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9 共闘

数字の半角とか全角とかは気にしないでください。



「こんにちは〜」


「お待たせしました」


 中央広場の噴水に腰掛けていると、待ち人が現れた。サカイくんとクーゼさんである。


「こんにちは。大して待っていない」


「それでは行きましょうか!」


「サカイくん、テンション高いな」


「戦う商人ですので」


 えっ!?


「戦う商人ですので」


「戦うのか?」


 武器が一切見えないが。


「サカイはけっこう優秀な魔法使いですよ〜。そこら辺の魔法使いには負けません〜」


「この世界(ゲーム)では、生産職だろうと戦えないと詰みますよ。僕たちはβテスターでそうでしたので、余計にそう感じています」


「β時代は大変でした〜。私たち、底辺をさまよってまして〜。それの影響であんまり強い知り合いはいないんですよ〜」


 そうだったのか。


「製品版では何が変わったんだ?」


「初期スキルがすごく増えましたね〜。本当に驚きました〜。何より【鑑定】が全員持ってるものではないことに唖然としましたね〜」


「検証班はてんてこまいですよ。β時代になかったものが多いですから」


 ふーん。

 鑑定はストレージみたいに実装されていたのか。いいなあ。

 そして検証班。あるのか。

 私には絶対向いていないな。飽き性だから。


 検証について色々話していると北東の森の入口に着く。


「このまま街道を進み、途中の森に分け入りフィールドボスを倒します。が」


 が?


「ジャンさん、装備はそのままですか?」


「何か問題が?」


 首を傾げる私、悪くない。

 すると二人とも笑顔になる(目が笑っていない)


「その服、下手したら初期装備よりも防御力低いですよ〜?」


「武器に至っては初期装備のままですね?」


 二人とも鑑定持ちかっ!

 ……生産職は皆持っているのか?凹む。


「そんなあなたにサカイネット〜♪」


「なんだそれは?」


「言ってみただけですよ」


 そう言ってサカイくんは着心地の良さそうなシャツと細かい刺繍の入った革のジャケットを取り出した。


 ぱっと見は地味で私好み。そこら辺も考慮しているのだろうか?流石商人。


「美少女クーゼが手がけたVIT微上昇バフつき衣類!本来なら25,000S(ソルト)のところ、今ならセットでお得、20,000S(ソルト)!更に更に、プラス10,000S(ソルト)で脇差をつけましょう!」


「高いわ!」


 装備を新調した方がいいのはなんとなくわかるが、所持金は今一万ちょいなのだ。買い食いしすぎた。


「そうですか……。何か売れるもの持ってます?情報でも良いですよ」


「んー、大したのはないぞ?」


 ガサガサとストレージを漁り、出してみる。


 昨日のウサギだ。あと猿。


「こ、これは!」


「どうやって手に入れたんですか〜?」


「作ったんだが」


 いきなり目の色を変えた二人。怖い。


「……何か変か?」


「ハヤシマルザルのフィギュアはただの彫刻ですけど〜」


 酷いぞ。頑張って作ったんだからな!


「ホーンラビットのフィギュアには確率で【会心の一撃】が発動する、と鑑定結果が出ました」


 !?

 【混沌】さんにそんな効果が!?

 あれか、私のスキルを転写するのか?


