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一話で敵が無双。二話で主人公が無双します。
異世界ミッドナイト。
この世界の法則はスキルとステータスによって支配され、人々の人生はそれに大きく左右されていた。
いや、むしろそれだけで決まっていたと言ってもいいだろう。
そんな世界において、創造神から圧倒的なステータスと強力なユニークスキルを与えられた異世界転生者や異世界転移者達が現地人からチートと呼ばれるのはそれほど不自然なことではない。
この世界に現存するチートは全部で五人。
俺TUEEE、内政、隠居して職人、ハーレム、そして魔王。
彼らはそれぞれが思い思いの理想を形にして人生を謳歌していた。
リプロ=スマートもそんな一人だ。
異世界転生をした彼は大陸の南東にあるアルゼブラ王国で侯爵の地位を得るに至った後、数十人の美女を集めたハーレムを作り生活していた。
「リプロ様。紅茶とチョコレートケーキです。」
「ありがとう」
リプロの前の白いテーブルに、金髪を結わえたメイドが紅茶とチョコレートケーキを差し出した。
彼は今、大きな屋敷の庭で数人の美少女達と一つのテーブルを囲んでいる。
彼女達にも他のメイド達がチーズケーキや苺のショートケーキを持ってきた。
ちなみにこのメイド達も含めて屋敷に常駐している者は全員がリプロのハーレムの一員だ。
「リプロってば、いまロゼのことやらしい目で見てたでしょ?」
正面に座った銀髪の少女が頬を膨らませた。
どうやらリプロが自分にケーキと紅茶を持ってきたメイドの絶対領域をさり気無く観賞していたのに気が付いたらしい。
「もう! 今は私達の番なんだからね?!」
「はは。ごめんごめん」
私達の番、というのは今が彼女達がリプロと一緒に過ごす時間という意味だ。
順番を決めておかないと毎日のようにリプロの奪い合いが発生してしまうのでそういう決まりになった。
そして今は彼女達魔導士三人組の時間ということだ。
少なくとも今は”メイド達の時間”ではない。
「リプロ様、私が食べさせてあげますね?」
左側に座っていた青髪の少女が椅子ごとリプロの横に移動した。
チョコレートケーキを一口分とってリプロに差し出す。
「はい、あーん」
「あーん」
リプロは差し出されたそれを慣れた様子で口にした。
「おいしいですか?」
「うん。ルナに食べさせてもらうとなおさら」
「えへへ」
ルナと呼ばれた少女の顔が満足そうに赤くなった。
「それじゃあ紅茶は私が飲ませてあげるね?」
その間に椅子と一緒にリプロの右横まで移動した赤髪の美少女が彼の紅茶に口を付けた。
「んっ……」
右手でやさしくリプロの顎を上げて被さるように口づけすると、そのまま口移しで器用に紅茶を飲ませていく。
「……おいしい?」
「紅茶っていうよりレダの味がする」
リプロがそう答えると、彼女の赤くなっていた頬が一層赤みを増した。
「そう? じゃあもっと飲ませてあげる」
もう一度紅茶を口に含もうとしたところでルナがリプロを奪い取るように割り込んだ。
「レダさんズルいですよ、順番です。今度は私がリプロ様に飲ませてあげますから。ねっ、リプロ様?」
両側から美少女二人がリプロを取り合う様子を見ながら、正面にいた銀髪の少女がワナワナと震えている。
「あんたたち……。なに当たり前のように抜け駆けしてるのよっ! 次は私! 私が食べさせてあげるんだからね!」
銀髪の少女がそう叫んだ時、日光が減衰し、雲一つない青空が暗くなり始めた。
「わわっ! アルテイシアさん、ダークワールド発動しちゃってます!」
ルナは日食が始まったのに気が付いて慌てた。
チートであるリプロと身も心も結ばれたことで、魔導士である彼女達の力も大幅に上昇している。
アルテイシアと呼ばれた銀髪の少女の魔力も、チート以外の魔導士では最高クラスと呼ばれるほどになっていた。
その彼女の得意な魔法系統は闇。
日の沈んだ夜にこそ最高の威力を発揮できる系統である。
ダークワールドとは日食を起こすことによって昼間でも威力を損なうことなく闇系統を使えるようにする魔法だ。
