78 杖生産
先週は無断で更新を止めてすみませんでした
今後、更新は不規則になるかもですが、更新する際は月曜日固定にしますので、更新されなかったら諦めてください……
あと、諸事情のため更新時間を0時に戻しますー
夕暮れの中。
ミツミツの実の背後に潜む闇を抱えた気分で、ギーメルの街への帰途に就く。なんだか酷いものを見てしまった気分だ。肩を落としつつ歩いていると、前方に影が差す。
「おう、最近見なかったが。戻ってきたのか」
「師匠……。お久しぶりです」
「そんなに長くいなかったか? まあいい。工房の掃除を頼む。
相変わらず汚部屋らしい師匠と合流し、鍋さんから買った食材が瞬く間に食い尽くされる未来が見えた。
それはさておき。
「師匠、刀の鞘の作り方教えてください」
「いいぞ」
私は鞘を作るべく師匠の工房に入り浸り生活を開始した。
しょり……、しょり……。
ノミを研いでいるなう。
朴の木は比較的柔らかいのだが、ちょっとささくれやすいのだ。キレッキレの刃物で削ってやんよ!!
まあ、まずは練習用の朴の木を加工するんだがな。朴の木ってそこらへんに生えているらしく。
何が言いたいかというとストレージの中に入っていた。
「うし、こんなものだろう」
チャッと刃を乾拭きし、いざ作らん。
半分に縦に割って、両方に刀の模型に沿って鉛筆でアタリをつける。彫ったところをうまく合わせて、後からもう一度接着剤で貼りあわせるのだ。
線に従ってしゃっしゃっと薄皮を剥くように彫っていく。模型を当てては削り……。
「刀とうまく合わんな……」
スパーン、と景気よく頭をはたかれる。振り向けばディオディオが牛串をもぐもぐしていた。
ちくしょう、肉肉しい香りを漂わせよって……! 私も食べたい。
「……刀は基本的に、左右どちらかに偏っている。それに合わせろ」
「おおおう、マジだ」
目の高さに、刀の模型の刃を水平に持っていくと、確かに真っ直ぐではない。えー、これ彫れるかな?
……練習あるのみ。幸い練習用の素材はたくさんあるし……(吐血)。
ゲームらしく、はやくも慣れてきた。
満を持して冥界産だという朴を取り出す。凍えるような白さは、冥界のものゆえなのだろうか。温度の無い、非常に無機質な材だ。
しゃーっしゃーっと、滑らかに木の表面を撫でるように削る。長い鰹節みたいな木くずは、不思議と白い煙に変わった。
ピタッと、彫りこんだ内側に刀が嵌る。餅スライム製接着剤を薄く塗って、貼りあわせる。
工房にあったロープで縛りあげ、ずれていないことを確認して、魔法で乾燥させた。
「よしっ!」
穴に預かった刀がすぅっと吸い込まれる。
後は周りを鞘っぽく整えてヤスリかけて漆を何度も塗って乾かして塗って乾かして終わり。……意外とあるな。
まあ何とかなるだろう。うむ。
ちょっと飽きたし杖でも作ろうか。うむ。
今まで加工し忘れてた諸々の木材を取り出し、いい感じに削っていく。気まぐれにフェアリーズがやってきて、祝福していく。いったいどんな効果があるのやら。
絶対ロシアンルーレットだろうな。
売るのはサカイ君だ。彼ならきっと捌いてくれるはずだ……。うん。私は彼を信用している。
刀の鞘に使った朴と同じく、冥界産の槐だけは祝福されなかった。理由を聞くと相性が悪いのだとか。
鼻を押し当てると苦い香りのする杖は、つやつやに磨くと黒真珠のような光沢を持った。めちゃくちゃカッコイイ。
なんていうのかな、あんまり手を入れない方が美しい気がして、木のうねりに沿ったシンプルなデザインに落ち着いた。
ただの枝を磨いただけでは、とは言ってはいけない。そう見えるだけだ!!
「『混沌』」
まあ、たまには。
軽い気持ちで、フェアリーズの祝福代わりに唱えてみた。
すると、脇に置いてあった氷のような見た目の霜氷樹と混ざった。なんか半分くらい氷柱みたいな杖になってしまった。これはこれでアリだな。
《一点ものかつ手作りの製作数が百を越えたため、スキル【スキル付与】を得ました》
【スキル付与】とは???
