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79 闘技場イベント(屋台)



 サカイ君に鞘を渡してはや三日。

 いかにも運動会日和な秋晴れ。チェスの武闘大会、もとい闘技場イベントはたいへん盛り上がりそうな気配である。

 大会本部から借りてきた屋台を二人で組み立て、さらに専用のコンロなどを鍋さんがセット。あとは調理して現実同様、店先に客が来るのを待つだけである。……と、思ったが少し違うらしい。

 通りすがりの客はいつも通りその場でニコニコ現金払いだが、観客席からの注文は目の前のウィンドウに現れて、それに従って注文を捌くようだ。珍しくゲームっぽい。


「鍋さん、今日売るメニューは何なんだ?」


「豆腐とわかめの味噌汁と、おにぎり各種。もう一品はどうしようかなって悩んでるんだ」


「決まってなくて大丈夫なのか? バランス的にデザートだとは思うが……」


 もうすぐ始まってしまう。鍋さんのことだから、下拵えは周到にしているとは思うのだが、いささか不安だ。


「うん。いつの間にか私の代名詞になってるスライムゼリーは仕込んできたんだけど。せっかくだからインパクト出したいなあ、と思ってさ」


「インパクトねえ。代名詞ってほど固定されているなら、もうそれだけで勝ち組だろう?」


「君の言う通りなんだけどね。でも、新しいものを生み出すのって楽しいんじゃないか?」


「それは一理ある」


 挑むような楽し気な瞳に、私は激しく同意した。

 なんなら私は、同じもの、作ったことのあるものは基本的に作りたくない。


「まあ、楽しむだけじゃ楽しむためのお金(ソルト)が入ってこないけれどね」


 ぐっさあああ! いつもいきあたりばったりで楽しんでは金欠に喘いでいる私にめっちゃくちゃ刺さるんですがその一言!!


「……そういえば、ミツミツの実が追加で手に入ったんだが、これで何か一品作るか?」


 冷汗を掻きながら、採れたてほやほやのミツミツの実を差し出した。たしかかなり珍しかったはず。目新しくはないが、まあそこそこインパクトになるのではないだろうか。


「えっ!! ジャン君、追加で手に入れていたなら教えてよ!!」


 即行で買い上げられた。懐はあたたかい、不気味な美味は去る、完璧だ。

 ホクホク顔の私が見守る中、鍋さんはぶつぶつ言いながらあっというまに新作デザートを作り上げる。


「じゃじゃーん! ミツミツの実の蜂蜜を練りこんだアイスクリーム! そしてそして、ミツミツの実の器を揚げたものをふりかけました! コーンフレークみたいな歯応えもあって良し! コーンは自家製のざっくざくハード生地!!! 我ながら美味しいね!!!」


 眩しいほどのドヤ顔。そして自ら一口、大絶賛。

 私はその場で食べるのを遠慮しつつもいくつか買った。フェアリーズの餌にするつもりである。


「んー、注文ウィンドウって画像も見えるんだろう? なんならスライム型にしてみたらどうだ?」


「どうやってだい?」


「スライムゼラチンを混ぜるとか……?」


 乾燥させて砕いてぱらぱらにしたスライムである。安直に混ぜるべし。


「その発想はなかったよ」


 「えー、まずそう」などとしょっぱい顔をしながら、鍋さんは二人分を作りなおした。作るんかい。

 鍋さんがそれをコーンに盛ると、ぷるん、とアイスクリームは身じろぎして、ぴょこんと角が立った。完全にスライムだ。青ければ完ペキだろう。


「……できたな」


「できちゃったね……」


 無言でふるふるしているアイスクリームを見つめる。溶けないのだろうか。

 鍋さんはごくりと唾をのみこみ、えいやと一口。


 みょーん。……ぶちっ。もっちもっち、もっちもっち。


「けっこう伸びるのな」


 感心しながら、手渡された私用のスライムアイスはインベントリに突っ込んだ。


「……なんか、トルコアイスと求肥(ぎゅうひ)を混ぜたような不思議な食感。これは日本人ウケする。ジャン君ありがとう!!」


 鼻唄を奏でそうな鍋さんは、手早く食べきると追加のコーンを焼き始め、私はその横で青葡萄を使った水色のアイスクリームを作成。チョコレートで目玉も量産して、元祖スライムっぽいアイスクリームを作ってみた。

 可愛いなこれ。味もまあまあ。


「ジャン君? なに勝手に商品増やしてるの? ……売れそうだから許す」


 鍋さんは一人分かっさらって相好を崩した。美人の気の抜けた感じってめちゃくちゃドキッとするよな。私はドキッとした。……ここは二次元、ここは二次元。


「よし、じゃあ商品登録して開店だ。そろそろ会場だし。ジャン君、焼きおにぎりの担当よろしくね」


「ほいさー」


 三つの七輪を並べ、おにぎりをいくつも載せ、醤油を塗っては引っくり返し。鍋さんのマニュアルに沿って激うま焼きおにぎりが生成されていく。醤油の焦げた匂いがたまらん……!

 こうも単純作業だと、なんだかアレンジしたくなってしまうが、雇われてるのでしません。私、超偉い。

 鍋さんも、観客席に提示する通販ページを編集しきったのか、怒涛の勢いでおにぎりをこさえていく。


《十時になったよ! 開場しまーすっ! 繰り返します、開場ーっ!》


「おお、始まるか」


「いよいよだね」


 ハイテンションなアナウンスの声の主は、イベントで同じみとおぼしきナントカちゃんだろう。忘れたが。

 醤油の匂いに惹かれたのか、ふらふらと何人かのプレイヤーがやってきた。一様にそわそわとしている。


「「いらっしゃいませ~!!」」


 さあ、存分に金を落としていきたまえ。




求肥(ぎゅうひ)

雪見大福の皮、生八ツ橋とかうぐいすもちの皮。なんかそんな感じ。半透明のもちもち物質。ほんのり甘くておいしい。餡が無いと飽きるけど。


ワッフル・コーン

ザクザクしている歯ごたえのある香ばしいやつ。網目模様がトレードマーク。真っ平らな円形生地を焼いた後、冷める前に円錐の型に巻き付けてコーンにする。


ケーキ・コーン(ウェハース・コーン)

最中の皮みたいな軽い口当たりのふわふわのやつ。食べるのが遅いとアイスを吸ってへんにょりするタイプ。専用の型に液状の生地を流し込んで、上から円錐の型を押し込んで空洞を作り焼き上げるっぽい?


ヨーロピアンシュガーコーン好きです。チョコレートの歯応えとコーンの歯応えがたまんない。

最中っぽい方はジャンボが好きです。アイスクリームじゃないけど。最中生地が湿気らないように内側にチョコを塗ることを考えた人はマジで天才だと思います。中にチョコが埋まっているのもいいよね……。バリボリする歯ごたえ好き……。

胃腸が弱めなのであんまり氷菓食べないんですが、おいしいのでついつい食べてお腹壊すんですよね~。


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