これを使うことによって、アルテイシアは昼夜を問わずに全力を出すことができる。
「ちょっと待って、これ、私じゃないわよ?」
「……え?」
日食に気が付いたアルテイシアが自分の関与を否定した。
「じゃあ……、リプロ様?」
アルテイシアに否定されたルナがリプロを見る。
リプロ陣営の中でアルテイシア以外にこんなことができるとすれば彼しかいない。
「いや、俺も何もしてないよ? ……もしかしたら気づかないでやっちゃったかもしれないけど」
彼が気づかずにやらかしてしまったエピソードならいくらでもある。
当時王国最強と言われていた魔導士をただのボケ老人だと思って優しく打ち負かしてしまったとか、かつて絶対防御を展開した世界最強のゴーレムだと知らずに見習い魔導士達に初等魔法を実演して見せるための的にして壊したとか、そんな感じだ。
「横にいたけどリプロから魔力は感じなかったわよ? 他にこんなことができるとしたら……、魔王ノエルとか?」
レダがリプロの関与を否定するついでに他の候補をあげてみた。
魔王ノエル=コーダー。
彼もまた転生者だ。
他のチート達はこの類の魔法を使わないので、この日食を起こしているのは彼か、あるいは彼の陣営の有力者だとレダは推測した。
むしろそれ以外に候補が思いつかない。
そんなことを話している間にも日食は進んで行き、やがて太陽は全体を隠されてしまった。
代わりとして日光を飲み込む暗黒が黒紫の輪郭を僅かに浮かび上がらせている。
「これは……」
見上げたアルテイシアの視線の先で、漆黒の太陽から数十、数百の黒紫の光が地面に降り注いだ。
「リプロ様、怖いです」
「私も……」
ルナとレダが両側からリプロの腕に抱き着く。
「だから抜け駆けは――」
――ドンッッッッ!!!!!!!
「え?」
リプロにくっついた二人に気が付いたアルテイシアが叫びかけた時、降り注いだ黒紫の光の一つが屋敷の庭に着弾した。
方向はアルテイシアの背後だ。
全員彼女以外の全員の視線がその方向を向いた。
屋敷の中にいる人々も外に出たり、窓から顔を出したりして何事かと様子を伺っている。
もちろん彼女達も全員がリプロのハーレムの一員だ。
「リプロ様! 何事ですか!」
音を聞きつけて、屋敷の中から騎士隊長を任されている美女が飛び出してきた。
その髪は少し乱れている。
リプロに朝までタップリと愛でて貰った後、そのまま力尽きて寝ていたからだろう。
彼女はリプロと違って睡眠不要や疲労無効化のスキルは持っていない。
「隕石かな?」
リプロは呑気に答えたが、もちろんそんなわけがない。
着弾した付近の地面は抉れてしまっているが、隕石だとしたらその範囲が狭すぎる。
「ねえ、あれ! 誰かいるわ」
土煙の中を凝視していたレダが指差しながら叫んだ。
確かに収まり始めた土煙の中で人影らしきものが動いている。
ガチャ……。
「……スケルトンナイトみたいね」
アルテイシアが呟く。
土煙の中から鎧を鳴らして出てきたのは、彼女の言う通り騎士の格好をしたスケルトンだった。
「なんだ、スケルトンか」
ミッドナイトでは下級モンスターとされるスケルトンが出てきたことで、リプロ達の警戒心が一気に緩まる。
リプロはもちろん、彼と交わることで力を手に入れた彼女達にとってはスケルトンなど相手にもならないからだ。
ついでに言えば、この世界のスケルトンは話すこともできなければ知能も低い。
まさに雑魚モンスターの代名詞とも言えた。
「ここまで飛ばされて来たんでしょうか? だとすると、これはやはり魔王ノエルが?」
ルナはスケルトンから目を話してリプロを見た。
彼女も、もはやスケルトンのことは眼中にない。
「うーん。もしかすると、あのスケルトンは伝言役かもしれないな。リリエナ、何か手紙とかは持ってそうにないか?」
「流石はリプロ様! 気が付きませんでした。すぐに確認します!」
リリエナと呼ばれた騎士隊長がスケルトンに駆け寄った。
そしてリプロの言った通りに手紙の類は持っていないか探し始めた。
「目障りだ」
カシュ!
