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77 秋の味覚と養蜂家じゃんじゃん



 朝靄がまとわりつく秋めく森のなか。鬱蒼とした森には優しい虫の音が涼し気に木霊している。蚊もいる。滅びればいいのに。

 それはともかくとして。ハニートレントはどこかな。探していると見つからないものである。


 現在ギーメルの森。師匠が森にいるとフェアリーズに聞いたのでやってきた。ついでにハイエルフの長とのミツミツの実(約束のブツ)を採収したいのだが。やはりアポなしは厳しいか。まあ、取ろうとしても取れないけどさ。


「ハーニーちゃーん! あっそびまっしょー!!」


 ダメもとで叫んでみる。思ったより木霊しない。ちぇー、地道に行くかあ。




 まあ、すぐに見つからなければ、しかも捜索のあてもなければ。

 そりゃあ寄り道するよねっていう。


「うは。松茸だ!! え、こっちにもある!! ……なんかレアな感じが台無しだな」


 毟るけど。籠一杯の松茸にニヤニヤ、七輪で炙られた松茸を想像してさらにニヤニヤ。おっとよだれが。途中で湧い(ポップ)た猪や鹿も冬眠を前に肉付きが非常に良い。これは美味い(確信)。


 見える限りの松茸を収穫し、ふーっと顔を上げると、目の端に赤い木の実がちょっと遠くに見える。林檎っぽい。あれ、なんか移動してないか、あの林檎の木。トレントじゃないか? ということは美味しい林檎が獲れる確率120%では?

 悩んだのは一瞬。私は松茸をインベントリにつっこんで、すぐさま駆けだした。


「意外と早いな!」


 懐かしくも木の上を飛び跳ねながら追尾。落ち葉で地面を走ると転ぶのだ。さっき顔面から地面にダイブしたから間違いない。乾いて降り積もった枯葉はきれいだが、戦犯である。顔がまだ少し痛い気がする。

 対象は気づいているのかいないのか、スキップするように森を進んでいく。

 やがてなんか(うごめ)いている木々の集団に合流した。ここがゴールらしい。しばらく観察していると、みるみるうちにトレントが集まってくる。え、なんか今日イベントでもあんの?

 樹種を確認すると、茶色く変色したイガイガを身につけた栗、黒々とした房を実らせた蒲萄、濃い緑にオレンジがよく映える柿、黄緑がかったたわわな梨。


 秋の味覚じゃん。


 んー、どうやって交ざろうかな。顔見知りのトレントはいないものか。そう思って、ここらで生えているのは珍しい楓の木の上から、ジッとトレント達に目を凝らす。

 ……だめだわからん。諦めて適当に声を掛けようかと悶々としていたその時。

 ハニートレントが重役出勤してきた。銀杏(イチョウ)よりも鮮やかな黄金の葉を揺らし、堂々たる足取り。


 なんか他の雑談していたっぽいトレント達が枝葉をざわめかすのをやめて、直立不動の体勢だ。え、お前らそんなにスゴイトレントだったの???


 トレントたちの無言のやり取りのあと、ハニートレントが私を()招いた。たぶん。

 なんだよバレてたのかよ。滅茶苦茶恥ずかしいんだが。でもいいチャンス、と思って木から下りようとしたら、木が動いた。


 お前もトレントなのかよ!!?


 えええええ……。呆然としている間に、私が載ったトレントは中央に躍り出て、挨拶のように枝を何度か曲げる。

 ぱん、ぱん、と一度枝を打ち鳴らすと。ラジオ体操を始めた。……お前まさかザイーンからはるばる? ラジオ体操を教えに? 嘘だろ???


 無駄にキレのあるラジオ体操をその場にいたトレントが2セットほど真似して繰り返したところで、私は樹上から丁重に下ろされた。

 そんでもって枝を切るようなジェスチャーが。私はお前たちのエステティシャンとかじゃないんだけど……。微妙な納得のいかなさを胃の奥に沈め、私は手斧を取り出した。


 果実系の樹種は市場に出回りにくいのだ。売り物実らせるものを伐り倒すなんて滅多にないのだ。

 栄養が木を通して果実に行くので、木自体にも微かに香りがする。現実(リアル)だと、ちょっと乾燥のときに曲がりやすいしあまり太くならないので、手入れのときの枝をチップにして燻製に利用するのが多いんじゃなかろうか。知らんけど。


