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90 帰還

85の万知神から探求神に変更しました。



 幻想界の魔物たちは問題なく倒せている。図鑑を読んだおかげもあるだろうが、世界樹の枝さまさまである。


「ガアアアアアアア!」

「ギャオーン!!」


 無双めっちゃ気持ちいい。癖になりそう。もうこれ加工しなくても良くないか、などと思いつつ、ひたすらに東へ向かう。

 死体は回収しつつも、スキルフル回転で足取りは軽く早く、地面を蹴る。


「うおっ?」


 ぐにゅっとした何かを踏んで大きくバランスを崩した。

 何を踏んだんだろう。魔物の(うんこ)だったらやだな。一応『洗浄』かけとこ。


「なんだこれ? スライム? ……灰色」


 足元を見ると、こぶし大の濃い灰色に黒い点々が入った……有体に言うとこんにゃくみたいなスライムが群れをなしていた。群れと言っても視界に入るのは十匹程度だが、群れと言ってもいいはずだ。


「これ食えんのかな……。鍋さんに持っていってみよう。料理にしてくれるはずだ」


 うっすらと黒い核が見えるので、それを即席で作った長めの串で刺していく。もうこれだけでこんにゃく団子にしか見えない。デカいが。


《特殊な行程を踏むと食品になる魔物を飲食目的で五十回狩ったため、称号【ゲテモノハンター】を得ました》


 やっぱり食えるのか、これ。

 ぷるぷると震えるそれらをインベントリに仕舞い、新たなる串団子を作成する。串ならその辺の木の枝からすぐに作れるから我ながら効率の良い狩りをしている気がするぞ。ふふふん。思わず鼻唄が。




 途中陸生のタコとか、歩行するクラゲとか、木を飛び回るイカとか、細かい軟体生物もインベントリに突っ込んでいく。

 たこ焼きー、クラゲの刺身ー、イカリングー! こんにゃくも刺しながらの食の大行進。あっという間に、でもないが、ようやくメムの街に着いた。割と西側の街だが。


 街は相変わらずの本だらけ。道端の屋台でマスコットみたいなシショ人の店主に(メニュー)を見せてもらい、串焼きとビールを購入。

 幻想界の良くないところは、屋台の匂いが無いことか。屋台と言えば匂いで誘惑! が醍醐味だろうに。

 しかしそれでも、串焼きは美味い。イカに塩を振ってレモンを絞っただけなのだろうが、何故こうもうまいのか……! ビールおかわりしようかな。あ、このイカもしや道中で出てきたやつなのかもしかして。


「混沌界に行きたいのだが、この辺にダンジョンってあるか?」


 おそらくタコっぽい魔物だっただろう串焼きを追加しながら、ダンジョンの場所を尋ねる。現地住民の方が詳しいはずだ。

 すると脳内に二枚の地図が閃く。最初の地図は街の見取り図で、赤く丸が付けられた場所がダンジョンなのだろう。もう一枚はダンジョン内の地図のようだ。転移の起点であろう神像の位置が記されている。


 神対応ここに極まれりといった感じだ。礼を言って立ち去ろうとすると、追加の地図が示された。

 黄色い触手での身振り手振り的に、ダンジョンに行く前にここに寄れということか。【肉体言語】が暗躍している気がする。


「ふむ、行ってみよう。ありがとう」


 立ち寄った店で回復薬やナイフ、携帯食料なんかを買いこみ、未だかつてないほどの探索者気分。タダって素晴らしいな!!

