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第13話 志望校

 マンションのエントランスにて、早速手紙の開封式が行われた。


「俺の前で開けんの?」

「作戦会議も兼ねてなんだもん。駄目?」


 紗奈は緊張しているらしく、不安げに菖蒲を見つめる。


 こうも弱々しい顔を見せられると、菖蒲は参ってしまう。


「いやあ…別にいいけど」


 そう返事はしたが、人の手紙なのでどこか落ち着かない気持ちで紗奈をちらちらと見てしまう。


 エントランスのソファに二人で座って、落ち着かない様子でいるためか、入ってきた奥様方からは誤解をされてしまい、微笑ましげな顔で見られた。


 更に居心地が悪いので、早く確認を終えて欲しい。と思いながら紗奈を待っている。


「……チャットのID、教えて貰っちゃった」


 パッと顔を上げた紗奈が惚けた顔でそう言った。


「お、おお。良かったじゃん」

「うん。志望校は書いてないや」

「聞いたんじゃなかった?」

「聞いたけど、知られたくなかったのかな?」


 手紙には簡潔に、『毎回手紙を入れられるのは煩わしいから、聞きたいことがあるならチャットでお願い。』と書かれている。


 紗奈は、早速教えて貰ったIDをチャットアプリの検索欄に入力して、出てきた人物にメッセージを送った。


 羊のアイコンが可愛らしい。と紗奈は思う。悠が持っていたぬいぐるみキーホルダーと同じキャラクターのようだった。


 恐らく悠で間違いはないのだが、念の為に紗奈は本人かどうかを確認する旨のメッセージを送る。


『悠くんですか?』

『名前、()()って書いてあるでしょ。そうですよ。北川さん』


 返事は直ぐに返ってきた。悠もIDを教えた手前、メッセージが来ることは予想していたのだ。


 すぐ手元にスマホを置いておいてくれたのだろうか。紗奈はそう想像したら嬉しくなって、ついにやけてしまう。


『教えてくれてありがとう。これからよろしく!』


 スタンプを添えてそう送ると、少し間が空いてから羊のスタンプが返ってきた。「よろしく」と挨拶をしている羊だ。悠の持っているキーホールダーと同じキャラクター。アイコンもその羊だし、悠はこのキャラクターを相当気に入っているようだ。


 そう思った紗奈は、スタンプを見つめて微笑んだ。


 紗奈がにやにやして悠の送った文章やスタンプを見つめていると、またメッセージが飛んでくる。


『そういえば、俺の志望校は谷塚』


「えっ!?」

「うお。どうした?」


 にやけていた紗奈が突然顔を上げて大きな声を出したので、菖蒲は驚いて頭を思わず後ろに引いてしまった。


「お、同じだ……。志望校、谷塚だって!」

「え。ま、マジで?」


 菖蒲も谷塚を受ける予定だったので、思わず引きつった笑みを浮かべてしまった。紗奈が嬉しそうなので、あまり顔に出ないように心を落ち着かせる。


『私も谷塚だよ! 合わせたんじゃなくて本当に偶然!』

『別に疑ってないよ。受かるといいね』

『うん! 来年は同じクラスだと嬉しいな』


 また少し間が空いて、羊が頷いているスタンプが送られてきた。紗奈はそれに「ふふっ」と小さく笑って、スマホで嬉しそうな口元を隠す。


「良かったな。同じ志望校で。」

「うん!」


 大きく頷いて返事をした紗奈は満面の笑みで、菖蒲はやはり、ほんの少しだけ複雑な気持ちになってしまうのだった。

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