25 エリアボス討伐
「このタイミングで新イベントか。……俺達とは関係ない……訳ないよな」
「だろうネ。エリアボスを倒した直後でイベントだからネ」
「”外なる界より再臨せし神”……か。そういえば二年前にも名前の似たイベントがあったけど」
「あったな」
確かクトゥルフ神話をモチーフにしたイベント”外なる界よりの来訪者”だったか?
少し違うが、名称が似ている。
まぁどっからどう考えても同じだろうなぁ……。
とはいうものの、このタイミングで同じイベント、しかも名前が違うのに、なんてことはないだろう。
多少なりとも違う箇所がある筈だ。
男子三人で会話していると、”女王”さんが「見て見て」と自分のステータスを見せてきた。
「これ、ステータスの覧にSAN値が増えてる」
「うへぇ……って事はやっぱりクトゥルフ神話の奴か」
「厄介というカ、面倒だネ。……ゾンビクイーンは違うけド」
「……うん。私には追加されてない」
うーむ、相変わらずこの手のイベントは人外が優遇されてるな。
SAN値がないとか楽過ぎる。
俺のステータスにもしっかりとSAN値のステータスが追加されてる。
正直見なかった事にしたい。
とはいえである。
「また”ティンダロスの猟犬”が手に入るなら有難いな」
俺の愛用の短刀”ティンダロスの猟犬”はその”外なる界よりの来訪者”でドロップしたモノだ。
「あ、そっか。オジサンの刀、そうだっけ」
「……”いらん子刀”……相変わらず使ってるの?」
なんだ? 悪いか?
便利だし安価で手に入った――今はイベント時期から暫く経ったので値は跳ね上がっているが――から俺は使ってるんだが。
AGIとLUKに補正入るし。……若干だけど。
とはいえ、俺の場合はこれで良いのである。クリティカルと即死狙いだからな。
「取り敢えず、外に出ようか」
ハルトの言葉に応じて、全員で辺りを見渡すと、玉座のあった筈の場所が、玉座がズレて下に階段が続いていた。
どうやら、出口まで続いているらしい。
俺達が階段を降りると、そこはピラミッドの中間部分だった。
「あー取り敢えず終わったー」
もうくたくたである。
俺がへばっている間も、余裕なのか李達は情報交換をしている、
「とはいえイベントが始まるヨ。またすぐに準備しないといけないネ」
「そうだね。SAN値の事も気を付けて装備を整えないと」
「そのイベント後にSAN値を減らせる薬が開発されてたよ。……ウチが独占してる状態だけど、その内NPCとかから出てきそうだから、随分楽になるんじゃない?」
え、そんな薬あるの?
しかも独占してるのかよレムナントが。
「私は一度レムナントに戻るけど……皆はどうする?」
”女王”の問いに俺達は顔を見合わせた。
行く場所は決まっている。
「俺達が此処に来たのは、鴆からの依頼だったからだし、一度朕項に戻って依頼の完遂だな」
「そうだネ」
「……ついてく」
俺達の様子を見たハルトは、ニコリと笑い、
「そうか、僕等はアイグロージに向かうからここでお別れだ。……楽しかったよ、また!!」
「じゃ、私も行こっかな。じゃあね、三人共」
「あぁ、また」
「バイバイヨー」
「……ん」
俺達は三組に分かれて、その場を後にした。
朕項にある鴆の店。
俺、李、ゾン子の三人は、鴆の言い付け通りに素材を持って来ていた。
取り敢えず拡張バッグの中に詰められるだけ詰めたので、流石に量が多い。
「えっと……ジャイアントスコーピオンの針に、鋏……それとアリゲーターから出た牙、鱗に……」
「ほうほう、ほうほう」
さっきから鳥の様に「ほうほう」と繰り返しながら、俺が取り出していく素材を鴆が確認していく。
その顔には笑みが浮かんでおり、随分と楽しそうである。
「……楽しいか?」
「楽しいね。いつだって新しい物を眼にする時は心が躍る。薬の素材になるとするなら尚更だ」
「掲示板とか攻略サイトには既に載ってると思うが……」
「馬鹿かお前は。こういうのは自分で探しながらやるのが楽しいんじゃないか」
左様で。
俺は生産職ではないので、そこ等辺の良さが全く以てわからんのだが、レシピ開発に嵌る人はどっぷりと嵌るらしいので、鴆もそうなのだろう。
でなければ生産職でここ迄レベルが高くなる筈がない。
「ほら、他のも出してくれ」
「はいはい」
急かされて、仕方なくバッグからどんどん素材を取り出す。
”神代王家の遺跡群”にいた魔物の種類は、既に過去で出現していた既出モンスターも含めて三十種類。
その分の素材を取り出さないといけないし、一体の魔物から数種類も素材がドロップするので、大変である。
「……なぁ、ボスのも提出しなきゃダメか?」
流石にボス素材を渡すのは嫌なんだが。
俺が尋ねると、
「ん、あぁ。ボス素材は構わんよ。提出しなくて良い。見せて貰えるか?」
「まぁそれ位なら」
俺はアイテム覧から、ボスの素材を取り出す。
光り輝く羽根に、同じく黄金に輝く王冠、”災厄の残滓”に……
「で、これで最後」
最後に、”万物を見通す眼”を取り出す。
「なんだこれは?」
鴆が不思議そうに”万物を見通す眼”を眺める。
そりゃ、俺達にもわからない。
「まぁ眼……だな」
鴆は”万物を見通す眼”を手に取り、触れる。
「目玉か。……とても眼には見えないな。どっちかっていうと鉱石か?」
触った感触は完全に石だ。叩けばコンコンと鳴る。
「預けるから調べてみてくれないか?」
「またか。……こういった類のは結局分からない事が多いんだが」
「頼むわ」
「……まぁ良いだろう。預かっておく」
鴆は”万物を見通す眼”を自身のアイテムボックスの中に入れる。
このゲームはどんなに高いレア度の素材だろうと、譲渡する事が出来る。
そこら辺も実に自由なゲームである。
「ご苦労だったな。……これは報酬だ。ギルドを通しての方が良いんだろうが、そうするとギルドに仲介料やら素材やらを取られるからな」
金の入った麻袋を三つ、俺達の前に出す。
「おう。遠慮なく貰うぜ」
俺達は鴆から報酬を受け取り、ミッション完了だ。
中を見てみると、結構良い額が入っていた。
ギルドに行けばボスの討伐の代金も貰えるし、暫くは働かなくても良いかもな。
……いや、イベントが既に始まってるから休む暇なんてないけど。