第26話 類は友を呼ぶ
「ただいまー!」
昨日とは打って変わって、紗奈は弾んだ声で家に帰ってくる。
「おかえんなさい」
義人がとてとてと歩いてきて、紗奈の足にぴっとりくっついてきた。紗奈がそれを愛でていると、真人もリビングから風船を持って出てきて、紗奈を出迎えてくれる。
「おかえり。悠くんとは仲直り出来たの?」
「へ? あ、うん……」
真人には詳しく話していないはずだが、悠が好きな相手だと見透かされたようで、恥ずかしかった。
「そう。今度は父さんも話してみたいな」
紗奈が楽しそうなので、今のところは不満はない。しかし、落ち込ませたのも事実だと知っている。父としては、悠がどんな人なのかしっかりと見定めたかった。
「お話?」
「うん。紗奈を大事にしてくれる人なのかなあって思って」
「なっ! お父さんってば、悠くんとはまだそんな関係じゃ……」
とは言いつつも妄想は膨らんだ。また自分の世界に入っていく紗奈に、真人は思わず苦笑してしまうのだった。
。。。
次の日。昼休みを利用して、今度は菖蒲だけではなく、あおいをも巻き込んで仲良し作戦の会議を開いている。
「じゃあ、今日はデートなんだねえ」
昨日の出来事を話したところ、あおいがにこやかに手をぽふっと叩いてそう言った。
「え? デート?」
「放課後に待ち合わせをしてるんでしょ? 素敵ね」
「……」
あおいの言葉に顔を真っ赤にして、紗奈は頬を押さえる。
「つーか、そんなに面白かったんだ? その木村真昼って人の本」
活字が多いものはあまり好まないが、そんなに良かったのなら……と思って、菖蒲も興味を持つ。
「木村真昼さんは確か、デビューが高校生の時で、可愛らしいお話とキャラクターが多いから、中高生の女子に人気の小説家だよね。動物をモチーフとしたファンタジーな世界観もだけど、確か恋愛とか友情とか……ジャンルは多岐にわたって書かれてたはず」
あおいの家では小さな頃から活字の本ばかり読まされていた。その中でも読みやすかった木村真昼の本のことは、よく覚えている。
「あおいちゃん、知ってたんだ!」
「うん。知ってるよ。私も昔読んだことがあるもの。確か…虹の国ってタイトルだったかなあ」
「へえ。悠くんも知ってるかな?」
「どうだろ。聞いてみたら? 会話が広がるかもだよお?」
あおいは「ふふっ」と上品に笑う。
恋愛経験が全くなかった紗奈からしたら、あおいからのアドバイスは頼もしい限りである。
「あおいちゃんも、私に何か出来ることがあったら協力するからね!」
「協力……。うーん……」
あおいはチラッと菖蒲を見てから、頬に手を当てて悩む素振りを見せた。
「ん?」
「白鳥くんって、坂井くんともたまに話してるよね?」
「え? 坂井…音久? まあ、小学校の頃それなりに遊んでたし」
菖蒲の知る坂井音久は大人しい性格で、最近は外で遊ぶことは少なくなったが、昔は紗奈と三人でよく駄菓子屋に行ったり公園で遊んだりしていた。
中性的な顔立ちをしていて、まだ成長期が来ていないのか身長はあおいよりも低い。声変わりもまだ途中だったはずだ。
「あおいちゃんの好きな人って……」
「うん。坂井くん。彼、可愛いよねえ」
「え? そういう理由?」
「白鳥くん。協力してくれる?」
ニコッ と笑って、あおいはそう聞いた。しかし、目が言っている。「まさか断らないよね?」と。
有無を言わさずに手伝わされるこの感覚に、菖蒲の脳裏にはどこか似た記憶が蘇った。
真っ先に思い浮かんだのは紗奈の父親、真人の顔だが……。菖蒲は紗奈をチラッと見ると小さなため息をつく。
「はい。協力します」