マネージャー3
えーと、機材のマニュアルマニュアル……。
ほうほう。ふむふむ。
えーとこのボタンか。ポチッと。よし録画が開始され始めた。
多分これで大丈夫の筈……俺の体に取り込んで生体パーツとして扱えば完璧に操作できるんだが、流石にそんな事を人目のある所でした日には追放されてしまう。それにどう考えてもお高い機材だ。タールがこびり付いてたから弁償って話になったらえらい事になる。止めておこう。
そういや親父の邪神形態も、タールから包丁に荒縄、ハサミなんてものが突き出てたな。ふんロートルめ、俺は現代っ子として銃でも取り込むか? それとも圧縮してイージス艦? やっちゃうか?
「貴明君準備はいいかい?」
「いつでも大丈夫であります!」
訓練場にいる佐伯お姉様へ敬礼で返答する。この機材で撮った映像は、我がチームのみならず、東郷さんのチームも後々反省会で利用するため、非常に重要なものとなる。
「さて、東郷の支援を受けた壁が三枚。中々面白くなりそうね」
「そうですねお姉様!」
訓練相手の東郷さんチームは、霊力者一人、超能力者が二人、魔法使い一人、そして浄力使いの東郷さんと言う構成で、戦闘会で対戦するチームと同じ構成なのだ。つまり壁が三人いて、魔法使いが火力、バフを東郷さんが掛けまくる戦法と推測できる。
だが、浄力において橘お姉様の次に、と言うか橘お姉様が攻撃に振っている事を考えると、クラス一の正統派浄力使いの東郷さんが掛けたバフは、恐らく一学年上程度の奴よりよっぽど厄介の筈。仮想敵として申し分ない。
「それじゃあ合図をよろしく」
「はい! ごほん、それでは、試合開始いいいいいいいい!」
「【神堅建陣】【
開幕早々東郷さんが動いた!
すげえ早口、っつうか東郷さんバフ盛りすぎいい! 防御、リジェネ、攻撃、速度、精神攻撃耐性が、相手のチームの面々に付与された!
俺が受けると溶けるなありゃ。
「支援だけなら中々やるわね。まあ、その代わり問題を抱えてるけど」
「ですねえ」
お姉様に中々やると評されるほどの東郷さんなのだが、まだちょっと未熟な彼女には大きな弱点があった。
「行くぞ! 藤宮を崩せ!」
「おう!」
「【四力結界】」
「四系統一纏めの結界いいい!?」
「なんだそりゃ!?」
「藤宮てめえ、さてはステロイドやってるな!?」
おお! 藤宮君すげえな! 四系統全部乗せの結界とか見たことねえ! しかも四つ展開するんじゃなくて、一つの結界に四つ全てが合わさってる!
「やっぱり才能だけを考えると学園一かもね」
「ですね!」
お姉様の言う通り、努力云々で身に着けられる技術じゃない。なにせあんな結界、他人が四系統合わそうと思っても、微妙に違う波長のせいでまず無理な上、完璧にそれぞれの力を合わせる必要がある。
「ダメだ固い!」
「いや単純な固さの問題じゃない! 筋トレについて調べてるついでになんかの論文で見たが、理論上四系統を一纏めにした結界は、同じ四系統の攻撃で、しかもほぼ完璧に威力を同じにしないと破壊できない!」
「んなああにいいいいい!?」
合わせた数は四系統なのに、何故か虹色に輝く結界を崩せない相手チームが焦った声を出している。まあそれも当然だろう。
主席として俺もその論文見たけど、四系統合わさって出来た結界は互いに補完し合っており、何とかしようと思ったら、それぞれ同系統の攻撃を完璧に当てて機能不全を起こさないと、瞬く間に修復、どころか破壊さえ出来ないのだ。
流石はマイフレンド藤宮君。
「【雪の切り切り舞】」
「【冷たき手 凍える心臓 凍てつく足 この地は永久凍土"】」
「佐伯め早い!?」
「橘のブーストだ!」
「東郷は動けないんだ、防げ! プロテインパワー超力筋肉壁!」
藤宮君の結界が相手を阻んだ隙に、橘お姉様の支援で、いつもより早く魔力の収束を終わらせた佐伯お姉様の魔法が解き放たれる。
そして東郷さんの弱点が露呈してしまった。
「あだだあだだ!?」
「痛いと思った瞬間回復されて無限ループに!」
「いいから壁を維持しろ! マッスルパワー全開!」
「避けるという選択肢が消えるのは痛手ね」
「そうですねえ」
東郷さんの問題、それはバフの重ね掛けに集中すると、全く他に意識を割けなくなって動けなくなるため、壁役は死ぬ気で肉盾をする必要があるのだ。
「出来たわよ!【サンダーランス!】」
「俺達ごとやれってもう撃ってるし! ドーピング防御!」
「ちょ!? その道連れ戦法は最終手段だろ!?」
「フレンドリーファイアあああああ!?」
「四馬鹿ねえ」
「はは、ははは」
訓練開始からずっと呪文を唱えていた魔法使いの女性から、雷が迸り藤宮君の結界にぶち当たるが、なんと味方ごと攻撃したのだ。いや、確かに佐伯お姉様の魔法がまだ終わってない以上盾は必要なのだが、それでもまさか味方ごと攻撃するとは。しかもまったく躊躇してねえ。そりゃ東郷さんを除いてクラスの四馬鹿と言われるだけある。
「どうよこの威力! いかに藤宮の結界でもひとたまりもないでしょ!」
「そんな物を躊躇なく味方に撃つんじゃねえ!」
「東郷のバフなかったら俺ら訓練場から叩き出されてたぞ!」
「鍛えててよかったあ」
言うだけはある威力の魔法が藤宮君の結界に直撃すると、辺りは煙に包まれてしまった。これでは無事かどうか確認する術はない。
しかし、わいわいやってる相手チームの皆さんだが、まだちょっと早いんじゃないですかね?
