも、実は学校内ではなくて、塾でだった。
「見ててくれたのね。ありがとう」
あおいは想い人を前にしても、動揺した様子も照れる感じもなく、優雅に微笑んでいる。大人っぽい余裕が垣間見えて、紗奈は密かに憧れを抱いた。
「紗奈ちゃんも今回頑張ったよね。いつもより十位も上だし」
紗奈と音久が会話をするのは小学校卒業以来だが、菖蒲と一緒で仲良く公園で遊んだりしていた過去がある。普段あまり話さないあおいよりも緊張が無いようで、紗奈の方に話しかけてくる。
「お父さんからご褒美貰えるから頑張っちゃった」
「へえ。いいなあ」
「坂井くんも五位だよね」
「うん。勉強しないと後がうるさいから……」
「ヴァイオリン、弾けなくなるもんな」
「そー……」
音久の家は音楽家で、母は作曲家だし、父はプロのヴァイオリニストである。兄もプロのピアニスト。姉もピアノをしており、何度もコンクールで賞を取るほど腕が良い。
音久もそれに習って、得意のヴァイオリンを日々練習しているのだ。成績が悪くなると、そのヴァイオリンのコンクールへの出場権利が剥奪されるため、音久はいつも勉強と音楽の両立を頑張っている。
「ヴァイオリンを弾くの? いつか聞いてみたいなあ」
「本当? 同年代の友達は興味の無い人が多いから、そう言ってくれて嬉しいよ」
これはいい雰囲気ではないか? と紗奈は興奮気味に菖蒲の肩を叩く。騒がれてもうるさいので、菖蒲は暫くされるがままで苦い顔をしていた。
。。。
成績の上位に入ったので、日曜日に紗奈は、家族でショッピングモールにやってきた。
義人にとって服は退屈なので、真人が相手をするために少し離れたキッズコーナーで遊んでいるところだ。真人からは、服が決まったら呼ぶようにと言われ、今は由美と共に洋服店を回っている。
「シンプルな方が好きかな?」
「どうかしら。紗奈、デートはどこに行くの?」
「あ、まだ……わかんない」
テスト勉強に集中していたため、ここ最近は連絡を取り合っていなかった。
試験は終わったのだが、まだ行きたい場所を絞ることが出来ず、紗奈はメッセージを送れていない。悠からもメッセージは来ていなかった。だから、まだデート場所は決まっていないのだ。
「場所によってはスカートだと厳しかったりするし、系統の違うものを何着か買いましょうか」
真人からは頑張ったので三着、買ってもらえることになっている。
「母さん。俺メンズのコーナーにいるからね?」
遠くから聞いた覚えのある声が聞こえてきた。
「はーい。お父さんは?」
「服は買わないから、あっちのベンチに座ってる」
近くを通り過ぎる前に、ふとその声の主と目が合って、紗奈は目を丸くした。