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70 テス遺跡



 遺跡なのだから、荒れ果てた畑が広がっていると思うじゃん。

 赤茶けてぱっさぱさの土と雑草で大草原だと思うじゃん。光をいくつか飛ばせばそれはそれは見事な畑が。


「……なんだこの見事なトウモロコシ畑」


 しかしきっと珍しいとうもろこしに違いない。なんか毒々しい赤紫色なんだが、気にしてはいけない。

 まさか毒ではないよな?普通にマチュピチュな高山の植物だって、私は信じている。

 鎌はないので、鉈でぽきぽきと収穫している。所々にパイプが顔を出していて、非常に謎である。これ土が詰まらないか?


 フェアリーズは早々に飽きてしまったらしく、ぴょろろ~と草笛を演奏している。


「お、ジャガイモか?」


 薄めの紫の花がいい感じの草原。土を軽く払って、存外がっしりとした茎を引っ張る。ぶちぶちっといい音を立てて茎だけがもげた。

 よし、腰を据えて掘り起こすことにするかな。

 芋に指が届いた直後。


「いでっ!」


 指が噛まれたっ!慌てて土の中から手を抜くと、真っ黒な芋が食いついている。

 これ無理に引き抜いたら指がもげる奴だ。瞬時に判断して芋に指を押し込む。ぐえっと指を吐き出したところを、腰に吊っていた鉈で殴る。


 ぴくぴくと痙攣した後、ぽふんと音をたててジャガイモがドロップした。


「なんだこの芋、羽があるんだが。……、中は青いのか、食欲湧かねえな」


 試しに一つ割ってみると、鮮やかな群青色。……こう、見るからにヤバいものって食べたくなるときあるよな。


「【熱】!うおおお、オレンジになった!!皮は黒いままだけど」


 適当に出した塩を振って齧ってみる。お、なかなか。


「ビャッ!?」


 電気ってこんな味!?無臭だから油断した。

 鍋さんとサカイ君は欲しがる……といいなあ。一応麻袋一杯分くらいは確保しておこう。


「お、枝豆だ。流石、コン何とか植物。って枝豆!!!」


 わーー!!ここでも育てているのか!!

 感動!!

 根ごと引き抜いて、ぶちぶちと豆を毟っていく。葉はちくちくするし、意外と指が疲れるが、枝豆(産毛付き)だ。ここで逃したらいつ収穫できるのかわからん。せっせと毟ってはストレージに詰め込んでいく。

 しかし大豆は生っていないのだろうか……。


 見渡せど、見渡せど、広がるのは緑ばかり。いっそ成長させられないものか。


「じゃんじゃーん、どうしたの?」


「さっきまでせこせこ働いてたのに~」


「どんな風の吹き回し?」


「おい、私が働いていないみたいに言うんじゃない」


 まあ、現在ゲーム(遊び)に来ているんですがねー。本題を切り出すべく、わさわさと生える枝豆を指す。


「まあ、いいや。お前たち、この植物の生長を早めたりできないか?枯れる寸前まで」


「できるよん♪」


「おねえさんに、まっかせなさーい」


「「「うつろえー、ごま!!」」」


 聞き覚えのある呪文である。さては毎回適当に唱えているな、こいつら。

 ただし効果は抜群だった。にょきにょきと、とまではいかないが、見える限りの枝豆が一回り大きくなり、あっという間に白茶けてからからかぴかぴになった。稲刈り機もかくやと言う心構えで鉈を手にとり、初心者速度で収穫していく。


「やー、助かったよ。ありがとうな」


「もっと崇めろ~」


「わ~れ~わ~れ~はー、く~も~つ~をーよ~う~きゅ~う~す~るー」


 口に手をぱこぱこ当てて声を揺らすフェアリーズ。ごめんな、もう手持ちが無い……。

 あ。カエルがいたか。


「カエルでもいいか?」


「おん?カエル??」


「チョコレートだ」


「「「チョコ!!!!」」」


 フェアリーズは傾げていた首を一斉に正して、目をきらっきらさせる。なんか罪悪感が……、とりあえず出してみるか。

 いつぞやの五角形の青い箱のふたに手を掛ける。


「飛び出すからな、構えろよ?」


 わからないなりに彼らが箱に群がったところで、開封ーーー!!

 びょーんと筋肉があるようには思えない後ろ足で飛び出す、焦げ茶色のカエル。


「チョコだ!!追いかけろ!!」


「回りこめ!逃がすな!!」


「あっ、待てええええ!!!」


 なんか軍隊っぽくなったな?フェアリーチョコレート追跡部隊って感じだ。パッセルも目が覚めたらしく、フェアリーズと共にカエルを追いかけて行った。

 あっという間に畑エリアから消えた彼らのことはさておき、収穫を続ける。

 お、トマトじゃん!!つやっつやの真っ赤っか!齧ってなくてもみずみずしい甘さが香る気がする。なんか花粉バンバン飛ばしてくるけど、無視無視。


 それにしても、夜が明けない。うっかり徹夜で収穫作業をしてしまったが、未だに周囲は暗闇に沈んでいる。

 そろそろ休もうか。そう思って顔を上げた時だった。


「コケコッコオオオオオ!!」


 雄々しい鳴き声に振り返れば、私より頭一つほど大きい鶏が腕(翼?)を組んで仁王立ちしていた。





あとがき

コンパニオンプランツ

一緒に植えるといい感じに育つ植物の組み合わせ。

枝豆とトウモロコシは定番たぶん

逆に一緒に植えるとダメな奴もある。虫を寄せ付けたり、必要な栄養が同じだったりする。

トマトとトウモロコシとか。


悪魔馬鈴薯(デビルポテト)

教会に指定された悪魔の植物。ちなみにこの青い芋には目が無い。どこに毒があるんだろうか。


高山玉蜀黍(マチュピチュコーン)

赤紫系統のとうもろこし。食ったことないんだが、絶対甘くないよね。私は品種改良された日本の甘いトウモロコシが好きです。生でかじっても美味い。


迷宮豆(ダンジョンソーイ)

大豆によく似ているが……?


寒冷蕃茄(クールトマト)

花粉には麻痺毒があった。実は。主人公の毒耐性がね……、ちょっと久々の活躍に荒ぶったらしい。


夏野菜には体温を下げる効果があります。冬野菜には体温を保つ効果があったような……(うろ覚え)。要するに、旬の野菜食えってことです。

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