「【四力砲】」
「【氷織】」
「お返しさ【サンダーランス】!」
煙の中から飛び出る四属性の力の塊、織物のような氷の網、先程と同じような雷。
「なんで生きてるのよ!」
「藤宮てめえの結界どうなってんだよ!」
「チートや!」
「どこのジム通ってるか教えろ!」
煙から現れたのは、誰一人として欠けていない我がチーム。流石です皆!
「うんぎゃああああ!? ちょっと小百合! バフ掛け過ぎよ! あだだだだだ!?」
「生き地獄になってるって!」
「いっそ殺せええええ!」
「明日絶対筋肉痛ううううう!」
そんな皆の攻撃を受けてもぴんぴんしている四馬鹿、じゃなかった一年A組四羽烏。東郷さんのバフの強力さを物語っているが、痛いものは痛い。しかも戦闘不能な程じゃないため、訓練システムがまだまだやれるだろと、訓練場から叩き出していないせいで、終わらない痛みを味わう羽目になっている。
「男共、根性見せなさい!」
「てめえも壁やるんだよ!」
「やけくそじゃああ!」
「マッスル自爆!」
だがメンタルと言う能力と値があれば、全員100が余裕な彼等は、そのまま肉盾と攻撃を続行した。いやあ、まさにゾンビだ。マジで四羽烏と東郷さん相性いいな。言っちゃ悪いが訓練のサンドバげふん。訓練相手として完璧だ。
「いやあメンタルが強いね」
「うっせえぞ佐伯!」
「このボクッ子があ!」
「ニッチなジャンルなんだよ!」
「女に付きまとわれて婚期を逃しなさい!」
「今ちょっとボク、カチンと来たね」
しかも全員に精神攻撃まで備わっている。これは間違いなく強敵だ。なにせ普段飄々としている佐伯お姉様の顔に、血管が浮き上がっているほどだ。
「すんませんっした!」
「こう言えって東郷が!」
「立派な大胸筋ですね!」
「小百合はどうなってもいいから私だけは!」
「ちょっと!? 回復だけバフ切るわよ!」
「「「「「あ」」」」」
「本当にバフ切る奴があるかあああ!」
「ぐええええええ!?」
「私のせいいいいい!?」
あ。
とばっちりを受けた東郷さんが、つい集中力を乱してしまいバフが消えてしまった。そのせいで生き地獄を味わっていた四馬鹿が場外へ、続いて後方にいた東郷さんも仲良くリングアウト。
うーむ。決着! 我がチームの勝利!
「ぷぷっ。ぷぷぷ。ぷふっ」
でも笑いのツボに嵌まってしまったお姉様は負けかも!
「再戦じゃああああ!」
「いいだろう。望むところだ」
訓練場から叩き出されても、すぐに立ち上がる四馬鹿。バフとか関係なしに不死身なんじゃ……。
いやあしかし、本戦の先輩方達は諦めて貰おう。我がチームに勝てるわけがないからな。がはは!
◆
◆
東郷小百合
入学当初、姉二人に比べて劣っているとコンプレックスを抱いていた東郷だが、四馬鹿の紅一点と席が近かったせいで、なんだかよく分からない内に巻き込まれてしまい、気が付けばそんなものどこかへ消え去っていた。
橘栞が正統派な浄力使いと言い難いため、クラスの中で最も浄力使いとして長けているのは彼女であり、その支援は通常の異能者を不死身の戦士へと昇華する。
しかし、支援に徹している最中は、他の行動を一切出来なくなるので、彼女を守り切れるかどうかが味方の最重要事項となる。だが、四馬鹿なら大丈夫だろうと、奇妙な信頼感を東郷は抱いている。
ークラスにいると、偶にすっごく厄いのよね……ー 四葉夫妻を見ながら 東郷小百合
◆
四馬鹿
霊力者一人、超能力者二人の男、魔法使いで紅一点の女。
四人揃って一年A組の四馬鹿。
貴明曰く、全員メンタルと言う能力値があれば100は叩き出せる猛者たちで、それぞれ名家のギリギリ端っこに位置する家の出身。出来もちゃんとした名家に言わせれば出来損ない。なのだが、邪神にメンタルが100と断言されるのは尋常なことではなく、殆ど超人と言っていい。ひょっとしたら、蜘蛛君どころか人間形態の貴明の精神支配では効かない可能性すらある。
通常の戦闘でもその精神力から殆どゾンビにも関わらず、東郷のバフを受けた彼等はまさに不死身の戦士となって、相手を徹底的に削り取るだろう。
クラスでもボケとツッコミを両方担当している。
ー馬鹿だ馬鹿だ。あの強さを知らないとはなんと馬鹿だー