首を傾げると、握っていた槐の杖の上に半透明のウィンドウが開いた。鑑定スキルってこんな感じなのかな、などと思いながら読み進めていく。
【黄泉返り】【黄泉送り】【怨嗟の招手】【吹雪】【氷像】
たったこれだけだが。
なるほど、杖自体にスキルを持たせられるらしい。
このウィンドウは提示されたスキルの中から一つを選ぶもののようだ。おそらく。たぶん。そうなんじゃないかな。
熟練度が低いから一つだけっぽいが、混沌を使わずに確実にスキルを付与できる。
なんと素晴らしいスキルだ!! 自分が杖になるリスクと戦わずに済むとは!!
……それはともかくとして。
どれにしようかな。
……ここで一つ問題がある。
例によって例のごとく、スキル詳細がわからない。
しかもだ、付与するスキルを決められるのは完成直後の五分間のみ。
ウィンドウ隅が赤く光ってたから何事かと思ったら、タイマー! しかもすでに十秒きってる!? うえっ? ちょ、待っ!!?
《制作物にスキルを付与しました》
うおおおお!? 焦って適当に何かを押したらしい。
まあいいか。スキルが付与できないよりはマシなはずだ。そう信じている。
「じゃんじゃん終わった~?」
「おう」
私が出したアップルパイを頬張りながら、フェアリーズが作業が済んだとみて飛んできた。
「でんごーん!!」
「精霊界のハイエルフの長老がねー」
「ミツミツの実まだあー? だって」
「おー、丁度とってきたところだ。配達頼んでいいか?」
なんというタイミングの良さ。収穫ほやほやである。原料は考えてはイケナイ。
トオイメをしながら、私は二つミツミツの実を取り出した。フェアリーズが駄賃を要求するのは目に見えていたからだ。
実際、「えー、いいけどぉ?」などと宣いつつ、チラチラと視線をよこしていた。
あざとい。実にあざとい。
「ほれ、一つはお前たちで食え」
「ひゃっはー! そうこなくっちゃ!!」
「さっすがじゃんじゃん、わかってるぅ!!」
「ボクら、両想いね!!」
そこのうっとりしているフェアリー? お前の目はミツミツの実に釘付けなんだが???
名前:ジャン・スミスLv.45
種族:人間 性別:男性
職業:【気分屋】
HP:171
MP:419
STR:32
VIT:29
INT:55
MID:90
AGI:139
DEX:146
LUC:99
称号
【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】【変異種】【補佐官】【野菜泥棒】【逆走の探索者】【養蜂家】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(一)】【肉体言語(初)】
魔法
【魔法陣(玄)】【生活魔法】【詠唱】
生産
【細工(一)】【採取】【料理(初)】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】【スキル付与】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】
特殊
【混沌】【手抜き】【六文銭】
牛串
大学の文化祭でよく見かける。なんであんなに高いんだろうね。地味に食べた記憶が無いんだよなあ。
朴
大きな葉っぱは朴葉味噌とかいうものに使うことも。古来、日本刀の鞘として使われている。木材の中では少し柔らかめ。全国各地で生えているため、とっても使い勝手が良い、らしい。
槐
褐色でつやつやしててすごく高そうな木材。あんまり流通はしてない。中国からやってきた。基本的に街路樹として生えているらしいぞ!
宵星朴の白鞘
丁寧な拵え。冥界産の鉱物を打って作られた刀に最適。宵星朴の特性により、刀の傷をなくす、自動修復機能付き。いつものように【手抜き】さんがお仕事してます。手抜きなのに。
霜氷混じりの奈落槐の杖
氷属性と死属性に特化した杖。確率で対象を即死させる。なお、範囲魔法でも発動するため、その時は一気に殲滅できる。杖自体が【黄泉送り】というスキルを所持。ダメージ蓄積で任意発動する。
参考
文部科学省 世界に誇る日本のクリエイティブ「日本刀」~備前伝の鞘師~
https://www.youtube.com/watch?v=NQjvICAMiOY&app=desktop