87 探索者たち
先週も誤字報告感謝ですm(_ _)m
A×6の面々に連れられて、シショ人たちが経営する酒場にやって来た。ここも本棚だらけだ。
黄色いくらげの店員に配膳された青い本を開くと、メニューがずらり。飲み物の名前を指でなぞると、細やかに泡立つきんきんのエールが出現した。ファンタジーしてるな。
「再会を祝って! カンパーイ!」
オルグレン――グレンさんの音頭で、七つのグラスが掲げられる。
「いやー、こんなところで遭うとは思ってなかったぜ。あ、こいつはジャン。萬屋の依頼を受けたときに知り合ったんだ」
ばしばしと肩を叩かれて、彼のパーティーメンバーに紹介される。で、向こうの自己紹介も聞く。
ロリがアメリア、猫がオーレリア、メガネ少女がエルルゥ、坊主が勝蔵、釣り目がアキオ。
うーん、忘れそう。忘れたらごめんな! フレンド登録したから大丈夫……のはず。
「ところで、このメニューはなんなんだ? 見たところ魔導書の一種だろう?」
「えっ? ジャンさんそれ知らないの? え? 今まで補給どうしてたん?」
今どきの大学生っぽいアキオくん。何をそんなに驚いているのか。
「私はあのダンジョンから出てきたんだ。街での補給はこれが初めてになる」
「ジャン、お前相変わらずだなあ! ってことは、ダンジョンから最初の世界――混沌界への戻り方も知らないだろ? エルルゥ、両方説明してやれ」
声をあげてグレンさんが笑うんだが、解せぬ。前回会ったときだって私はそんなに変な行動は起こしていない、はずだ。
「わ、私ですか……? え、えっと、この世界――幻想界の魔導書は全部そうなんですけど、自分のINT以下のものしか手に入らないんです。他の人が手に入れたものは【本】、【読書】、【好奇心】などのスキルがあれば問題ないんですが……」
ほほう。スキルが無いと自動販売機みたいな感じか。自分のINT以下の料理が出てくる。【読書】や他のスキルはさながら真っ黒のクレジットカード的な……。【読書】さまぐう有能。
よっし、早速このチョークポップとやらとメダグロマノマスープなるものを頼むか。
「じゃあ、【読書】があるから、私はここでタダで生活できるな。いただきまーす」
出てきたのはポークチョップとなんかグロいものが混入したスープだ。香ばしい胡椒の香りと、なんか海鮮系のスープの匂いがぶわっと広がる。穀物が欲しいな。
「【読書】持ちにゃ!? 珍しいにゃん、エルルゥ以外で初めて見たにゃん」
「そうなのか? 私は全部ランダムでスキル決めたからなあ……。おお、ポークチョップ美味い」
四角くサイコロのように切られたトマトと玉葱がゴロゴロと乗せられた分厚い豚肉。一緒に出現したナイフで切り分け、かぶりつく。しっかり焼かれた表面とミディアムレアの内側。もっきゅもっきゅとなかなかの歯応え。
塩胡椒がしっかりきいてて、存外さっぱりとした肉である。ボリュームが凄いけど。流石海外由来の料理、エールと合う。
「うわあ、おいしそう~。INTが足りないのが悔しいよう!!!」
今にも涎を垂らしそうなのは、幼女キャラのアメリアちゃんだ。回復職だからMIDの方が育つのだろう。
どんまい、羨ましかろう、ふははははははは! あげたくてもシステム上おそらくあげられないがな!!!
「まあまあ、ほら生姜焼きならリアのINTでも食えるだろう?」
「目の前の肉が食べたいぃ」
兄妹なのだろうか、というような感じでアメリアちゃんが勝蔵さんに世話を焼かれている。なんのかんの言いつつも、生姜焼きを召喚して貪っている幼女なわけであるが。
さてこの気味の悪いスープ……なんだろう、目玉が浮いているような? 見た目はふかひれスープに似ている。ちょっととろみと照りがある。南無!
「え、ええっと、あとは混沌界への戻り方ですよね? 基本的に神像に祈ると行き先が選べるので……。あ、【運】、【乱数】、【歯車】というスキルがある場合は、渡る条件を満たしている異界からランダムです」
「【運】もあるんだよなあ」
おお、見た目のグロさに反して美味い。白い肉片はふわっふわで、出汁がよくしみている。目玉感あふれる物体はくにゃくにゃと貝のような……噛みきれねえええ!!
「なんでそんなネタスキル多いのかにゃ? というか、ジャンって名前を聞いたら正体不明のPCを思い出したにゃん」
オレンジジュースにストローで空気を送り込み、ぼこぼこと音を立てるオーレリア。行儀が悪いぞ。楽しいのは分かるので何も言わないが。
「そういえば、人間射的のようなイベントとバレンタインイベントでも名前がありましたよね……」
指折り思い出すエルルゥさん。記憶力良いんだな、羨ましい。
私は絶賛【読書】さま頼りのゲーム生活である。イベント懐かしいな……、カエルチョコしか覚えていないが。
「爆弾鬼の新しい杖、カローナに自慢された腕輪、もだろ? 伝手欲しいよな」
「ああ、リアのリコーダーの製作者だね。萬屋が毎回はぐらかす凄腕の生産者か……」
グレンさんと勝蔵さんが補足するように付け加えると、アメリアちゃんが懐からリコーダーを取り出した。
リコーダー、そう言えば前に作ったなあ。あれ、なんか見覚えがある……。
「流石に製作者とイベント上位者は別じゃね? 能力値がかみ合わなさすぎるっしょ」
完全に酔っ払いの赤ら顔で酒をあおりながら、アキオ君がそうまとめた。
「大変、言いづらいんだが……、おそらくそれは全部私だと思う……」
「「「「「「はあ!?」」」」」」
そんな信じられないなんて目で見ないでくれよ、泣いちゃうだろ! ……やっぱり言わない方が良かったか。
「今のナシで」
「「「「「「はあ!!?」」」」」」
取り消し不可能らしい。
作者のための覚書
ヘキサ・エース内訳、括弧内は仲間内での呼び方
オルグレン(グレン):聖騎士職の人属。イケメン。
アメリア(リア):回復職のロリ天使。主人公お手製のリコーダーの持ち主。
オーレリア:猫の獣人、シーフ兼拳闘家。
明石勝蔵(勝蔵):盾職の兄ちゃん。
アキオ:弓使い、薬剤師。パリピ。モテない。
エルルゥ・オルコット(エルルゥ):文学少女、攻撃・妨害魔法使い。
幻想界で出てくる料理は現実世界で頭の良くなりそうな料理が出てきます。ビタミンB1が良いらしい。
今回主人公が食べていたグロいを連呼された食品はマグロの目玉のスープでした。ビバDHA! 私は食べたことないので実食レポート(ブログ)を参考に書かせていただきました。
ゲーム内の効果としては、一時的なINT微増であり、効果時間内ならちょっと背伸びした装備が取得可能になります。
それでは皆さま、良いお年を!