68 普通サイズ
お久しぶりです
クオリティはそんなに上がっておりません……が、楽しんで頂けたら幸いです
活動報告にも書きましたが、毎週月曜、朝6時でまたしばらく更新する予定です
大きく戻った体に気力がみなぎる。
一歩50センチ、たったそれだけの事実にものすごい感動。
エルフっぽいややゆったりとした狩人装備に身を包み、いざカラフルな森へ!
「よし、エルダードワーフがいる街に行くぞー!!」
「「「おー」」」
やる気のない賛同はフェアリーズ。
私が同じサイズじゃなくなってからちょっとテンション低めだ。
「なんでそんなに元気がないんだ?」
「だってだってー」
そこで口を噤んだフェアリーズ。
「あれー?」
「なんでだっけ?」
「まーいっかー」
「おーまいっがー♪」
おい。
……しかし、小さいと顔を見合わせて首をかしげる集団は可愛いな。
そこではたと気づいた。気づいてしまった。
小さいままならパッセルに運んでもらえたのではないか、と。
「オーノーッ!」
ま、いいか。思わず頭を抱えた手を下ろす。
小さいままだとままならない採取品もあったし。木とか木とか木とか木とか木とか木。つまり木。
私が欲しいのは草本植物じゃないのだ!
フェアリーズがいるせいなのか、森の木々はひそひそそわそわと此方を窺うような気配だ。
めっちゃ気になる。噂が噂を呼んでいてとんでも評価をされている可能性が。
「あっ、じゃんじゃんラッキーだよ!」
「あそこに激レア・ローワントレントがいる!」
「しかも食べごろ!」
「え、マジ?今春だろ?」
花の名残が黒い星になっている、真っ赤な実がつぶつぶと黒い枝に成っている。この森だとたいそう地味だ。
しかし、南天の食べごろは冬の筈だが。
プツリと摘んで、口に放る。
「にが」
おぅぇっ。思わず口が歪む。
しかも妙に水っぽくていけない。ぶちゅっと美味しくなさそうな音がお似合いだ。
煮詰めてジャムだな。砂糖をブチ込むしかない。実の収穫はフェアリーズに任せて、枝を採取する。
もうね、そわそわしているのが伝わるんですよ。
まだ、ねえまだ?ここがかゆいの、みたいな感じが。急かされているようで落ち着かないのだ。
「あらよっと!」
鉈を振りかぶって枝を落とす。果実のなる木の御多分に洩れず、堅い。
良い枝ぶりだ。せっかくナナカマドなのだし、杖にしようかな。
「こんなものか」
幾分サッパリした様子のトレントは、感謝の念を伝えてくる。
「まあ、気にすんなって。……うわっ!?」
軽く幹を叩くと、トレントは私を乗せたまま、おもむろに走り出した。慌てて中心の幹にとびつく。
ゆっれっる!おっちっる!
「じゃんじゃーん!」
「じゃんじゃん誘拐事件!」
「大変!……大変?」
振り返ればフェアリーズがわちゃっとしていた。助けてくれると嬉しいんだが。
「追いつけないねー」
「どうするー?帰るー?」
「じゃんじゃーん!またねー!!」
薄情者ーっ!!
そう思う間に、どんどんと離れていく。パッセルも一緒なのだが……。寝ているのか、腹から動く気配がない。
どこに連れていかれるのか……。不安なような怖いような……、一周回って楽しみでもある。
連れていかれた先には、なんだか親しみの持てる地味な木、もといトレントが集結していた。この賑やかな色彩の森では珍しい、馴染みのある配色。
茶色と緑って良いよね。
しかしどう見ても剪定待ち。
私は床屋でも庭師でもないのだが。
でも木材は欲しいし、今は体が大きいし、とスパスパとカットしていく。
こちらの世界では、何事も気合が重要である。切るぞー!魔力みなぎれー!といった気持ちが相当いる。
気をぬくと手斧がすり抜ける。切ったつもりで切れてない。
妖精の世界、物理職には鬼門だな。
黙々と最後の客の手入れを済ませれば、ほくほく顔の私を乗せたまま、うきうき空気のトレントは走り出した。
やーいやい、アニキのお通りじゃー!
そんな感じの思念が脳内に響き渡る。
おそらく森中にも。
なんかむちゃくちゃ恥ずかしい。こそばゆいというか。
勘弁してくれ……!
先頭のトレントの上で蹲る私をよそに、爆走するトレント族。枝や土を蹴立てて突き進む。
ついでにモンスターも撥ね飛ばしているらしく、たまに横を通り過ぎていく。
せっかくなので掴めたのは回収した。恥ずかしさに慣れれば、割とホクホクなポストである。
日の沈む頃、私はトレントから降りた。
元々向かう予定だったエルダードワーフの街〜〜というか谷〜〜に着いたのだ。
枝を振りながら街から離れていくトレントを見送る。
「ありがとなーー!」
なんだか、青春を思い出して恥ずかしい一日だった。だが、妙な達成感が胸にある。
こういうのも悪くない。
備考
日本の南天というか七竈は微量ながら毒があります。食べないように。
食べたい方はセイヨウナナカマドとかが食べられるらしいので、そちらをオススメしますが、きちんと調べてからにしてください。お腹を壊しても責任は取れません。
草本植物
草。種作って枯れて何も残らない。茎と葉で出来ている。
木本植物
木。枯れても幹(茎)が残る。
七竈妖樹
山南天妖樹とも。魔法適性バツグン。
ナナカマド
7回かまどにくべても灰にならないことからその名がついた(らしい)。でも燃える(らしい)。この辺、適当にネットから拾った。