83 普通に真面目に
たまには普通に活動してみよう。
いや、別に私は変な遊び方はしていないはずなんだが、私が行く場所にはなぜかNPCしか見かけていないところを考慮すると、もしかしたら私はちょっと変わってるのかもしれない。
私のように地味な見た目のアバターを使っているプレイヤーが存在する可能性がないわけではないが、あんまりないと思うので考慮しないことにする。
というわけで、テスのギルドにやってきました!
プレイヤーがいっぱいいる……!!
イベントとかゲーム開始時以外で初めて見たような気もする。
きょろきょろと見回せば掲示板はいくつもわかれている。どういう基準なんだろうか?
「あれ、ジャンさん?」
呼ばれて振り向けば、パースくんとよくいる鬼の少年を発見。よく私を見つけたものだな。
「鬼くん少年じゃないか。 よく会うな!」
「八ツ橋や。いや、会うのめっちゃ久しぶりやで? ジャンさん、普通にレアキャラやし」
まったく、私の普通ではないと言いたげな胡乱気な瞳。
おかしい。非常に遺憾だ。
私は、いつだって、一般人の、つもりで、生きて、いるぞ!!
まあそれはいいや。食えないし横に置いとく。
「レアキャラの私にこのギルドの仕組みを教えてくれたら、たぶんいいことあるぞ」
「……微妙にありそうで困るやつや。ええけど」
ぽりぽりと頬を掻きながら、近くのカウンターに誘導される。うん、入り口付近は邪魔だったな!
あ、そこのウェイトレスのお姉さん、ジュース二つお願い。
――なるほど?
このギルドは大きく二つのエリアに分かれていて、右はダンジョン用のクエスト、左は街の外のクエスト。手前ほど簡単なクエストが貼ってあり、奥に行くほど高難易度なのだとか。
プレイヤーはギルド内ならメニューから受注できるんだそうだ。混雑予防だな。
「せや、ジャンさん冒険者のランクは? 生産職いうてはったし、Cくらい?」
「ランクなんてあったっけ?」
えーと、インベントリにギルドカードいれていたような……。
「Fだな!!」
「最弱やんけ!!」
ナイスツッコミ。そういう八ツ橋くんはBランクらしい。頑張ってるな~。
いい機会だから自分の他のランクも確認しておこう。
魔術士ランクは地味にDだ。魔法陣のアルバイトクエストが地味に反映されていたもよう。
生産者ランクもE。納品依頼受けてないからね! 仕方ないね!!
「えええ、ジャンさんなんかクエスト受けはるん? 受けるなら採取クエストとか雑用クエストが低ランクには多いねんけど」
「せっかくだから何か受けていきたいところだが。……なあ、ミノタウロスのドロップの納品とか受けられない感じか? 今持っているんだけど」
「ミノはBやから、アカンわ。なんで持ってんねんいうんは置いとくけど、納品は一応できはるし金ももらえるけど、ランク上げの実績ポイントは付かんようなってはるでな」
なんてことだ。自分のランク――私の場合はF――の前後二つの依頼しか実績として換算されないなんて。なんてケチな……!
ランク詐称防止の一環なんだろうが。抜け道多そう。
「あと、CランクとBランクはギルド職員が見てる中で指定のクエスト受けるんや。地味に面倒やねんで」
「なるほど。八ツ橋くんありがとうな。まあせっかく来たことだし、薬草とかはたぶん今持っているから納品してくる! 目指せEランク!!」
ぽちっとな。お、納品もメニューでできるのか。しかも手持ちがあると青い枠がついていて分かり易い。なんて便利な。
お~! 溜めこんでいたいつ使うとも知れないものたちがどんどん捌けていく~。快感~!!
「目標ひっく!! あ、そういえばジャンさん、【解体】スキル持ってたりしはる? 暇ならいっしょにクエスト受けはりません?」
「【解体】あるし暇だしいいぞ~」
「軽い。あ、クリアしたいクエストCランクやった……」
ショボーンとする少年よ。ごめ……。
《Eランクに昇格しました》
……君に朗報だ! 納品作業続けててよかった。
「今ランク上がったからCでもいける」
「早い! でも助かります!! 今クエスト詳細送ったんで、そのまま西の岩場に行きましょ」
「了解」
ウェイトレスさんに頼んで勘定を済ませ、ざっとクエスト内容を確認する。
《Cランククエスト:黒熔大蛇の毒を採取せよ》
《推奨人数:二人 必須技能:【解体】》
《報酬:酒呑瓢箪》
《納品先:冒険者ギルド》
《受注者:八ツ橋、ジャン・スミス》
「酒呑瓢箪?」
ギルドを出て目的地に向かうべく横を歩く八ツ橋くんに、報酬について訊いてみた。いかにも日本酒が湧いて出てきそうな名前だが……。
「酒を注いで一日経つと、ほんのり味が良うなる瓢箪の細工物らしいんや」
「そりゃいいな。でも八ツ橋くん未成年だろ? なんで欲しいんだ?」
「欲しいアイテムの錬成に必要な素材やねん。種族能力値を底上げするアイテムがあるんやけど、テスには各種族の強化クエがあって、いつものメンツはバラけとるんや」
「へー」
西門を抜けて歩くことしばし。黒々とした石がだんだんと地面を覆いはじめ、ほぼほぼ地面が黒くなったところで、蛇を見つけた。
黒くて小さい。保護色だな。
「おし、このへんやな。ジャンさん、僕が押えている間に毒を採取してくれん?」
「任せろ。っていうかこの蛇?」
にょろにょろっと目の前を通り過ぎてゆく手のひらほどの蛇を指すと、首を振られた。
「それは大蛇ちゃうやろ、どう見ても。これのデカいバージョンやけども。あ、そういえば採取専用の容器あるねん。渡しとく」
ほいほい、たしかに預かりましたよっと。
よーし、いっちょやりましょうかね! まずは蛇探しから!
黒熔大蛇……ごつごつした人を丸呑みできるサイズの蛇。猛毒の溶岩を垂れ流す。
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