80 闘技場イベント(観客)
鍋さんから休憩をもらって、私は会場をぶらぶらとしていた。闘技場は大変なにぎわいだ。
こちらの世界の人たちも、プレイヤーも、口から泡を飛ばして選手を応援している。誰が勝つのか、賭けているのだ。
私は「ウシミツドキ」というパーティーに賭けている。名前がカッコいいなあ、と思ってつい。1万Sだけだが。しかし、どんな選手たちなのかさっぱりわからない。
お、なんかいい匂い……。これは……チョコバナナでは……?
なんだかんだと懐かしいひょっとこ面を買い、綿あめを買い、謎肉の串焼きを買い、地酒を買い、運営が出していた射的で生産中止になっている駄菓子を撃ち落としまくり、めちゃくちゃお祭り気分を味わっていた時だった。
路地から慌てたような声が聞こえたので覗きこんでみると、陰陽師っぽいコスの鬼人が、自分の身体をまさぐっている。変態だ。
人気もない、薄暗い、いかにも変態や犯罪者からの人気がありそうなスポットである。
「無い。杖が……、無い!?」
と、思ったのだが、どうやら杖をスられたらしい。不運な。というか、装備品って盗まれたりするのか。知らなかった。
関西なまりの鬼のお兄さんが膝をついておいおいと泣いてる。
大の変態、間違えた。大の大人が泣いているのを見るとヒくのは私だけじゃないはずだ。
「どないしよう……。試合、あと10分で始まってまうのに。サブの杖じゃ火力が出んし……。せやかて、ジョーシはしばらくログインできへん言うてたし、買うわけにもいかへんし……」
ジョーシさんは杖職人か贔屓の商人か何かなんだろうなー、などと思いつつ。
見捨てていいのか悪いのか。まあ、知らない人だしなあ、と去ろうとしたとき、小石を蹴ってしまい。それがいい感じに壁にあたっていい感じに静かな路地に響いた。
平たく言うと、哀れなスリ被害者に気づかれてしまった。
「おい、そこのひょっとこの。何見とんねん……?」
まったく、私もツいてないな!!
ギロリと三白眼で恨めし気に見つめられても何も出ませんがな! 薄暗闇に光を反射するインテリな雰囲気のメガネ怖いよ! がたいの良いイケメンの怒り顔怖いよ! 今にも殴られそうだと錯覚してしまうよ!
思わず私の顔が引きつったぞ!! お前からは見えないだろうがな!!
「こ、これはだな……」
「ってお前さん杖職人か!? 天は俺に味方した!! 杖売ってくれへん!!?」
「ええ。お前【鑑定】持ちか。売るのは別に構わないが」
食い気味に頼み込んでくる割に土下座をしないこの感じ……これは、大阪の人ではなさそう(偏見)。
弁明しようとしたものの空振りした私は、勢いに流されるようにインベントリを開いて在庫を探すことにした。
「なんかあったかな……。あ、そう言えばこれ、売り忘れてたんだった」
最近加工したばかりの、すごく枝っぽい――否、幻想的でシンプルなつくりの冥界産の槐と氷霜樹の杖を取り出した。いやあ、我ながら良い杖だなあ(棒)。
鞘を渡すときに売ろうと思って、他の大量の杖を売るほうに気をとられて忘れていたんだった。
「それホンマに杖なん? 奇っ怪な枝にしか見えへんねんけど。……っておい! めっちゃ性能ええやん! これ売ってくれはるん? ホンマにええのん?」
「いいぞ。言い値で売ろう」
これ、そんなに性能いいの??? マジで??? 冷汗止まらないんだが。う、うん。と、とりあえず値段は向こうに決めてもらおう。きっと買いなれているはずだ!!
眉間に谷を作るほど悩んでいるが、ちゃちゃちゃっと決めないと試合が始まってしまうと思うのだが。
心配すること数分。鬼人のお兄さんは重々しくも口を開いた。
「すまんけど、手持ちがそんなに無いんや。200万Sで堪忍してや」
「……いいぞ」
「やっぱり足りひんか……」
「だからいいって!! お前さんもう試合だろう!! ほれ、有り金出せ」
言い淀んだのは「そんな高いの!?」っていう驚きだから。不満だったわけじゃないんだ!
だからそんなしょぼんとした顔するなよ、イケメン。メガネが台無しだぞ☆
私は全力で杖を押しつけつつ、指で金のマークを作った。さっさと寄こせ、そして早急にこの自分の作品の価値を把握していない気まずさから逃げさせてくれ!
「……恩に着る。俺は八瀬や。フレに登録してもかまへ」
イケメンは金貨の入った革袋をよこし、くしゃりと笑みを浮かべ、何かを言いかけて消えた。会場に強制的に移動させられた模様。
《赤コーナー、ウシミツドキの爆弾魔!! 八瀬~!!》
選手紹介のアナウンスが聞こえるし。
というか、私が賭けたパーティーのメンバーだったんだな……。頑張ってほしいところ。
あんまり人のスプラッタを見たくはなかったんだが。……よし、ちょっと見に行こう。
いや、臨時収入も入ったし、何か買ってからいこうかな。けっして、キャラメルポップコーンの匂いがするとか、そういうわけではない。ないのだ。
ポップコーンというと、某ネズミの国を思い出します。色んな味がありますよね。チョコとかバター醤油とか苺とか……。
私はキャラメル味が一押しです。真っ茶色に染まった味の濃い奴だけ食べたい。
そういうポップコーンだけが詰まっている商品が、最近市販されていてテンションが上がった記憶があります。
しかし某ネズミの国の何年か前のイースター限定っぽい肉巻きおにぎりが忘れられない。
肌寒い春先、はふはふと頬張る。一口ごとに湯気を逃がしながら、あまじょっぱい肉と半熟卵とほかほかご飯が混ざる混ざる。
帰宅して母に作ってくれるようにねだったのですが、「面倒くさい」とばっさり。また食べたいなあ……。
感想欄でご指摘のあったディオディオのお題クリアに関しましては、今度ディオディオにあった時に回収します……。思い切り忘れてたぜすまんなディオディオ。
活動報告にて、ギャンブル・クリエイターのハロウィンSSを掲載しておりますので、興味のある方はどうぞお越しください。