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24 ラー・ホルアクティ

「ぐぅぅぅぅぅっ!!」


 痛みで呻く様に巨体が揺らぐ。


「――うぉっ!!」


 巨体に取り付いていた俺は、それによって吹き飛ばされた。

 だが、空中で姿勢を整えて着地し――ようとして、無様にも着地に失敗して倒れてしまった。

 ラー・ホルアクティは、その巨体をどったんばったんと壁や天井に打ち付け、のたうち回っている。


「ナイスヨ! レキ!!」


 李が声を掛けてくれる。だが、俺の視線はラー・ホルアクティの方に向いていた。


「貴様ァ!! 我が眼を! 我が”万物を見通す眼”をよくも!!」


 おー怒ってる怒ってる。

 NPCなのに感情豊かなこった。


「――許さん。許さんぞ暗殺者ァ!!」


 ラー・ホルアクティはその巨体を怒りに奮わせ、杖を掲げる。

 すると、後ろに控えていた写し鏡から、大量の死霊が召喚され、今度は此方に飛んでくる。

 属性が光とかいっておきながら、結局は死霊を操るのね――というか、俺を狙ってくるのね。……って、そりゃそうだ。

 死霊はオートで追尾する性能を持っているのか、此方の動きに合わせて緩やかに追ってくる。


「――オジサン避けて!!」

「言われなくても――危ねっ!!」


 ”女王”が忠告してくれる。

 それに返しながらも、死霊の群れを、俺は前転して辛うじて避けた。

 昔にこんなゲームがあったっけな。

 他の連中を見ると、どうやら全員避けた様だった。

 狙われているのは俺だとしても、他の連中にも当たるかもしれないしな。

 最早空を飛ぶ事すら忘れて、ラー・ホルアクティは杖を構えて殴りかかってくる。


「――また、かよ!!」


 俺はそれをまたも前転で躱し、前線にいた李もハルトもアヤも、それぞれ見事に避ける。

 転がってるのは俺だけかい。まぁ良いけども。避けられれば何でも良いし。


「――撃鉄を起こしなさい! 【カノン砲】!!」

「凍てついた杭よ、我が敵を穿て! 【アイスパイル】!!」

「……【ダークボール】」

「光よ、我が敵を貫き、清め給え! 【ホーリーブレード】!!」


 相手の攻撃が当たらない位置にいた四人の攻撃は、今度は見事にラー・ホルアクティに当たった。


「当たった!!」


 アオイが嬉しそうに叫ぶ。

 どうやら”万物を見通す眼”である左眼を潰した事で、攻撃を事前に察知する事は出来なくなったらしい。

 当たるならこっちのものだ。

 左眼を潰した事で、漸っと相手を倒せる道が見えたのだった。






「――次、薙ぎ払いだよ!! 後退して!」


 ”女王”さんの指示で、俺達は一斉に下がる。

 攻撃には一定のパターンがあり、それを相手の直前の行動から何となく予知出来るようになっていた。

 ……つまりは予知出来る位には苦戦しているし、それだけ長い間――多分時間にしたらそれでも数十分程だろう――戦ってるって事ではあるのだが、それが出来る様になって随分楽になった。

 どうやら左眼を潰した事で怒り状態に入り、術での攻撃から近接戦闘重視に変わる様だ。

 動きも怒りで随分単調……というか分かり易いものになったし。


「――次、縦!」


 おっと、今度は縦攻撃かい。

 ラー・ホルアクティが杖を縦に振り下ろす。

 それを避けて、其々がスキルで攻撃する。

 相手のゲージは残り後少しというところまで来ていた。


「えぇい! ちょこまかと鬱陶しい!!」


 いや、お前の図体がでかいだけだろ。

 その後も攻撃しては避け、攻撃しては避けを繰り返し、そしてとうとうその時が訪れる。


「――【火炎斬】!!」


 ハルトの一撃で、ラー・ホルアクティのHPがゼロになる。


「オォ、オォォ、オオオオオオォォォォォォ!!」


 ラー・ホルアクティの巨大な身体が再び光に包まれ、元の人型に戻ると、バタリと地面に倒れ込む。

 それと同時に、


『エリアボスが討伐されました』


 というメッセージが目の前に現れる。

 恐らく全プレイヤーにもメッセージが行き渡っているだろう。


「おのれ、おのれっ!!」


 だが、倒れた筈のその口からは、未だに俺達への呪詛が漏れる。

 どんだけ恨まれてるんだよ俺等。


「貴様等に、この神聖なる墓所を――我等が国を犯されてなるものか! ――かくなる上は!!」


 ニトケルティが最期の力を振り絞る様にして杖を天に掲げる。

 すると、


 パリィィィン!!


 と甲高い音を立てて、ニトケルティの背後に浮かんでいた写し鏡が割れる。

 そしてそこから、幾つもの黒い影が現れ、ケタケタと笑い声を上げながら天井を擦り抜け、天へと昇って行った。

 俺達はそれを呆然と見上げる。

 まるで、パンドラの箱から災厄が出てきた様な、そんな不吉な光景だった。


「ハハ、ハハハ――ハハハハハハ!!」


 広大な空間に、ニトケルティの狂った様な笑い声が響く。


「我が鏡に封じられた災厄達が解放された! それに触発され、時期にこの地にかの者が再び舞い降りよう!! 後悔するが良い! 貴様等に災いあれ!!」


 そう言うと、ニトケルティは動かなくなり、光となって消えた。

 俺達の間に、何だかマズい事をしてしまったかの様な、何とも言い難い雰囲気が立ち込める。

 ……まぁ良いや。取り敢えず、ザコ的を含めたドロップアイテムを確認しよう。

 俺達はドロップアイテムを確認する。


 ”災厄の残滓”


 ……うむ、例の”ゴミアイテム”か。だからこれはなんなんだ?

 これはザコ敵からドロップした。


 ”ホルスの翼”や”王の王冠”等のボスドロップに混じって、一つ気になるモノがあった。


 ”真実を見通す眼”


 俺が壊した、ニトケルティの眼だ。

 ドロップ数は全員を合計して八個。どうやら倒した全員に配られたアイテムの様だ。

 俺はそのアイテム詳細を見てみる。

 そこには


『ボスドロップアイテム。ウジャトの眼またはホルスの眼といわれる謎の物質。ありとあらゆる全てを”視認”する事が出来ると言われているが、用途は不明』


 と書かれていた。

 用途は不明?

 なんじゃこりゃ。

 俺達は顔を見合わせる。

 全員、これをどう使えば良いのかわからない様だった。

 そして、そんな俺達の空気を引き裂く様に、突如、こんなメッセージが表示された。



『”勇者”ハルト及び”情報屋”李の合同パーティーによるエリアボスの討伐を確認しました。ボス討伐により、イベント”外の界より再臨せし神”をスタートします』





 ……やっぱり倒すのマズかったんじゃないのか? これ。




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