「……?」
肉眼で捉えきれない速度でスケルトンナイトの剣が抜かれ、リリエナの首が飛んだ。
「リリエナ!」
昨晩自分が抱いた女の首が飛ばされたと気づいたリプロが叫ぶ。
周囲も即座に臨戦態勢に移行した。
これでも一応は武闘派として成り上がって来た一派である。
その辺りの切り替えは速い。
ハーレムの中でこそリリエナはリプロを奪い合うライバルだが、それでもかけがえのない仲間だ。
そんな仲間を殺されて喜べるわけもない。
「気を付けて! 普通のスケルトンじゃないわ!」
叫ぶレダ。
「わかってる! ルナ! レダ! 俺がリリエナの仇を討つ! 離れてろ!」
「リプロ様の本気……」
ルナはリプロが以前全力を出した際の被害を思い出して青い顔をした。
スケルトン一体には過剰だとしか思えなかったが、それだけ怒り狂っているということだろう。
「レダ! 巻き添えにならないように結界を張るわよ!」
「わかってる! ロゼ! みんなを下がらせて!」
「わかりました!」
アルテイシアとレダが手早く結界の準備を進め、メイド長のロゼがみんなをその後ろに避難させた。
「ルナ! 私達だけじゃ足りない、手伝って!」
「はいっ!」
レダ、ルナ、そしてアルテイシア。
三人の魔導士達は屋敷を覆うようにして結界を張った。
「リプロの全力、これで余波は防げると思うけど……」
先程までとは打って変わって、レダの表情は真剣そのものだ。
リプロが直接彼女達を狙うことなど考えられないが、リリエナを失ったリプロが感情のままにリミッターを外せば、余波だけでも被害が出る可能性は十分にある。
彼女の関心事は早々にスケルトンナイトでは無くなっていた。
視線の先ではこのミッドナイトにおける五大チートの一人、リプロ=スマートがその力を開放し始めている。
「死ぬ前に言い残すことはあるか?」
リプロは全身から魔力を開放しながら漆黒の鎧に身を包んだスケルトンナイトを睨んだ。
「この世界はハエが多いな」
そう言うと、スケルトンナイトは剣の腹に乗せるようにしてリリエナの胴体を横に投げ飛ばした。
「お前……!」
リリエナが粗末に扱われたのを見てリプロのボルテージがさらに急上昇していく。
「もう許さない。懺悔の時間もなく殺してやる! 我が秘められた力よ、真の姿を開放せよ! ペインドライブ!」
リプロが叫んだ直後、彼の体から大量の魔力が溢れ出した。
「すごい……、なんて魔力なの……。前より大きくなってるじゃない」
アルテイシアが息を呑む。
「ペインドライブは心の震えに比例して魔力を増幅させるリプロ様だけのユニークスキル。きっとリリエナさんのことをそれだけ大事に思ってたってことですね。不謹慎ですけど、少し妬けちゃいます」
「見て! 魔力の密度が高すぎて、何もしないのに浮いてるわ!」
レダが指差した先では宙に浮いたリプロが両手に光球を作り始めていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
解放されたリプロの魔力が空気と大地を震動させる。
「一応聞いておく。お前、魔王ノエルの部下か?」
「ノエル? ……知らぬ名だ。私は魔王リバーセルの傘下に入るためにここに来た」
「そうかい!」
リプロがリバーセルという名を聞いたのは今回が初めてだ。 だが聞いたことがないということは大したことがない相手だと判断した。
(警戒するべき魔王は同じチートの魔王ノエルのみ! それ以外のゴミに遠慮はいらない!)
「うおおおおおおお!」
リプロは右手に作った赤い光球と左手に作った青い光球を頭上で合わせた。
赤と青が混じって強烈な光を放つ。
「フォトンノヴァよ! みんな伏せて!」
アルテイシアが叫ぶ。
この世界でリプロだけが使えるユニークスキル、フォトンノヴァ。
一対の反発する性質を持たせた光を無理矢理融合させて敵に叩き込む。
単純な攻撃力だけで言えば間違いなくミッドナイト最強クラスのスキルだ。
他のチート達ですら直撃すればタダでは済まない。
「跡形もなく吹き飛べ! フォトンノヴァ!」
シュイン! ドンッッッッ!!!!!!
