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85 職人クエスト



「じゃんじゃん~、こんなところに居た~」


「捜したんだからねー! ねぎらってよねー!」


「というわけでほい。ディオディオからお手紙」


 ぽん、とどこからともなく現れたのは一枚の便せん。

 ほんとフェアリーズ(こいつら)の生態は謎である。手紙の方が体より大きいという事実から目を逸らし、内容を把握する。

 なになに……?


「世界樹の枝を取ってこい?」


 流石ディオディオ。安定の無茶ぶり。どこにあるんだってばよ。


「お前たち、ディオディオから何か聞いてないか?」


「オリジナル杖百本記念とかなんとか」


「たしかじゃんじゃんの手持ちスキルのレア度を鑑みてこのお題にした? とかなんとか」


「ついでにディオディオが使う分の世界樹も取ってきてって言ってた!」


 ディオディオ? スキル鑑定できたんですか、っていうかよりによってレア度参考って……。

 明らかに【混沌】【手抜き】【六文銭】あたりじゃないですかねえええええええ!?


 うおおおお、スキル構成がクエストに影響するなんて詐欺だ!!

 ……いや、詐欺じゃないな? たぶん普通だ。私に適用させるとなぜこんなバグが発生するんだ。おかしい、変だ。

 なぜメニュー隅の新着クエストに《SSSランククエスト:世界樹の枝の採取》が反映されているのか。


「ボクたちも見たことないけどお」


「どこにでも世界樹はいるって長老が言ってた~」


「ハニートレントより幻の木だけどー」


「ハニートレントは別にレアじゃないと思うが」


 会いたいときに会えるし。全然レアじゃない気がする。


「それはじゃんじゃんが変なだけ~」


 バカな。私はごくごく一般的なプレイヤーだ。

 まあ、強制クエストみたいだし、精霊界に行きますかね。「精霊界に行きたいんです女神さま~」、と目を瞑り手を組み祈ればあら不思議。


 女神が大きくなって……いない、だと!?


「あれ? フェアリーズもいない」


 代わりに壁には一面の本棚がある。古書独特の、かさついた匂いが鼻をくすぐる。

 しかもなぜか私、全裸(マッパ)なんだが。

 いや、正確にはパンイチである。キャラメイク以外で初めて見た。


 とりあえず敵もいないし、本棚の探索をしようか。【読書】さんが久々に荒ぶる気がする。


 やけに目につく、青い背表紙に指を掛けると、びょんと飛び出し顔面にクリーンヒット。

 なかなか活きのいい本じゃないか。暴かれる覚悟はできてるんだろうな……。


 表紙をみると『裏口☆チュートリアル』というタイトルのようだ。絵本のような薄いそれをとりあえずめくる。


『普通の手段と違う方法でやってきた変人のための魔導書です』


 いきなり失礼な本だな。


『ここは幻想界。探求神が管理する階層です』

『知識こそ力。無知は原罪。思考こそ生命。無謀は禁忌』

『知識に貪欲な知恵ある者のみが生き残れる世界です』

『知識は糧であり、道具であり、世界です。ゆめゆめお忘れなきよう』

『ささやかながら餞別を用意いたしました。次頁を開き、召喚(サモン)と唱えてください』

『それでは、あなたが知識と知恵と共にあることを祈ります』


 どういうことかさっぱりわからん。まあ指示に従えばよさげである。

 指定された次のページを開くと、正方形と円を組み合わせた簡易の魔法陣があった。


召喚(サモン)


 ぽんっと、本は音を立てて初期装備っぽい青いローブに変化した。


《魔導書を使用したことにより、スキル【魔導書】を得ました》

《スキル【魔導書】はスキル【読書】に統合されました》


 んー、【読書】さんがパワーアップしたのはこの際置いておいて。

 問題はローブを羽織ったところで、私が現状裸コートっぽい不審者だということなんだよなあ。本読んだらズボンと靴と武器でてこないかな……。さすがに欲張りかな。


 さて本を読もうか。


 目についたものを片っ端から読んでいく。現実(リアル)で著作権切れの本だったり、漫画の試し読みだったり――この辺はスポンサーの影が見える――、食材が出てきたり、モンスターが出てきたり。

