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主義主張2

 おおっと、お姉様方の所に行く前に、教室に入って来た筋骨隆々のナイスマッスルを見つけてしまった。


「やあ北大路君。今いいかい?」


「む、俺に匹敵する天才で主席の貴明がどうした?」


「いやあ、北大路君は相変わらずクラス一のナイスマッスルだね」


「はっはっはっはっは」


「あはははははははは」


 ガシッ


 は、いけない。つい用事を忘れて四馬鹿の筋肉マッスル担当、北大路君とガッシリ腕を組み合わせてしまった。


「やっぱり貴明を加えて五羽烏に変更しようぜ」

「せやせや」

「じゃあ小百合も加えて六羽烏ね」


「絶対いや」


 北大路君と話していると、残りの馬鹿達と東郷さんがやって来た。いやしかし、お姉さん達にコンプレックスを抱いて、邪神的にいい感じでドロドロしてた東郷さんを、ここまで漂白して仕立て上げるとは……馬鹿恐るべし。


「それで用事か?」


「うん。実はアンケートを配ろうと思ってね」


 今日何度目かのアンケートについて筋肉に説明する。


「やはり流石だ。色物揃いのこのクラスを引っ張っていくに相応しい行動力と言わざるを得ない」


「そういう北大路君だってマッスルに対する行動力は学園一じゃないか」


「はっはっはっは」


「あはははははは」


 ガシッ


 はっ。いかんいかん天丼とはこのことか。またしても腕をガッシリと組み合わせてしまった。このマッスルが好漢すぎるのが悪いのだ。つうか色物はお前達もだ。


「決まったな」

「せやな」

「六羽烏結成ね」


「だから私を巻き込まないでよ!」


 四馬鹿の筋肉担当こと北大路友治は、名家の序列的に端の方にいる他三人と違い、異能の東西南北と言われる東郷、西岡、南條、北大路の四家、その北大路の生まれだ。そんなお姉様のご実家である名家の頂点、桔梗家を除けばほぼ最上位の名家で生まれた彼が、奴らは名家の中で最弱、扱いされている家出身の三人とつるんでいるのは、彼の異能が超力しかなく霊力を持っていなかった事が原因だろう。


 古くからの名家というのは、近年ポッと出始めた超力や、日本には馴染みがなかった魔力よりも、当然ながら霊力と浄力を尊ぶ。ましてや名家中の名家、北大路となるとその傾向はさらに強いだろう。全員文系出身だなこりゃ。


 そんな文系一族に突如現れた理系の北大路君は当たり前の様に排斥された。俗に言う追放という奴だ。そのため名家のコミュニティーでも碌に相手にされていない家の、他三人と友人になるのは自然の成り行きだったのだろう。


「つっても俺らはゾンビ戦法しました、まる。以外ないよな」

「相手が疲れました、まる。もあるぞ」

「小百合がうっかりしました、まる。もね。なにせそれこそうっかりバフを切らしたんだから」


「もうあの時のことはいいでしょ! っていうか佐伯さんを怒らしたのはあんた達なのに、私に擦り付けようとしたからでしょうが!」


 そんな彼らだからメンタル100で、見返してやろうと勉強熱心なんだなあ。


 とはならない。なるはずがない。全く持って舐めてはいけない。


 そんな劣悪な環境で鍛えられたからー、程度のものじゃない。そもそも後天的に到達出来る領域ではないのだ。数々の死線を潜り抜け、後天的に鍛えられる最大値を持つ学園長をして90後半。まさに生まれながらの天才異才鬼才、1000年に一人の逸材。


 それが何の巡りあわせか、同じ時代、同じ場所で友としてつるんでいる。いやあ、震えるね。そのまさに奇跡的な偶然と、彼らを出来損ない扱いしている連中がいることに。


 おっとしまった例外がいた。彼ら以外にもメンタル100を一人知っているが、あいつは素質はあれど後天的なメンタル100だったな。


 まあとにかくメンタル100は本当に折れないへこたれない。嘆きもするし悲しみもする、涙も流す。だけど立っている。膝を折らない。地に手を付けない。その癖他人の為に必要とあれば頭を地面に擦り付ける覚悟がある。まさに超人に至った存在だろう。


 ははは。


 まああいつも含めて全員が全員、俺は、私は人間だというのは間違いないだろう。


 人間。


 はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!


 人間!


 嗚呼あゝ人間!


「よう友治。今日もいい筋肉だな」


「ふ、それが分かるお前も中々だな西岡よ」


 そんなマッスル担当に声を掛ける異能至上主義の西岡君。


 ああ、やはり彼はややこしい。同じ東西南北の西岡家なのだ。超力を持って生まれた北大路君は侮蔑の対象の筈で、現に南條君は彼をいないものとして扱っている。しかし西岡君は、北大路君のことをいい奴で同じ異能者の仲間と思ってる。その上、俺とお姉様の区別するため下の名前で呼んでいるのとは違い、北大路君とそう親しい訳ではないのに名前で呼んでいるのは、殆ど勘当されている家の名字で呼んで、彼が傷つかないようにと配慮しているからだ。まあ、その本人は毛ほども気にしちゃいないが。


 ま、これも人間ってね。


「諸君おはよう」


 おおっともう来たんですね学園長。しゃあない、橘お姉様達への挨拶は後だな。


 というか妙に疲れてません? 胃薬いりますか? 何というか、超苦手な相手からいきなり連絡があって、胃酸がジュワッっと溢れた時の様な顔をしてますよ。確かに昨日の夜、学園長が胃を押さえてると猿君が言ってたけど、いったい何があったんだ?


まあいいや。それより朝のホームルームが終わるといよいよ戦闘会だな。


これから主席兼マネージャー兼応援団長四葉貴明となる!

学園物で100話近く書いてるくせに、今更クラスメイトを掘り下げてるそれこそ馬鹿がいるらしい。

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