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マネージャー2

「やあお帰り。どんな相手だった?」


「二年生の上限一杯五人組で、全系統揃っているバランス型でした! 多いのは超能力者で、多分この二人と霊力者が壁役だと思います!」


「ほほう。これは私達の実力をとりあえず試そうという意図があると見た。ご苦労貴明マネージャー」


「滅相もございません!」


 早速教室に戻り、次の対戦相手を報告すると、佐伯お姉様に労わられてしまった。でへ、でへへ。


「個人戦でボク達は一個上を倒したけど、集団戦ならどうかってなるね」


「そうね飛鳥。でも、あの男達は正直大したことなかったわ」


「まあねえ」


 橘お姉様の言葉に思い出すのは、お、可愛い子じゃーん、おれっちとどうー? 的な思考駄々洩れでお姉様方にぶっ飛ばされた奴等だ。いやあ、全く持って仰る通り。油断とか慢心とかじゃなくて、本当に大したことなかったからなあ。担任が学園長なら、このくそ広い学園中をうさぎ跳びする羽目になってだろう。能力の強さ云々じゃなく、戦う者の心構えではなかった。


「それで、俺達は予定通り戦うとして連携の確認は?」


「さっき小百合ちゃんと話がついてね。彼女のチームと訓練することにしたよ」


「そうか東郷のチームか。ならいい」


 どうやら俺と藤宮君が掲示板に行っている間、我がクラスの清楚美人、東郷さんのチームと模擬戦することが決まったらしい。


 我が校の東郷三姉妹と言えば、蜘蛛君を厄い厄い連呼する単独者の長姉、最上級生で生徒会長の右腕である次姉、そしてクラスの東郷さん。


 彼女は浄力なのに攻撃へ振っている橘お姉様と違い正統派の浄力使いで、浄力値も橘お姉様の次だ。そしてそのバフを掛けられた味方は、ゾンビアタックが可能な程耐久と体力が回復してしまう。巫女さんなのにゾンビ戦法とかもうこれ訳分かんねえな。


 ま、まあつまり、東郷さん率いるチームは、連携を確認するため長時間戦えるサンドバげふん。模擬戦相手には丁度いいのだ。向こうは向こうで、こちらは三人だし、模擬戦というある程度力を抜く戦いなら十分通用する筈だと受けたのだろう。それに対上級生を意識するなら、クラス最強のこのチームを経験するのはいい機会の筈。これはお互いウィンウィンですよ。


「じゃあ訓練場の使用申請して来ます!」


「私も行くわ。単独者の戦闘情報を返却しに行かないと」


「はーい、よろしくね貴明君、栞。小夜子の旦那はせっかちだね」


「ふふ」


 お姉様方に敬礼して教室を去る。善は急げ。思い立ったが吉日。急がばぶち破れ。昔の人はいい事言った。しかし、橘お姉様とご一緒か。でへへ。さーて、何処が空いてるかな?


 ◆


 な、な、なんじゃあこりゃあああああああああ!?


「これはちょっと甘かったわね……」


「おい押すな!」

「く、苦しい」

「今誰か私のお尻触ったでしょ!」


 ぶったまげてる俺と、呆然と呟いた橘お姉様の視線の先には、訓練場の申請をしようと押しかけている人の群れ。


「先輩達は真っ先に来たのね」


 そうか、集団戦となると、最大10人が戦える訓練場のステージが必要となる。いや、多分数は十分にある筈なのだ。数は。問題はだ。


「出来るだけ人目に付かない、もしくは見られていてもそれが分かる場所を狙ってるって事ですね!?」


「多分そうね。一チームしか入れないような小さな所は奪い合いの筈」


 相手が訓練符じゃなく人間なのだ。つまり手の内は出来るだけ探られたくないとなると、目立たない小さな訓練場で、人が入って来てもすぐに分かる場所がベストになる。もしあぶれて馬鹿広い第一訓練場とか使う羽目になったら、どうぞ見て行ってくださいと言っているに等しくなる!


 甘かった! ここは弱肉強食の世界だったのだ! こんなのだから必要なのだ、秩序が!


 つまり我が帝国。証明完了。


「さてどうしたものか……」


「お任せください橘お姉様!」


 見る所によると受付はまだ始まっていない上、列なんて存在しないような状態なのだ。つまり好き放題潜り込める。ついでに言うと、こんなもみくちゃな所に橘お姉様を放り込めるはずが無い。ここはこの邪神四葉貴明の出番だ。


 という訳でてめえら退けコラ! ああん!?


 だが主席四葉貴明は、普通にやったらはじき出されることを完璧に理解している。早速盤外戦術を使う時だな!


 秘儀! なんだかよく分からないけど、俺の近くにいると毛虫とゴキブリとナメクジと蜘蛛を合わせた存在が、肌に触れた時の嫌悪感を感じるようになる呪い!


「ぎょえ!?」

「ひいっ!?」

「ぎゃあっ!?」

「あ、なんか落ち着く」


 はーっはっはっは! 道を開けるがいい雑魚共! ほーれほれ、俺に触ると気持ち悪いぞー!


 ぐすん。


「受付を開始する」


「はい!」


 俺が先頭に来た瞬間受付が始まった。ナイスタイミング!


 勝った! マネージャー編完!


 ◆


 ◆


「それじゃあよろしくね」


「ええこちらこそ」


 小さな訓練場のステージで挨拶する佐伯お姉様と清楚美人東郷さん。


 向こうさんにも後でデータを渡すという取引で、カメラを使用する許可が出たので、佐伯お姉様が取り寄せた機材を準備する俺。


 これひょっとして佐伯お姉様の会社の機材じゃ……流石です佐伯お姉様! でもちょっと値段を知りたいような知りたくないような……。


 いやあしかし、敗北を知りたい。

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