 この空間は正しくチュートリアルなのかもしれない。


 ざっと見た感じ、ここには世界樹に関する本は無さそうだ。そうそう都合よくは手に入らない。これは外に出るしかないようだな……。


 最初の世界では、この礼拝堂――今は書庫を兼務しているが――を出た所にはミノタウロスが居た。果たしてここには何かいるのだろうか。


 即席で在庫の枝から作り上げた杖を手に、古びた扉をすこーし開けてみる。


「……なんだ、何もいないのか。緊張して損した」


 思い切り開け放ち、石のホールの中央を抜けていこうとしたとき。

 見えない何かに頭部を殴打され。


 数瞬後にはまた礼拝堂の床に転がっていた。


「いったい何が……?」


 メニューを確認すると、《????に倒されました》とある。モンスター見えないんかい……。


 避けながら出ていく方向で突破してみようか。

 迂回しても死に、這っても死に、空駆けで空中を渡っても死んだ。


 これはなかなかのムリゲー。あるのはおぼつかない初期装備と、本の山。

 さすがに手がかりが無いなんていうのは不親切すぎる。この本の中に何かヒントがあるのかもしれない。

 全く分類されているようには見えないカラフルな本を、タイトルからある程度分類していくと面白いことが分かった。


 黄の装丁の本は、用語集とか辞書とか。

 青の装丁は魔導書。色々出てくるびっくり箱のような本。明らかに数が少ない。

 白と赤の装丁は世界の知識。白は古今東西の歴史や地理。おおむね文系の知識。対して、赤は魔法や加工技術、モンスター学など理系の知識。

 黒の装丁はこの世界の娯楽本。

 その他の雑多な色は現実世界(リアル)の本。


 まあ黄色の装丁のモンスター図鑑めくるよね。超分厚い。

 見えないモンスター、見えないモンスター……。おかしい、いないぞ???

 ダンジョンに生息するモンスターに絞って熟読するが、目に見えないモンスターに関する記述はない。

 赤の装丁の生物学の方の図鑑も確認したが、めぼしい情報はナシ。


 ぬぬぬ。もう一回部屋を覗くか。なんかヒントあるかもしれん。


 そろーっと覗きこむと、玉虫色の巨大なイソギンチャク。触腕に細やかな甲冑をかぶせた、無数の目をもつ化け物がいた。名前は虹甲喰人花ボレーンー・ター・バイグイ。さっき見たばかりだが、【読書】さんがいなければ忘れていたに違いない名前の生物だ。


 なんで見えるようになってるんだ。これはあれか、知らないと見えない、みたいなタイプ??? なんて面倒なんだ。




【魔導書】力量にあった魔導書を見つけやすくなる。魔導書が読める。


日本十進分類法(NDC)を偏った知識でいちおう解説しておく

0総記:図書館についての本とか辞書とか辞典各種。

1哲学・宗教:怪しげな本もこのへんにあったりする。魔術理論とか。金枝篇とか。魔女とか。錬金術とか。

2歴史・地理:旅行先の調べものをしたり。海外の写真とか眼福。

3社会科学:戦争の軍事学とかもこのへんだったような……。内政チートと軍事チート希望者はこのへん読む。

4自然科学:木の本もこのへん。SFのネタ探しにも彷徨う。

5技術:異世界で技術チートしたい人むけ。

6産業:異世界で技術チートしたい人むけ。

7芸術:木材加工については6,7によくお世話になる。スポーツもここなんだぜ……。

8言語:各種言語の習得方法とか、小説の書き方とか。手紙の書き方、みたいなマナー本もある。

9文学:みんな大好きラノベ(語弊)

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