 むふふ。太い枝ゲット! ここのトレントは本当によく肥えていて、惜しげもなく――実際、彼らにとって贅肉とか枝毛なのだろうが――私に提供してくれるので嬉しい。

 今回は同時に果物も収穫しているので、二度おいしい。林檎の木の上で、私の近くに寄せられた枝から一つ捥ぐ。


 真っ赤に染まったつやつやの林檎を、ぐいっと袖で軽く拭ってかぶりつく。パキッと皮と実を抉り、シャクシャクと歯が実を砕くたびに甘さが……やっべこれめっちゃ甘いんだけど。

 齧ったあとを見れば……蜜まみれ。やべえなこれ。美味いけど。もぐもぐもぐもぐ。

 ぺいっとすっかり痩せた芯を放りすて、指に滴った汁を舐める。


 このまま食べるのが一番な気はするが、鍋さんにアップルパイでも作ってもらおうかな。

 よっし、休憩はこんなもんで。浄化の魔法をさっとかけ、べたつく手にさよなら。


 ちゃちゃっと……と言えるほど手際は良くないが。一通り選定を終えれば、ミツミツの実を垂れ下げたハニーちゃんがやってきた。

 お互いに久しぶり、という感じで片手を上げる。どのハニートレントだろう。わからん。が、挨拶は社会人の基本だ。


「よう。お前さんまた枝ぶりが上がったんじゃないか?」


 よせやい、とでも照れているかのように幹をくねらせ、つんつんと私をつつく。その拍子にぽろんぽろんと転がるミツミツの実。

 即行で回収する。うはうは。


 正直枝を振ったくらいで落ちるような巣はそんなに多くないので、前回のように蜂さんたちの引っ越しを待って巣を回収する。


 すると蜂さんが私に集ってきた。怖い。

 え、何? 何を求められているのか???


 全然分からない私に呆れたのか、蜂さんたちは群れで空中に絵を描きだした。

 二足歩行の生物が四足歩行の生物を仕留めると、そこへ新たな蜂さんたちが投入され、それらは倒れた四足歩行生物役に群がり、やがて四足歩行生物はほぐれていった。


 ……まさか。ここの蜂さんたちってもしや肉食……?

 今私が収穫しまくったミツミツの実は、木々や草の花々の蜜ではない……?


 怖いもの見たさ、というか。

 蜂さんたちの期待の圧力、というか。


 諸々のそれらに屈した私は、途中で仕留めた鹿をインベントリから取り出し、地面に横たえた。

 瞬間。


 骨。


 それはそれは白い出来立てほやほやの骨。湯気もほやほやと……いや、流石に血煙は上がらなかった。

 うん。あと何匹かモンスターの死体追加した。


 満足いただけたらしく、追加でもういくつかミツミツの実を頂けた。いったいこれは、何でできているんだろう……。


《一定数以上の蜂から認められたため、称号【養蜂家】を得ました》




名前(ネーム):ジャン・スミスLv.45

種族:人間 性別:男性

職業:【気分屋】

HP:171

MP:419

STR:32

VIT:29

INT:55

MID:90

AGI:139

DEX:146

LUC:99


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】【変異種】【補佐官】【野菜泥棒】【逆走の探索者】【養蜂家】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(一)】【肉体言語(初)】


魔法

【魔法陣(玄)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(一)】【採取】【料理(初)】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



マツタケモドキ

松茸。私は松茸を食べたことが無い気がする。土瓶蒸しとかよく見るけどおいしそう。香りが豊からしい。


マツタケモドキモドキ

松茸に似た毒キノコ。主人公が見つけた松茸の大半はこれ。


秋の果物

梨と蒲萄が好きだ。噛んだ瞬間じゅわって甘い果汁が滴る水っぽい果物美味しいよね……。銀杏は嫌いだから削除した。

東京に銀杏が多いのは本当にどうにかしてほしい。臭いし、通行人に踏まれてぐしゃっているし。靴裏に着くと悲しいし。遠くから見る分にはアスファルトの黒と落ちた銀杏のオレンジですごく綺麗なんだけどね。


林檎

ぱりぱりした林檎としゃりしゃりした林檎があるじゃないですか。私はぱりぱり派です。蜜はあってもなくてもいいや。皮付きでカットした林檎のほうが、食感にメリハリがあるので個人的には好きです。酸化した林檎とか、防酸化処理した林檎はあんまり……。

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