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86 幻想界

メリークリスマス(イヴ)!!

なお本編はクリスマス無視です。全裸マントだし仕方ないね!!



 さて。図鑑によれば、鈍い虹色のイソギンチャクは土属性らしい。木属性か風属性で攻撃するのがベストか。


 即席の杖でも、十分に対応可能なはずである。全裸マントという心許ない装備であるが、精霊界に渡ったときも菓子と木工道具と初期装備(ツナギ)しかインベントリから出せなかったのだ。

 今回は武器(枝)もある、なんと心強いことだろう(棒)。


「『蔦』!」


 地面から蔦をはやして、イソギンチャクを縛り上げる。

 縛り上げて気づいた。こいつ動かないじゃん。触手がうねうねしてるだけなのだし。

 怒ったように振り回される触手を回避し近づきながら、蔦を魔力に戻す。


「『竜巻』」


 テンション低めに触手を切り落としていく。えええ、めちゃくちゃ固いんだけど。振り回しぶんぶん度が大きくなっただけと言う。


 舌打ちしながら杖の先に風の魔力を集めて刃をイメージする。

 直撃しそうな攻撃に添わせて風の魔力を破裂させれば、痺れたようにしばらくはくたっとしている。思いつきにしては上手くいった。ラッキー。


 顔面を狙う触手のストレートを首をひねって避け、地を這う触手にはこけそうになりつつ。


 なかなか動きを止められないのに焦ったのか、イソギンチャクは無数のその触手で地面を叩いた。


「わっ……!」


 衝撃波が走る。びきびきと床が剥離し、浮かび上がる。厄介な。


「ニョーッニョッニョッニョ!!」


 崩したバランスを慌てて取り直し、ご機嫌な触手にイラッとする。にやけたような鳴き声をしやがって。

 風の刃を鋭く、鋭く、魔力で研ぐように伸ばし。浮き上がった床と触手を蹴って肉薄し、本体の柔らかそうな、ひときわ大きい眼球に突き立てる。


「くたばれ!」


 ぶちぶちぶち。

 とっさに目を庇った触手の、ウィンナーを引きちぎるような気色悪い感触に眉を顰める。私を引きはがそうとする他の触手がその目的を達成する前に、眼球を越えて脳まで届けとさらに魔力を杖の先に送り込む。脳があるのか知らんが。

 ついに、ぶちゅりと腐ったトマトをつぶすような手ごたえがした。


「ニョーーーーーーッ!!」


 なんとも間抜けな断末魔と共にイソギンチャクはぐってりと力を失い、やがてどろんと煙になった。有体に言うとドロップ品として私のぽっけ(ストレージ)に収まった。

 アイテムが本なのは流石に徹底していると言わざるを得ない。


《テスダンジョン(知)9-1/1・礼拝堂のエリアボスをクリアしました》

《称号【幻想の冒涜者】を得ました》


 石造りのホールを抜けて通路に出る。天井に吊ってある燭台にぼんやりと照らされて、本棚の間を進む。

 赤黄青の背表紙はできるだけ目を通す。【読書】さんの内蔵スキル【速読】が本当に助かる。パラパラっとめくっただけで頭の中に入ってくるのだ。素晴らしい。


「ほー、シショ人? そんな種族があるのか」


 この世界に生きている知の求道者であり管理人なる種族。司書(シショ)人とはまた安直だが覚えやすくていい。黄色いくらげに目玉が三つついた生命体のようだ。デフォルメされているのでとっても可愛い。


「ギョーギョッギョッギョ」

「ウヒィ、ウヒッ、ヒヒヒッ」

「クラークラ、クララララ」


 本を読んでいる時に邪魔されるとイラッとするよな。特にこんな嘲笑うような珍妙な鳴き声だと。

 読みかけの本を棚に戻して、魔導書から飛び出してきた杖を構える。ローブやインナー、ズボンと靴もきちんと手に入れたので、全裸マントから大脱出した。防御面に不足はない。


 しばらくして目の前に現れたのは、ギョロギョロ魚とサルマネ茸とノンベエ茸である。弱点は水。三匹共に。

 「お前らやる気あるのか」、と聞きたくなるようなラインナップ。湿ったところが本拠地だろうが!!


