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蜘蛛の苦悶2

『キッキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア死死死死死死死死死死死死!』


『神よ我を守り給え!』


『ぐぐぐぐぐぐっ!』

『がっ!?』

『っ!?』

『うわっ!?』


お、流石 アメリカの皆さんだ。まだ蜘蛛君は式符から出てないとはいえ、初見の蜘蛛君の声は、最上級生全員を一撃で吹っ飛ばしたって聞いてるのに半分は残ってる。

引率の教師陣も外見はしかめっ面だが満足そうだ。


「先生。蜘蛛君の出現を待って欲しいそうです」


「分かった」


だが釘は刺しておきたいのだろう。1人がこちらを見ていたので意味をくみ取って頷き学園長に報告する。


蜘蛛君の式符を停止すると、向こうさんも頷き返してくれて訓練場に上り、生徒達を睨みつけている。


『始まる前に念を押したはずだ! 非常に危険と対峙する場合は心をしっかり強く持てと!』


おおっとこれはまさに鬼軍曹の一喝だ。訓練場から叩き出された人達は、全員背筋を伸ばして軍人の様に気を付けの姿勢になった。


『それが何だこの様は! ええ!? 10万ドルの訓練を1秒で終わらせるとはいいご身分だな! 喜べケビン、お前は今からセレブの仲間入りだ! 嬉しいだろ!? お前達もそうだろう!?』


『サーノーサー!』


『ああそうだろう! 今さっきお前達はそこらのキャンディーよりも価値が無いと証明したんだからな! いいか3日間だ! 1回の使用で10万ドルの訓練を3日間自由に使わせてもらってるんだぞ! それに見合った価値をお前達は証明しなきゃならんのだ! チープなキャンディーでないなら行動で示せ!』


『サーイエッサー!』


どひぇえ。学園の生徒というよりブードキャンプの訓練兵だなこりゃ。


「大体想像がつくな。鬼軍曹と新兵か?」


「まさにそんな感じです。これウチに取り入れるんです?」


「いや、軍や戦うと言ったモノが我々より遥かに身近な下地があってこそだろう。我々が取り入れるには向いていない」


学園長も教官殿の剣幕に察しがついたのだろう。言葉は分からなくても一発で正解だ。


しかしよかった。丸刈りのペーペー訓練兵にされたら、全人類に禿の呪いを撒き散らすところだった。勿論最初の犠牲者は学園長だっただろう。


あ、釘を刺し終わった教官殿がこちらを見ている。


「もういいみたいです」


「分かった起動する」


『キッキッキキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ死死死死死死死』


『神よ我を守り給え!』


おお! 今度は全員耐えた! つまり彼等は我がブラックタール帝国におけるストレス耐性に合格したという事だ!


じゃあ本番だ蜘蛛君! ワールドデビューだ!


『キイイイイイイイイイィィィィィイイイイイイイイイアアアアアアア!』


『神よおおおおおおおお!』

『おおおおおおおおおお!』

『ぐううううう!』


やるなアメリカの皆さん、蜘蛛君を直視して誰も吹っ飛ばんなんて! 流石我が帝国の本流だ!


『キイイイイイイイイイ!』


あ、でも蜘蛛君の体当たりに何人か吹っ飛んだ。でも、散開してたのが功を奏してまだ結構残ってる。


「散開隊形でしたっけ?」


「ああ、ウチの最上級生とは真逆を取ったな。一塊で全滅するのを避けた。だがあれをすると個々の力と複雑な連携が必要になる。さてどうなるか」


初見だから少しでも生存率を上げようと思ったのだろう。密集を避けて各々が蜘蛛君を中心にして広い訓練場に散らばっている。 


『足だ! トニーとマーカスは超能力で足を狙え! 室内戦なんだ絶対に火は使うなよ! アレクサンダーは皆に加護を! 魔法使いはあの泥の足元だけ凍らせろ!』


ごめんなさい指示出してる人。絶対に室内でも高威力な火の魔法を使うって偏見を持ってました。でも結構な人がそう思ったはずです。なんたって超火力主義の国だから……。


「うむ。やはり思想の差がもろに出るな。こちらは集団で一塊になる事が多い」


「勇者パーティーとかのせいですかね?」


「……否定出来ないのが何とも言えんな。勿論両方にメリットデメリットがある。今見てる分にはメリットが機能しているな」


「確かに」


『キイイイイイイイイイイイイ!?』


蜘蛛君は、いや今は泥君か。泥君は遠距離の攻撃に乏しいから、バラバラに散られた上で足を集中的に虐められるとかなり辛い。あ、いま足が滑った。泥君状態だと足先も鋭い鎌になって無いから、踏ん張りが効かないんだろうなあ。