 そしてダンジョン。

 ……幻想界ではダンジョンはすべからく図書館らしい。


 重厚な木製の扉を押し開けて入ると、やはり本棚の壁。ひんやりとした空気に紙とかすかな血の匂いが混じる。頼りない燭台の光に人気のない廊下。ホラーだ。

 まあ最初もホラーだったか。同行者がいたからあんまり気にしなかっただけで。


 壁の本棚からモンスターの知識と木工品や魔法の知識、食料や装備を漁り、神殿のある中央へと向かっていく。こんな楽な探索が未だかつてあっただろうか、いや、ない。

 道中の敵も弱点が分かっていれば特に問題はなかった。このダンジョンに出没する敵のドロップは、肉ときどき宝石。宝石は原石っぽいが、きっと高く売れる、はず。


 皮算用をしながら辿りついた中央の図書室は、吹き抜けになっていた。高い天窓からは、夜でもないのに月の光が正面の壁と床の一部を照らしていた。

 壁には本を読む老人のレリーフがあった。おそらく探求神だろう。

 そして床に目を移せば、幾何学的に赤や青の大理石で星や円環を(かたど)り、呪を彫りこんで作り上げた非常に美しい魔法陣がある。見惚れてスクショの存在をしばらく忘れたほどだ。


 なんだか踏むのが嫌だが、これきっと転移の魔法陣だよな? 時間もあることだし、解読してみよう。幸い、時間も食料もある。知識だとて、周囲にはたくさんあるのだ。




《神級魔法陣の一部解読に成功したため、技【転移魔法陣】を得ました》

《技【転移魔法陣】は【魔法陣(玄)】に統合されます》

《熟練度が上限に達したため、【魔法陣(玄)】は【魔法陣(達)】に変化します》

《熟練度が上限に達したため、【魔法陣(達)】は【魔法陣(巨)】に変化します》

《条件を満たしたため、称号【探究者】を得ました》


 キリの良いところでぐっと凝った身体を伸ばすと、怒涛のようにアナウンスが流れる。思いがけず答え合わせになった。

 床に散らばったメモを頭の中で組み立てれば、魔法陣に魔力を巡らせ目的地を唱えるのが陣の起動らしい。人体と精神が分解され、目的地へのパスは精霊界と物質界を経由して目的地に到達する。様々なプロセスが、全てこの四畳ほどの陣に刻まれている。驚異的だ。


 さて。陣の正しい起動のさせ方もわかったことだし。

 大理石の陣の上に立ち、刻まれた溝を零れないように魔力で満たし、目的地を唱える。


「よし、帰るぞ。混沌界へ!」


 酷使した思考はぼんやりと、輝く魔法陣に吸い込まれていった。




名前(ネーム):ジャン・スミスLv.48

種族:人間 性別:男性

職業:【気分屋】

HP:171

MP:449

STR:34

VIT:29

INT:70

MID:91

AGI:142

DEX:150

LUC:104


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】【変異種】【補佐官】【野菜泥棒】【逆走の探索者】【養蜂家】【幻想の冒涜者】【ゲテモノハンター】【探究者】【信心深き者】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性(一)】【夜目】【逃げ足(一)】【肉体言語(初)】


魔法

【魔法陣(巨)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(一)】【採取】【料理(初)】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】【スキル付与】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



灰寒天(アッシュスライム)

 デカい玉こんにゃくみたいなスライム。

 私は玉こんにゃくと鰹節を醤油で煮込んだものが好き。こんにゃくの歯応えの擬音なんだろう。ぷりぷり? くにゃくにゃ? にゃくにゃく?

 世の中にはこんにゃくの刺身なんかもある。田楽芋もいいよね……。ゆでたての里いもにたらーっと田楽味噌(ベースは赤味噌派)をかけて、ほっくりねっとりの芋がほんのり甘くて、味噌でしょっぱくて。

 こんにゃく関係なかった。こんにゃく好きなんだけど、メシテロしづらい食品よね。カロリーゼロの素敵食品なんだけどなあ……。


【ゲテモノハンター】

ゲテモノ食材との遭遇率が微上昇


【探究者】

検証班御用達の称号。たくさん調べ物をしたものに与えられる。目的の資料を発見しやすくなる。調べ物に関する物欲センサーだけは仕事をしなくなる模様。


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