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95 プレイヤーたちの会議

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 酒盛りしながら生産していたのがよくなかったのか、酔いつぶれたディオディオを介抱していると、ぴろん、とメッセージの着信音が鳴った。

 誰からだろう。まあ選択肢なんてほぼないが。


「あれ、サカイ君からメッセージだ」


 ドラゴン退治にご一緒しませんか? は?


 読みすすめていくと、複数のパーティーがクラン設立用のドラゴンの鱗を求めて共闘するそうで、そのためのミーティングで武器などを売らないか? ということらしい。

 参加してもしなくても最近作ったもの全部買い取る、と書いてある。


 どうしようか、別にいかなくてもいいのだが。酒瓶を手放さずに寝こけているディオディオを見ると、たまには使い手の面接をするのもいいのかもしれない。

 よし、そうと決まればトンデモ装備を回収するか。


「どこ行くの~?」


「ドラゴン退治らしいぞ」


 パッセルがつついているツマミ以外をかるく片付けていると、フェアリーズも『洗浄』をかけて回ってくれる。しかし、私がいきなり掃除をしはじめたのを不思議に思ったらしく、理由を聞かれた。

 とくに隠す意味もないので話すと、フェアリーズは半眼になる。


「アホなの~?」


「おめでたいの~?」


「ドラゴンなんて倒せるわけないじゃんじゃんじゃん」


「えっ? でも、クランを設立するのに鱗がいるんだろ?」


 NPC(じゅうにん)でも変わらない条件だったと思うのだが。問いかえすと、やれやれと小さい肩をすくめられる。

 呆れているのはわかるからさっさと解説をくれ。そのぷにぷにほっぺをつつくぞ。


「分けてもらうのだ~!」


「頼めばくれるよー。イタズラすると怒るけど」


「ジザケをお土産にするとよろこぶよ~」


 わちゃわちゃとアドバイスをくれるあたり、フェアリーズはドラゴンと仲良しなのかもしれない。

 フェアリーズの話をまとめれば、だいたい現実で伝わるドラゴン像と同じく、酒と女と光り物に弱いらしい。


「なるほど。サンキューな。菓子はかならず買ってくる」


「期待してる~」


「セルちゃん見張りよろ」


 テーブルで寝こけていたと思われていたパッセルは、いつのまにか起きていたようで、任せろとばかりに胸をふくらまし片方の翼をあげる。

 なかなか有用そうなアドバイスをもらったみたいなので礼を約束すると、今回菓子を持ってこなかったのがそうとう響いたようでパッセルに見張られることになった。

 戦力を期待してもいいんですかね?





 待ち合わせは最初の街、アインの商業ギルド二階の会議室。

 ランクをまじめに上げていれば使えるようになるらしい。サカイ君が借りたのかな? ミーティングのセッティングとかも得意なんだろう、顔も広そうだし。


 指定された会議室に入ると、大きな円卓があり資料が並べられている。適当に席についていいのか? あ、名札があるな。隣は鍋さんとサカイ君だ。

 知り合いが隣でよかった。ふかふかの椅子に腰かけ資料にざっと目を通すと、私の知り合いが多そうな感じだ。


 参加者名簿の『A×6(ヘキサ・エース)』と『竜の軍歌』は聞きおぼえがあるし、部屋の奥でサカイ君と話しているのがそうだろう。『萬屋』と『スターダスト』は知らないな……。

 と思ったが、メンバーを詳しく確認すると『萬屋』はサカイ君や鍋さん、クーゼさんが入っているあたり生産職をまとめている感じだ。『スターダスト』もパース、八ツ橋など見覚えがあるな……?


「ジャンさん、お久しぶりです。ジャンさんのことですから、来ないかと思いましたよ」


「気が向いたからな。しかし、聞いてはいたが大所帯だな」


「ええ。お知らせしたとおり、ドラゴンの討伐ですからね。あ、最後のクランもきましたよ」


 最後のクランは……、やはりギーメルで割とよく会う少年少女たちかい。これは面接する必要性ないかもしれない。

 内心おどろきつつ、全員が所定の席について会議が始まるようだった。

 ざっと自己紹介されたが、関わりがうすい人たちのはぜんぜん覚えられない。


「お集まりいただきありがとうございます。僭越ながら、今回は『萬屋』のサカイが進行を務めさせていただきます。最初に今回の目的、情報共有、日程調整、各種アイテム販売、報酬調整の順で進めます。商品に関しては、まあ三人を除いて僕が委託という形になりますが」


 ぺこりとサカイ君がお辞儀をすると、サカイ君の隣のグレンさんが立ち上がる。爽やかな笑顔をうかべるイケメンぷり。爆発しないかな。


「今回はクランを立ち上げるにあたって、四つのパーティーが協力することになった。目標は四枚の上位竜の鱗。どうせなら最高のクランランクを取ろう、ということで今回集まってもらった」

 

