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お買い物デート

「ふう。ようやく落ち着いたわ。酷い目にあっちゃった」


「お水をどうぞお姉さま!」


「ありがとうあなた」


訓練場から去った俺達は、お姉様の笑いが収まるまで屋上で過ごしていた。笑いすぎて顔が上気したお姉さま最高にキュート。プリティ。


「あなた猿君を唆したでしょ」


「何のことか分かりません!」


一体何のことなんだろう。猿君が単独者達に50連続パンチを叩き込んだのは猿君の意志によるもので、僕は責任を取る立場にないんです。猿君が勝手にやりました。


「酷いわあなた。夫婦で隠し事だなんて」


「ほ、ほわあああああ!」


お姉さまだめです! そうやって僕の顎先を指でつーってされると僕はああああああ!


「うふ。やっぱり言わなくてもいいわ。ありがとうね。あ、な、た」


お姉さまお顔がちかああああああああ……。


「さ、帰りましょうか。お買い物もしなくちゃ」


「ふぁい」


でへ。でぇへへへへ。



「放課後だと生徒で一層混みますね。また都会ショック受けてます」


「本当ね。私もまた箱入り娘ショックを受けてるわ」


やって来ましたいつぞやの異能関連グッズ、じゃなかった異能関連商品スーパー。だがそこは前回来た時よりも更に多くの人で賑わっており、未だにこういう物は後ろ暗い連中がこっそり買うというイメージから抜け出せない俺は都会ショックを受けていた。


「あ、式符の紙ですよね?」


「そう。話してた髪の毛を編むやつ」


おっと、いつまでもお姉さまと手を繋いだまま入口で立ってるわけには、いいけど、店の邪魔になるから入るか。


「あったあった。最高級のまで選り取り見取りですよ」


「そうねえ、安いのでいいわ。最高級と謳っていてもどれもそう変わらないし、大事なのは私の髪だから」


以前来たから何となく覚えいた式神関連のコーナーにお姉さまと行くと、そこには練習用の符から熟練者が扱う符までかなりの種類があった。しかし、お姉さまにとってはどれも大して変わりがないらしく、その中でも安い符を買い物かごに入れていた。それと僕もお姉さまの髪が一番価値があると思います。お金に変えられません。


「墨も安物ね。あ、そうだわ」


式符に書くための墨をチラリと覗いたお姉さまだが、これもお眼鏡にかなう物がないらしかった。だが何かいい事を思いつかれたのだろう。いつもの素敵な笑顔だ。


「あなたの血を少し使わせてくれないかしら」


「何リットルでもお好きに使って下さい!」


世間様にはお見せ出来ない俺の血だが、お姉さまが使うなら全く問題なし。ちょうど色も真っ黒だから墨としても合格だろう。


さて後は夕飯の材料を買って……。


『■■■!』

『■■■■■■!』

『■■■■■!』


ちっ、流石都会だ。俺様の恨みセンサーがビンビン反応してやがる。分かった、分かったよ。その恨み晴らしてやるよ。ちゃんと正当だったらな。そんで? どっからよ?

えーっと。

どっち?

んん?


ん!?


ここ!?


この売り場にはお姉さまと俺しかいないぞ!? 


んんんんん?


由来不明、在庫限り90%オフ?


『買えー』

『買ってけー』

『買ってくれー』

『安いよー』

『もう殆どタダじゃねえかあ』


あ、あ、ア、アホかああああああああああああああ!


どこの世界に売れ残った事を恨んでる式符がいるっつうんだよ!

うわっ!? すっげえ皺くちゃだなおい!? お前ら一体いつから売れ残ってんだよ!? 式神のくせに古いから付喪神になりかけとかヤバいだろ!


『唐土からの技術の試しで作られました。才能ない奴の趣味で』

『平城で陰陽師の子供に作られました。殆ど落書きです』

『平安で作られました。目隠し遊びで』

『後醍醐の帝の時に作られました。こんな感じだっけ?って』

『江戸で作られました。確かこんな風だったよな?って』


アホかあああああああああああああああ! お前ら殆ど重要文化財じゃねえか! いくら由来不明だからって、こんなスーパーで売られてることがびっくりだよ! い、いや、実用品としては作られ方からしてクソ以下だけど……実際どうなんだ?


『まあ見てってくださいよ』

『90%オフの価値はありますぜ』

『それだめじゃね?』

『しー』

『買ってけー』

『憎いー買われていく奴が憎いー』

『このままじゃ廃棄処分なんです何とかしてください』

『一応式符なんで飾られるより使われたいんですー』


うっせえ全員一気に喋るんじゃねえ!


「お姉さまこの処分品の感想はどうです?」


「え?……古いだけのゴミ以下ね。処分する労力で赤字になるわ」


「ですよね。比較的、非常に比較的マシなのでも碌な能力がありませんし。殆どは出来損ないしか出てこないし。という訳で買ってやるから、大人しく博物館のガラスの向こうで飾られていたまえ」


『そこを何とか使ってくれませんかね?』

『こう、式符としての本能が使ってくれって言ってるんです』

『あいうぉんとわーく』

『使えー』

『いやあきついっす』


だから一斉に喋るんじゃねえ! 

大体お前らをどうやって使え……あ。ははーん閃いたぞ。ちょっと練習する必要もあったし丁度いいな。よし買って使ってやるとも。職場も用意してやる。


『本当ですか!?』

『やったー!』

『仕事だー!』

『職場だー!』


そうとも仕事だとも。だから頑張って働いてくれたまえ。


「あなたも物好きね」


「いやあ、色々考えたら結構役立つかなあって」


「私を妻にしたんですもの。物好きは今更だったかしら」


「僕は小夜子お姉さま好きです! ふんすふんす!」


「……もう」


「あいてっ。でへへ」


また霊力で鼻をピンってされてしまった。でへへへ。


お姉さまは買い物が終わっての帰り道で鼻歌を歌っていた。

でへへへへ。























はいでは売れ残りの皆さんやりましょうか。一旦皆さんを式符から引っぺがします。大丈夫大丈夫痛くない痛くない。だいじょそいや不意打ち剥がし! ね? 痛く無かったでしょ? そんで纏めてコネコネしてのー。一つの式符にぶち込んでのー。


上手くいった! やはり俺様は天才だああああ! え? いや、99%上手くいく筈だったから大丈夫だよ。実際大丈夫だったでしょ? ほら、一応皆さん達で練習したかったって言ったじゃん。あれ? 言ってない? そう思ってただけだったかな?


ほ、ほらお詫びにこれを上げるよ。ナニモノにもなれなかった君達に送る、ナニモノにでもなれる力だ。じゃあ今日から君達は……うーん、猫君だ! そう猫君! え? なんか違うくないかって? いいんだよ猫君ではい決定!


じゃあ君達はこれから異能者達の養成校で仮想敵として頑張って貰います。うんうん、そう喜んでもらって嬉しいよ。シフトだけど365日の盆暮れ正月休み無しで24時間ね。え? だから、365日の盆暮れ正月休み無しで24時間だよ。え? だから

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