『神よ邪悪なるものをうち祓い給え!』


『イイイッ!?』


あ、泥の鎧を貫通して蜘蛛君が苦しんでる。それにしても


「やっぱり一神教系なんですね。ウチに先生いましたっけ?」


「そこなんだ……臨時教員として来てくれている者がいるが、教員職に就けれるほどの一神教の者となると、殆ど世界中でやっていけるからな……」


おっと藪蛇だった。また学園長が頭を抱えて唸りだしたぞ。まあ確かに世界中で信仰されているのだ。それこそ世界中で引っ張りだこだろう。だが流石に俺も教員、しかも一神教系なんて用意できないからそこは自力で頑張ってくれたまえ。

単なる神様でいいなら紹介できるんだけど紹介しちゃうか? 行っちゃうか? 親父だけど。


無いな。邪神が教員とか世界中から異端認定待ったなしだろう。


あれ? 生徒はいいのか? やっぱり黙っておこう……世界中から追放されてしまう……。


『ギッキャアアアアア!?』


そんな事を考えていると泥君が随分苦しそうな声を上げた。


「あっ今」


「ああ、気が大きく緩んだな」


そんな泥君に対していけると思ったんだろう。新兵の皆さんの気が緩んだ。


これには渋い顔をしながら内心喜んでた教官殿達がお冠だ。止めるかなと思って視線を送ると首を振られた。どうやら痛い目を見ればそれでよし。もし倒せれば鬼教官降臨という訳だろう。


『カッカッカカカカカカ火火火火火火!』


『なんだ!? 誰も火は使ってないのに燃えたぞ!?』


泥君切れた!


よっぽど舐められたことが頭に来たのだろう。

なんだか普段より更に濃い呪いを撒き散らしながら泥が燃えて蜘蛛君がその姿を現した。

あ、よかった。こないだの連中の顔から赤い髑髏に戻ってる。あれは流石に引かれるからな。


『スパイダー!?』

『なんだこいつは!?』


『キッキイイイイイイイイイイイキャアアアアア!』


『ぐああああああっ!?』

『ごほっ!? ごほごほっ!?』

『げほっ!?』

『ぎゃっ!?』


あ、蜘蛛君の全方位針飛ばしだ。かなりの数の新兵さん達に命中して、咳き込んだり吹っ飛んだりしてる。

ちょっと身動きできないくらい強烈な咳だから、皆さんもろに体当たりを食らっちゃったよ。


「デメリットが出たな。広範囲の攻撃に耐えられない者が根こそぎやられるんだ」


確かに。ちょっと弱い防御しか出来なかった人が纏めてやられてる。


『早い!?』

『神よ!?』

『ぎあっ!?』


そして残った皆さんも連携が崩されて各個撃破っと。蜘蛛君呪力特化だけど肉体の能力も結構高くて速いからなあ。猿君はもっとヤバいけど。


あ、鬼教官はもっとヤバいな。


『お前達油断したな!? 先人が言ったドタマに2発ぶち込めってのは冗談でも何でもないんだ! ましてや相手はモンスターなんだぞ! バラして灰にして川に流すまで油断する奴があるか! マーカス、何故油断したか言って見ろ!』


『勝てると思いました!』


『それを墓標に刻んでやる! ついでに間抜けここに眠るもな! それとお前達何故遮蔽物を作らない! おっと、ここが室内訓練場だからとか機動力重視なんて間抜けな言い訳はするなよ? 避けれてない上、魔法使いが盛った土をそこらに出しただけで、お前達の張った障壁よりずっと頼りになるんだぞ!』


「って言ってます」


「流石の心構えだ。それに土の壁か、あまり考えなかったな」


「一塊になってるウチは向うの障壁より強力だからあまり必要ないけど、散らばってたら単なる土でもとにかく何でも間に挟めって事ですかね?」


「ああその通りだ。やはり現代戦が根底にあるな。とにかく遮蔽物だ」


土で蜘蛛君の針が防げるかはともかく考え方の問題だろう。コンクリ抜けるかな? 今度試してみよう。


『次はB班だ! 尊い犠牲のお陰で情報が少し手に入ったぞ! A班間抜けを晒すな! B班が終わったらまた続けてA班だ! モンスターが万全の体調を待ってくれるわけがないだろう! 足腰立たなくなるまでやるぞ!』


おっと次は残った人達のようだ。蜘蛛君一旦式符に戻ってくれたまえ。


え? 向こうが足腰立たなくなるまで付き合わされるのかって? そりゃ当然さ。見学してるウチの人達も凄い勢いでノート書いてるでしょ? 新兵さん達もウチも皆が蜘蛛君のお陰で勉強できてるんだからさ。じゃあよろしく頼むよ蜘蛛君。

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