69 エルダードワーフ
トレントたちと別れて谷の方を振り返ると。
ずらりと並ぶずんぐりむっくりな髭面たち。
一歩前に出てきた真っ白な毛を持つドワーフに、ぎょろりと、太く濃い眉毛の下から睨みつけられる。
「何者か」
ひび割れ苔むした、巌のような不思議な声だ。名前を言いそうになって、それはまずいと思い出す。
「人間だ」
「……む。何故にトレントどもを引き連れて郷へ来た。郷は大わらわだ」
「お騒がせしてすみませんでした」
厳しい声音と非難するような針の目線に耐えかね、即座に土下座した。私にプライドなどない。
「まあじゃんじゃんだし仕方ないよねー」
「被害はなかったしいいじゃんじゃん」
「長老〜大目に見てやんなよ〜」
底抜けに明るいフェアリーズに助け舟を出される。お前たちはどこにでもいるな。個体の区別つかないけど。
「……致し方あるまい」
むっすー、という鼻息が聞こえそうである。
のっそのっそと谷へ戻っていった。
「よう、朝以来だな。さっきは取りなしてくれてありがとうな」
「さっきぶり〜」
「まあ良いってことよ」
「ボクたちセンパイだからねー」
「あっぽーぱーい」
群がるフェアリーズに飴を渡す。ちゃっかり増えている気がする。そしてすまんな、アップルパイの手持ちはないのだ。
「ところで、私が泊まれる宿はあるのか?」
今にも力尽きそうな太陽をちらちらと見ながら尋ねた。
「無いケド」
マジか。
ザイーンの渓谷、エルダードワーフの隠里らしい。
夜更けになっても、宿泊を断られすぎて私は寝ぐらを確保できずにいた。
「弱ったな」
「全然弱ってなさそ〜」
「ボクらの寝床、ちょっと前のジャンジャンなら入れたんだけどね〜」
「今はデカブツー」
デカブツは酷くないか?あとどれくらいで香が切れるんだっけ。
「よし、今日は野宿でいいか。明日はダンジョンに行こう。頼む、案内してくれ」
ダンジョンは異界へ渡る扉――というかきっかけがある、ハズ。今からギーメルの郷まで戻るのは面倒だ。
「イイよーん!よよよん!」
「んー、近いのはテスのダンジョン?」
「だねー。他はボクたち、案内出来ないし」
「なんでだ?」
ダンジョンはあるんだよな?
そこから元の世界に行けるんじゃないのか?
野宿するのに良さそうなトレントを探して、また郷の外へ向かいつつ尋ねる。
「ボクらが行けるのは混沌界と精霊界だけだもん」
「ザイーンのダンジョンはどこ行きなんだ?」
「えー、覇王界かな??冥界かも??」
「わかーんなーい♪」
詳しく聞けば、今居る精霊界のほかに物質界、覇王界、幻想界、冥界、始原界、時界があるらしい。混沌界は元の世界だそうだ。
なんかすごい情報を聞いた気がする。流石なんちゃって年寄り。
「ダンジョンは異界へのゲートだけど、一方通行なことも多いの」
「混沌界は常に開いているけどねー」
「ボクらそんなにフラフラしてないよ?」
「じゃあ、テスまで頼むな」
「まっかせなさーい」
「「「ごま」」」
「今かよ!?」
フェアリーズの一言に突っ込むも虚しく。白い魔力が私たちを包み込んだ。
「ここどこやねん」
思わず関西弁になってしまった。目の前には今にも崩れそうな、緑はびこる石造りの遺跡があるし、おそらくテスのダンジョンなのだろう。夜なのも相まって完全に肝試しスポットだな。
「どこってテスのダンジョンー」
「だんじょんだんじょだんだんじょん♪」
「一応、お前たちのことは信頼しているけどさ」
たださ、メニューからマップを開いたら私が立っている場所しか情報がないんだよ。他が暗黒大陸と化している。歩いたところしかマッピングされないから仕方ないんだが。
「よし、行くか!」
「ごーごー!!」
適当に武装して……、おっと武器がない。まあ手斧で……、手斧でいいか(震え声)。
「【光】……【カンテラレベル】」
小さく唱えれば、薄暗い遺跡内に蛍よりは明るい灯がともる。あー、全然周り見えん。追加で呟けば、ふわふわと行く先を照らした。よし、まあまあだろう。
フェアリーズとたぶん寝こけているパッセルを連れて、存外乾燥した遺跡内に入る。
「……地図?」
しばらく進むと、簡易的な地図が現れた。ピザのように円形が扇形に区切られている。全く文字は読めないが。なんだこのワカメみたいな模様。
「お前たち、これ読めるか?」
「んん~?今いるのが、城壁でしょー?」
ピザの縁をなぞるように一人が飛んだ。そこから時計回りに指さしていく。
「それで、宮殿でしょー、庭園でしょー、神殿でしょー、この三つが下町でしょー、それと墓?畑もあるねー」
「掠れててあとはわかんないけどねー」
「十分だ、ありがとう」
スクショしてメモしておこう。
よし、一番近いのは畑だな。行くか。
あとがき
『男女』:これが流行った時、私はたしか小学生でした。懐かしい……。