蜘蛛の苦悶1
昼休みの校舎屋上には暗黙の了解がある……。
そこで昼食を取っていい者……それは……
「はいあなた、あーん」
「あーん!」
カップルだけなのだあああああ!
でへ、でぇへへへへへへ
今もお姉さまお手製のお弁当を食べながら、食堂で今はゆ、友情が一番だからと自分を誤魔化してる連中に優越感を感じている。その友情、彼氏彼女が出来たらあっけなく崩壊するって知ってるぞ。
「おおおおおお姉さまあーん」
「あーん」
ダメだ今日俺は死ぬ。いや、今日もか。毎日死んでるから。朝昼晩と。
でへへ。周りの皆さん羨ましいでしょ! 学年一の、いや世界一のすんばらしい女性が奥さんなんですよ! 僕の奥さん!
「ご飯粒ついてるよ」
「え?」
「お昼は授業抜け出しちゃおっか」
「うん」
「卒業したら、その、結婚しないか?」
「うん! うん!」
「はい龍太あーん」
「こっちもあーん」
「私のもあーん」
「はは、はは」
クソがああああああああああああああ!
あいや、よく考えたら俺も同じ立場なんだ。もう去年までの俺じゃない。お前達許してやろう。
ていうか爽やか先輩マジで3人と付き合ってるよ。でもその箸にあるの俺のタール? どっかで漏れてたのかな? え? まさか食い物? いやまさか。え? 本当に? あのダークマター食わされて恨み値10とか聖人かな?
「あれはないわね……」
「で、ですよね」
他人に興味ないお姉さますらドン引きのダークマターだ。成仏しろよ先輩。
「やっぱりお姉さまの料理は最高です!」
「あら嬉しいわ」
あんなのと比べること自体失礼だが、お姉さまの料理は天下一品だ。しかも家事も全部完璧という女神様。いや、他者と関わらない生活を送らなかったせいで身に着けたと考えると何ともやるせないが……。その分この男貴明頑張ります!
◆
◆
◆
「急にすまないが、英会話に堪能な者はいるか? 出来れば異能の専門用語でも大丈夫ならなお助かるんだが」
本当に急ですね学園長。多分小耳に挟んだアメリカからの人達の話だろう。
「通訳を頼んだ者が妖異関連で緊急出動してな。ある程度はボディランゲージで分かるのだが……」
まじかよこの学園長。意外と何とかなるって聞いた事あるけど、あんたの場合筋肉言語じゃねえよな? 向こうも本場アメリカだからな。サイドチェストし合っただけでツーカーで出来るんじゃね?
「む、やはりいないか……」
何ってるんだ学園長。ここにいるよ。
「出来ます!」
「なに!?」
そんな大声で驚くなよ! ねえ皆さん、皆さん? どうして目を見開いてるんです? 僕一応主席ですよ?
「本当か?」
「勿論です!」
まあちょっとズルと言えばズルなんだが俺はマルチリンガルなのだ。
「お話聞くのが仕事みたいなとこありますんで」
「ああ、なるほど」
流石学園長だ。伊達に親父と付き合いがある訳じゃないな。今度飲み会のセッティングでもしてやるか?
「お姉さま見直しました?」
「あら、見直す必要ないくらい愛してるわよ」
すいません学園長、通訳の話無しにして今すぐ帰っていいですか? ちょっと胸の動悸が収まらなくて。
◆
◆
◆
「もう紙面で契約してるのにしつこくて申し訳ないが、こちらはこの学園の生徒達に訓練の見学を許可するだけで、無償で非鬼式符の使用許可を貰えるということで間違いないか? だそうです」
『勿論、世界初の異能養成所の動きを直に見れるのです。金よりもよっぽど価値があるのを頂いています。だそうです』
「そう言ってくれるとこちらもありがたい。是非実りある時間にしましょう。だそうです」
一番デカい第一室内訓練場に各学年の推薦組や、蜘蛛君の圧に耐えられると判断された一般の生徒が見学に訪れているが、それプラスでアメリカの60人位がいてもなお余裕があるとかやっぱ箱に金掛け過ぎっしょ。
「ちょっと待って話が違う。ボンキュッボンは?」
「ガチガチガチだらけだあ……」
その60人もほぼ全員アメフトのラインマンですか? って言うくらいの人達でも余裕という恐ろしさよ。
そして訓練場のほぼ中央で、学園長と向こうの代表の通訳をしているのが俺だ。いやあ、この若さで堂々と通訳してるなんて一体誰だって先輩たちが思ってますよ。なんか同級生の名家の皆さんは、裏口っていうより、普通の教科なら賢くて、色々手違いがあって推薦組に入れられたんじゃ? って視線になってますけど。まあ確かに手違いは起こりましたね……。
「いや貴明のおかげで助かった。何度説明しても理解して貰えなくてな」
ふふふ、感謝するがいい学園長。
俺は人間どころか犬猫に始まり、大自然そのものともやろうと思えば会話できるのだ。
何と言っても恨みを聞いてあげて、晴らしてあげないといけないからな。
これが邪神として生まれもっての能力って言うんだから、ひょっとして進む道間違えた? 今からでもペットショップに就職できるかな? それとも獣医? ワンちゃんに痛いとこ何処って聞けますよ?
「余所に貸し出す相場ってどのくらいのもんなんです?」
「海外は訓練用のゴーレムとか調整された召喚獣だったり、国毎に特色が違うから一概には言えんが、ヨーロッパの大鬼相当なら2~300万は余裕でする筈だ。それを踏まえ非鬼符が世界唯一という点を考えたら、1回の使用でも1000万はいくかもしれん」
「ひょえー。それをタダだったら疑いますよ」
蜘蛛君喜びたまえ。君の価値はなんと大体10分給で1000万だそうだ。学園長のせいでタダになったけど。
「だが彼等を見て学ぶことはそれ以上の価値があると私は思う」
やだ、教育者の鑑。
『こちらは準備出来た! いつでも始めてくれ!』
「あ、向こうさん準備できたみたいです」
見るとまずは半分の30人で始める様だ。
「そうか。では始めよう。カウントを頼む」
『ではカウントを開始します! 5,4,3,2,1』
さあ後輩の猿君に先駆けて世界デビューだ蜘蛛君!
『0!』
『キッキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア死死死死死死死死死死死死!』