「神由来のスキルだと思う……えっと」


「ストップです〜。無理に言わなくて良いんですよ〜。今のは私達がいけませんでした〜」


「クーゼの言う通りです、すみませんでした」


 話そうとしたら止められた。情報は財産だそう。

 わかってはいるが、二人なら平気だと思うのだが。そう言うと苦笑されてしまった。


「信用されるのは商人冥利に尽きますが。……えー、このホーンラビットのフィギュアは二万で買い取りましょう」


「あと一万分か……あと売れそうなのは三人で食べようと思ったやつくらいしかないぞ?あまり金は取りたくないのだが」


 ごそごそと探る。まあ実際はポンと出るのだが。


「この肉どうやって作ったんです〜?」


 またもや何かあるもよう。


「唐揚げ棒は三十秒間HP微小回復付き、香草焼きサンドイッチは三十秒間耐毒(微)が付いてますね」


 薬草混ぜただけなんだが。

 料理よ、そんな適当でいいのか。


「珍しいのか?効果は微妙な気がするが」


「はい、とても。しかも鑑定結果に熟成済が出るのは初めてです」


 ふむ。すぐ出来そうなものだが。


「では、それは普通に食べてくれ。一万分はそれの情報を買ってくれるか?」


「勿論です!」


 サカイくんがいい笑顔だ。


 私は市販の魔法陣を料理に使ったことについて諸々話した。まあ、誰でも分かるといえば分かることだし。

 そして料理に薬草を混ぜたことだ。


 ……10,000くらいなら持ってはいるが。今気づいた。


「なるほど、この世界では現実に則った作業が重視されますから、盲点でした。本来入れないものを混ぜたり使ったりすると面白いことになるんですね」


「むしろこちらでしか取れないものだけで作る方が面白いかもしれないな。図書館にレシピ本とかもあったし、【調合】や【錬金】があるならそれも使えそうだ」


「【魔法陣】もちょっと欲しくなりますね〜」


「ベスの街の魔法ギルドで習得できると住人(NPC)に聞いたが」


 雑魚を私が一撃で屠っているうちにボス手前に到着。奥では熊が寝そべっている。落ち着かないんだが。


 唐揚げ棒片手に作戦を確認してから突入である。

 料理はまあまあ好評っぽい。草風味がいけないのだ。


「では、開戦早々僕が拘束して攻撃、その間にジャンさんが背後にまわり奇襲、でよろしいですか?」


「それの繰り返しならターゲット固定されないだろう、多分」


「私は〜適当にバフ掛けたり回復しますね〜」


 ボスは敵意を見せると襲いかかってくる。

 いざ突撃ー!


「サカイに知恵を〜、ジャンさんに素早さを〜、熊さんはのんびりで〜」


 クーゼさんが若干早口で唱えると、フワッとした何かがまとわりついた。何だろう?


「*****」


 サカイくんそれ何語!?


 驚いたのも束の間、熊の足元から草が伸びて絡まる。


「*****」


 再び謎の言葉がサカイくんの口から飛び出すと、今度は火が飛び出していく。


 私はそれを横目で見ながら【薄影】を意識しつつ、いつもより早く木を伝いながら熊の背後へ。私も仕事できる子ですよ?


 【空駆け】で空気を踏み、気合を入れて熊の首を斬る。


 切れ味いいな!


 コロンと転がる熊の首。


《フォレストベアーを倒しました》

《ベス・転移許可証を得ました》

《使用方法はメニューをご覧ください》


「熊しょぼいな」


 ボフッと音を立てて毛皮と爪と肉球(ドロップ品)に変わった。

 勿体ないような、熊肉食べる気ないから丁度良いような……。


「いやいやいや?」


「ちょっと待ってください〜」


 ん?何か問題が?




名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.18

種族:人間 性別:男性

HP:139

MP:151

STR:18

VIT:9

INT:14

MID:45

AGI:69

DEX:89

LUC:56


称号

【混沌神の玩具】

【運命神の憐憫】

【怠惰神の親愛】

【無謀】【マゾ】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性(微)】


魔法

【魔法陣】


生産

【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】【木登り】【地図】


特殊

【混沌】【手抜き】



備考

サカイネット いい品が良心的な値段で手に入る。店主は情報通。お得。

ホーンラビットのフィギュア 【会心の一撃】が確率(LUC依存)で発動。でもクリティカル攻撃じゃないと与ダメージ二倍にならないという……。

熊さん、解体さえなければ結構強かったよ!たぶん……。


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