リプロの放った光球がスケルトンナイトに直撃して弾け、眩い光と共に大爆発を起こした。
大地を揺らし、土が天高く舞う。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
メイド達が思わず叫ぶ。
この世界においては規格外の存在であるリプロの魔法を見慣れた彼女達にとっても、この威力は異常だった。
「あれだけの魔力をあんなに狭い空間に収束させるなんて前代未聞だわ。……魔法学の歴史がまた変わってしまったわね」
「仕方ありませんよ。だってリプロさんですから」
ルナがレダの顔を見て微笑んだ。
「ふうっ……」
リプロは一息つくと、先程投げられたリリエナの遺体を見つけた近づいた。
「ごめんな、リリエナ。でも仇はちゃんと取ったから」
彼はリリエナの首を魔法で引き寄せると、それを胴体につなげた。
流石のリプロも死者の蘇生まではできない。
できるのは傷を治して元の綺麗な体にしてやることだけだ。
リプロはリリエナをお姫様だっこすると、屋敷の方に向かって歩き始めた。
「リプロ様ー!」
ルナ達も結界を解いて彼に駆け寄ろうとした、その時。
……ドスッ!
「――!」
「リプロ様!」
リプロの腹部を漆黒の魔力で構成された矢が背後から貫いた。
「ぐっ……」
痛みでリリエナを取りこぼし、リプロ自身も地面に崩れ落ちる。
(なんで……?!)
リプロは痛覚遮断のスキルを持っている。
ダメージを受けた時は自動で発動して痛みを感じなくさせてくれるのだが、なぜかそれが機能していない。
この世界に転生してから初めて経験する強烈な痛みに抗うこともできず、リプロは即座に戦闘不能に陥った。
ガチャ……。
背後で鎧が鳴る。
「見て!」
「そんな……。リプロのフォトンノヴァが直撃したのに……」
レダの指差す方を見たアルテイシアは絶句した。
収まり始めた土煙。
その中から姿を現わしたのは、傷一つ負っていないスケルトンナイトだった。
リプロに一撃を食らわせたのもこのアンデッドで間違いないだろう。
「嘘……。ありえない……」
レダも敵が無傷であることに気が付いて目を見開いた。
リプロに駆け寄ろうとしていた足が思わず止まる。
「リプロ様! しっかりしてください! リカバーフル!」
スケルトンナイトに注意を払っていなかったルナだけがリプロに辿り着き、彼に回復魔法を掛けた。
瀕死の重傷でも数秒で完治する強力な魔法だ。
「うあああ!」
だがリプロは悲鳴を上げた。
「そんな! どうして!」
リプロの腹部の傷は、ルナの魔法を受けてもまったく治る気配を見せない。
まるで治癒に抵抗するかのように痛みを増しただけだ。
カチャリ……。
「えっ……?」
カシュ!
焦って再び回復魔法を掛けようとした瞬間、ルナの首が先程のリリエナと同じように飛んだ。
「ルナ!」
首を刎ねたのはもちろん例のスケルトンナイトだ。
彼は一瞬の間にルナ達の横に移動していた。
未だ収まらない土煙だけが彼の移動した軌跡を捉えることに成功している。
「よくもリプロとルナを! 地獄の業火よ! 火球となりて敵を滅ぼせ! アカシックフレイム!」
冷静さを失ったレダがスケルトンナイトに強烈な火球を放つ。
「私だって! 絶対に許さないんだから! 根源無き闇よ! 全てを食らい尽くせ! ダークレイ!」
アルテイシアもまた漆黒の光線をスケルトンナイトに打ち込んだ。
リプロには劣るとはいえ、二人の攻撃はどちらも非常に強力だ。
……そう、あくまでもこの世界の基準では。
「目障りだな」
ボシュッ! バシュ!