「みんなも知っていると思いますが、掲示板の方の情報をまとめてきたものを配ります。それぞれ目を通していただけますか」


「この情報は伝説に名を刻んだ上位のドラゴンだと考えられる。事前にサカイを通じて出してもらった情報も載せたので確認してほしい」


 ぐるりと横に回ってきた資料は、どれもドラゴンに関する情報だ。しかし、フェアリーズの情報が抜けている。これ伝えないとマズいかもしれん。

 情報提供に関するメッセージ見るの忘れてた。そんな思考をよそに会議は進んでいく。


「悪いんやけど、この資料やと東西南北の果てにドラゴンがおる、とあるんやけど、東と西の果てなんぞあるんかい?」


 竜の軍歌の女傑(じょけつ)が資料をひらひらさせて尋ねると、情報提供者だろうスターダストの面々が顔を見合わせた。

 まあ、見た目どおり学生だろうから、詰めが甘いのは仕方がないかな。サカイ君も「しまった」という顔をしていたし。


「……ゲームだから地面が平らとか。そういう設定ないかな?」


「いや、聞いたことない」


「……検証班に尋ねておきますね。地球(リアル)で方法が確立されているから早いハズですし」


「まあ、じゃあ今回は北か南のドラゴンの攻略だな」


 そんなこんなでグレンさんが探す手間が少なそうな南北のドラゴンに標的をさだめた。みんな、特に異論はないようだ。


「となると、北がトゥザッティ、サメク。南がシン、アイン、がヒントか。対応的には、サメクとアインは街の名前だと思うが」


「ドラゴンの試練というのがあるらしい。内容は現在調査中だが、主に戦闘力によって突破したようだ」


「あ、私も情報がある。ドラゴンの鱗は交渉でもらうらしいぞ。あと、サメクの街なら行ったことがある。案内できなくはない」


「「「はああああああああ!?」」」


 私にも聞き覚えのある地名があったので、情報提供してみる。するとめちゃくちゃ注目を集めてしまって驚く。

 そんなに阿鼻叫喚なのは不本意なんだが。サカイ君、手を目にあてて上を見上げるなよ、なんか私に責任があるように感じてしまうだろ。


「それ、どこ情報だよ?」


「待て、もしかして初到達者はお前なのか!?」


「初だったと思う。情報はフェアリーたちが教えてくれたぞ? あいつらはああ見えて長生きだし物知りだ」


「「「嘘だッッ!」」」


 納得がいかないのはよくわかるが。私もあいつらが私より年上だなんて信じたくなかった。

 え? 違う?

 フェアリーズはそもそも何かを教えてくれることなんてない? 私はけっこう色々教えてもらってるんだが……。


 ちょっとした混乱が収まり、物資の調達や日程の調整などをする。

 ドラゴンの好物に関してはすでに他の者たちも知っていたようで、サカイ君が確保に動いているらしい。

 私がサメクの街とダンジョンの位置を教えると、みんなが頭を抱えた。徒歩で海を渡ったのが信じられないとかなんとか。だって凍っていたし……、私は悪くないと思う。


 とりあえずサメクの街に現地集合らしい。全員が転移許可証をゲットしたら再度日程調整をしよう、となった。


「えー、トラブルもありましたが、ミーティングはここまで。休憩を挟んでアイテム販売に移ります」


 ゲームでも長時間の議論はやはり疲れる。ぐったりしたサカイ君は一度休憩をはさみ、こめかみを揉みながら私に商品を確認してきた。


「ジャンさん、アイテムを売って下さると聞いていますが、値付けできてますか?」


「もちろん、できていないに決まっている」


「駄目じゃないですか!!!」


 いつもサカイ君に任せていたんだから仕方がないじゃないか。今から作品を並べるから値付けよろしく。

 「なんだこの杖えええええ!?」「ラームス・ディオニシウスと共同生産!? この人伝説の職人じゃないですかあああああ!?」「待ってまな板!?」などなど、なかなか騒がしい鑑定書の発行だった。


「まな板は鍋さんにあげるから、一つは返してくれ。値札に鑑定手数料も上乗せしといてくれるか? それから、魔力を最初に通した人が自動的に持ち主になるから気をつけてくれよ? あと、素材なんだけどこれ」


 注意事項を伝えながら世界樹のぎんなんもボウル二つ分ほど出す。

 私は鍋さんのところで料理を買うという使命があるから早急に現金が必要なんだ。

 ……ものすごい金額を渡されてしまった。死んだ目で渡さなくてもよくないか?


「あといい感じの刀を頼む。新調したい」


 渡されたばかりのお金を支払い、藤色の鞘が美しい短めの刀を手に入れた。大事に使おう。長持ちしてくれよ……!

 抜け殻になったサカイ君の肩をたたき、鍋さんを探す。

 鍋さんは、サカイ君とほどよく離れた場所で商品をセッティングしていた。冷めてしまうだろうに。近づいて声をかけると、商業ギルド内だと屋台機能が使えるようだ。なるほど便利。

 納得しながら鍋さんのところでまな板と残りのぎんなんを渡し、フェアリーズの好きそうなものを出してもらう。


「鍋さん、悪いんだけど菓子を先に売ってもらえないか? 味と新しさ重視で」


「いいよ。特殊効果とかは気にしないのかい?」


「フェアリーズが鍋さんの料理のファンなんだ。私が作ったらいつものはないのかとねだられた」


「それは嬉しいね。すこしおまけしよう」


 ちょっと上機嫌な鍋さんから、ナッツタルトとちまき、わらびもち、ぜんざいをゲットした。

 追加でおこわや赤飯、カツカレーなんかもあったので、それらも買う。やはり米料理は良い。ディオディオにもまともな飯を食わせてやらねば。あ、甘酒もあるのか、くれ。




甘酒

旅行先で飲んだ米麹からつくったやつで、湯煎で温めたものがすごくおいしかったです。生姜がほどよくきいていると、後味がすこしサッパリめで飽きません。

大学の近くの神社で飲んだ、米麹から作ったらしい甘酒は薄ら甘いお湯に米粒が泳いでいる感じですごく不味かったので、どれも美味しいわけではないと思いますが(笑)

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