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第23話 青い風船

 翌日の午後、昨日は遊んであげられなかったから。と言う理由で、紗奈は義人と出かけていた。


「義人くん。風船があるから、あんまり長い間は遊べないよ?」

「はーい!」


 母の好きなお店のクッキーを買う際、駅のそばを通るのだが……。


 今日はその駅前でイベントをやっていたらしく、風船を配る着ぐるみに出会った。そのため、義人は今、真っ青な風船を手にしているのだった。


 それでも、義人はお気に入りの滑り台で遊びたかったので、「少しだけ」とおねだりをして公園に連れてきてもらっているところだ。


 今いる公園は、悠に猫を助けて貰った時の公園だった。ここは割かしマンションに近く、義人はよく遊びに来る。


「ねーねっ! 滑り台!」

「一回だけだよ?」

「うん!」

「ねーねが持っててあげよっか?」


 遊ぶのに風船は邪魔だろう。と紗奈が手を差し出したが、どうしても自分で持っていたかった義人は「嫌」と体を後ろに捻る。


「風船、飛んでっちゃっうよー?」

「離さないもん!」


 どうしても嫌なそうなので、紗奈は仕方なく義人を送り出す。滑り台は上手に滑れたし、風船を離すこともなかったのでほっとした。


 しかし、紗奈の元へ駆け寄る際に転んで、義人は手を離してしまう。


 ふわふわと風船が空を舞う。しかし、それよりも紗奈は義人が心配だ。急いで義人に駆け寄り、義人を立たせてあげる。


「義人くん! 大丈夫?」

「……ん。痛くない」

「偉いね。水道で泥んこ落とそっか」

「うん…あれ?」


 義人はふと、自分の手に風船が無いことに気がついた。


「っ……!」


 転んだ時は泣かなかったのに、義人の瞳はうるうると潤んでいき、きょろきょろと風船を探す。


「義人くん。また風船、貰いに行こう? だから泣かないで?」


 紗奈はそう言うが、義人はしっかりと風船を見つけた。義人が指を指した方向を紗奈も見る。


 まさに、こないだ猫が降りられなくなっていたあの木に、義人が先程まで手にしていた青い風船がひっかかっているのだ。


「あっ……。」

「ねーね。取ってー?」


 取って。と言われるが、おそらく紗奈には届かない。そして、猫の時に挑戦したのでわかるのだが、登ることも出来そうになかった。


「義人くん。肩車しよっか。そしたら届くかも」


 紗奈が義人を肩車してみるも、届かない。背伸びしてもギリギリ届かないので、義人の瞳はまた潤んでくる。


「義人くん! お父さんを呼んでこようよ。公園から出ないで、大人しく待っていられる?」

「……待ってる。パパなら取れる?」

「もちろん! お父さんは背が高いから取れるよ! だから、いい子に泣かないで待ってるんだよ?」


 紗奈は公園から出ていく時も、「絶対にそこから動いちゃ駄目だよ!」と言って去っていく。


 マンションまでは走れば二分かからないで行けるので、紗奈は全速力である。エレベーターは待っていられないので、階段もダッシュした。


 紗奈が息を切らしながら真人を連れて帰って来ると、見覚えのある人影と、その人影に肩車をされている弟の姿が目に入った。丁度、青い風船が義人の手に戻った頃だった。

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