スケルトンナイトは面倒そうに腕を振って二人の魔法を造作無くかき消した。
「嘘……」
「そんな……」
それを見たアルテイシアとレダは再び絶句した。
これまで彼女達が手も足も出なかったのはリプロや他の転生者だけだ。
その彼女達の攻撃がこうもあっけなく捌かれてしまうとは。
「まさか……、こいつも転生者なの?」
レダが考えられる可能性を口にした。
人間以外への転生といえば魔王ノエルという前例がある。
下級モンスターであるスケルトンがこれほど強い理由があるとすれば、彼女にはそれしか考えられなかった。
「でも……、だってリプロのフォトンノヴァが効かなかったのよ?! いくら転生者だって、そんなことあるわけが……」
だがアルテイシアはその可能性を否定した。
仮に転生者だったとして、同じ転生者であるリプロの最強の攻撃を受けて無傷でいられるとは思えなかった。
「よくも……、ルナを……」
地面に這いつくばったリプロがスケルトンナイトを睨む。
「リプロ! 待ってて、今助けてあげるから!」
「アルテイシア様! 私達も戦います!」
「ロゼ……、それにみんなも……」
苦しそうなリプロを見て叫んだアルテイシアの横に武器を持ったメイド達が並んだ。
さらには屋敷を守る騎士達も到着している。
彼女達は隊長であるリリエナの遺体を確認して唇を噛んだ。
「遅れて申し訳ない! だが我らが隊長の仇は必ず討つ!」
「みんな……。いいわ、みんなでリプロを守ってルナとリリエナの仇を取りましょう!」
「行くぞ! 突撃!」
スケルトンナイトに殺到する美女達。
彼女達は愛する男を守るため、そして失った仲間の仇を取るために牙を向いた。
「争奪戦の前に、まずはゴミ掃除をせねばならんか。……面倒なことだ」
スケルトンナイトは面倒そうに剣を振った。
ドンッ!
まるで砲弾でも着弾したかのような音と共に、魔力が込められた突風が発生した。
初めて見る形態の攻撃を食らったアルテイシア達があっけなく吹き飛ぶ。
「リプロ……、さま……」
辛うじて息のあったロゼが愛する男の名を呼んだ。
他のみんなもまだ生きてはいるようだが、激しく体を打たれて動けない。
「みんな……」
リプロは絶望の声を上げた。
アルテイシアが、レダが、ロゼが、メイド達が、女騎士達が。
彼のハーレムを構成していた美女達全員が、目の前で危機に陥っている。
リリエナやルナと同じ道を辿ろうとしている。
悔しさで拳を握りしめる。
かつてないほどの怒りが湧き上がってくる。
その想いに応えるかのように、リプロは新たなユニークスキルに覚醒した。
「う、うおおおおおおおおおおお! フォトン! スパァァァァァク!!!」
リプロは痛みに抗って体を起こすと、全身に光を纏い自分自身を弾丸にしてスケルトンナイトに突っ込んだ。
「リプロ!」
敵に立ち向かうリプロの姿に、アルテイシア達が再び希望を取り戻す。
その威力は先程のフォトンノヴァを大幅に超えているのがわかったからだ。
「死ねええええええっ!」
今までとは桁違いの力でスケルトンナイトに迫るリプロ。
残りの距離はあと数センチ。
今度こそこいつを倒せる、そう確信した瞬間、耳に敵の呟きが届いた気がした。
「システム頼りでは……、所詮この程度か」
ザンッ!!!!
「――!」
一刀両断。
リプロの全身全霊をかけた一撃は敵を焦らせることすらできず、無残に斬られるために自分の身を差し出すだけの行為として終わった。
「そん……、な……」
リプロの最強の攻撃が効かない。
そしてリプロの死。
アルテイシア達の顔は再び絶望に包まれた。
「……これで少し静かになったな」
屋敷の庭に転がったリプロ達の死体。
スケルトンナイトはまだ息があるアルテイシア達をどうしようかと考えた。
害虫の駆除作業というのはやろうとすると案外に億劫なものだ。
「あるいは他の参加者を探しに……、ん?」
……ドンッ!!!
スケルトンナイトがこの場から立ち去ろうとした時、漆黒の太陽からもう一つ黒紫の光が屋敷の庭に落ちてきた。
「……これは幸先がいい」
それを見たスケルトンナイトは喜びの声を上げた。
新たに立ち上がった土煙の中から、モッズコートを来た黒髪の少年が姿を現わす。
その格好は明らかにこの世界のものではなく、その手にはなぜか燭台を持っている。
少年もまたスケルトンナイトの視線に気が付くと、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あれが最初の獲物か」