「『水流』、『凍結』」

「ウヒィ!」


 サルマネ茸は足――石づきを取られながらも、私と同じ攻撃を繰り出したが、ふらついたノンベエ茸に直撃。茸二つは足止め完了、ブルドッグに似た顔がびくびく痙攣しているところをみると、それなりに効いている模様。


「『水』、『水蒸気爆発』!」


 空を泳いで突撃してくるアンコウ顔に杖を突っ込み、水を一気に気化させる。魚肉もパアン!

 続いて茸の始末だ。水の魔力を杖に纏わせ、グサッと一突き。

 サルマネ茸途端に溶けて猛毒になり、ノンベエ茸は一気に胞子を飛ばした。


「ゴホッ、し、び()……!」


《熟練度が上限に達しました》

《【毒耐性(初)】が【毒耐性(一)】に変化します》


 風を緩くおこし吹き飛ばす。まったく置き土産がえげつない……。


 さて、読書(たんさく)を続けよう。……と思ったのだが、風を流した先からものすごい阿鼻叫喚が聞こえてきた。


「うきゃあああ? なんか痺れえ……!?」


「回復役が痺れるとかどんな冗談だよ! リア、しっかりしろ!」


「オーレリア、状態回復薬なんて手持ちにあったっけ!!?」


「まだ見つけてないにゃん! 勝蔵にゃんバフなし盾ガンバにゃん!!」


「エルルゥ、敵見えないんだけど、見える!?」


「わ、私にも見えませんんん……!」


 ひょいっと顔を覗かせると、オルグレンさんとその他が麻痺毒な胞子にやられていた。

 いやあ、申し訳ないなあ。流石に声かけないとまずいよな。

 最近全然絡みが無いから距離感掴みづらいんだが。当たって砕けようそうしよう。


「グレンさん、お久しぶりです」


「なんで敬語なんだ、というかなんでここにいる!? まさか一人か!? その前に、ジャンは敵が見えるか? 知っているとは思うが、幻想界は知らない敵が見えないんだ!」


 切羽詰まった様子に、バツが悪くなる。が、言わねばならないのだ。


「私は一人だが。そして敵は見えない。……が、一つ謝らなければいけないのは、グレンさんたちが痺れているのは私のせいと言うか……、すんません」


 なんだよ、とグレンさんのパーティーメンバーは一様に脱力した。ほんと申し訳ない。


「まあいいや、今日の攻略はこれまでにして、一緒に飲もうぜ。みんないいよな?」


 ばしばしと肩を叩かれながら、グレンさんに誘われた。他のメンバーの人たちも「なんか変なやつだけどリーダーの知り合いならまあ……」、みたいな感じで曖昧に頷いてくれた。

 飲み会、アウェーじゃないかなこれ。居心地の悪い忘年会にドナドナされる気分だ……。




名前(ネーム):ジャン・スミスLv.45

種族:人間 性別:男性

職業:【気分屋】

HP:171

MP:419

STR:32

VIT:29

INT:55

MID:90

AGI:139

DEX:146

LUC:99


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】【変異種】【補佐官】【野菜泥棒】【逆走の探索者】【養蜂家】【幻想の冒涜者】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性(一)】【夜目】【逃げ足(一)】【肉体言語(初)】


魔法

【魔法陣(玄)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(一)】【採取】【料理(初)】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】【スキル付与】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】


【幻想の冒涜者】

MPを消費することでダメージ増加することができる。幻想界の生物に関する知識を発見しやすくなる。


それでは皆さま、よいクリスマスをw

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