63 越境者
消えた部分に加筆して一話分にしました。お騒がせしましたm(_ _)m
2018/4/12
木々の合コンから生還し、工房に戻る途中。
他のプレイヤーと交渉を終えたらしいホクホク顔のサカイくんに会った。
「あれ、ジャンさん。お久しぶりですね。もしかしてトレント狩りのクエストを終えたところですか?」
「まあな」
「もしよろしければ、トレント素材売っていただけませんか?」
「悪いが、師事しているエルフの代理として参加したようなのでな。クエストの内容的に、私は持って帰らないとだと思う」
もう一度メニュー画面からクエスト内容を確認し、赤いリボンのついた丸太たちを思い浮かべる。
しかしディオディオに怒られるかもしれん。トレント素材は無い。
「それは残念。他に僕が買い取れるものは有りますか?」
「んー、そうだなあ……。最近は何も作ってないからな。あ」
さして残念そうでもないサカイくん。まあ私は木工師だから木材を売らないのは想定しているだろう。
そういえばサメクの街で作った御守りがあった。イエティの毛皮もいくつか売るか。使わんし。
「これを高めに買ってくれ」
「……また、見たこともないものですね」
呆れられても困る。なんか手に入ってしまうのがいけないのだ。
しかし素材代くらいは取り返したい。ざっと五十万。
通路の端、巨木の根元に寄って鑑定するサカイくんをじーっと見つめる。
「……御守りは、珍しさはピカイチですが、効果はあまり人気のあるものではないですね。現状需要がないです。毛皮の方も、扱える生産職がいるかどうか怪しいですね。しかもこの辺で流通していないので、値段が付けづらい」
なんだと。そんな気難しい素材なのか。
むうむう唸りながら、サカイくんは鑑定書を作成してくれた。
「とりあえず百二十万で買い取ります。実際はもっと高いのかもしれませんが……」
「いや、それで頼む」
元が取れればいいんですよ、ゲームだからね!
「そうだ、鍋さんから新作を預かっていますよ。今回はタルトとワイン、スライムゼリーですね。ベストセラーなんですよ、スライム」
「ありがとう。楽しみだ。他にも菓子類と主食系のものを売ってくれ」
未だに新作はタダで貰えるのだ。一食分だけなので、買いこむべく結局散財するのだが。
ようやく戻れば、ダラけきったディオディオとフェアリーズが工房に転がっていた。
木屑とか服に着かないのだろうか。あれ意外とチクチクするぞ?
「おかえりじゃんじゃんー」
「ただいま。丸太はどこに置けばいいんだ?」
「とりあえず乾燥するから、裏口から出て右の倉庫に突っ込んでおけ。フェアリー、案内してやれ」
裏口、そんなものあったのか。
「ディオディオ、ボクら使い荒くなーい?」
「ご機嫌ナナメなの?川魚いる?」
「じゃんじゃんこっちー」
弧を描くような工房を抜けて案内された倉庫は、倉庫というには壁がなかった。
乾燥促進の魔法陣が四方の柱と申し訳程度の屋根に刻まれている。
大雑把に積まれたいくつかの丸太の山を見る限り、樹種別に山があるようだ。不安ではあるが【識別】を頼りにストレージ内の丸太を積んでいく。
……やべ。このハッスル死したトレントどうしよ。枝葉を払っていないし、なんなら根っこごと持ってきた。しかも絶対ここに収まらないという……。
よし、このまま持ってよう。
綺麗に積めた達成感を供に、ディオディオのところへ戻る。一人でコーヒー飲んでやがった。
「ご苦労。それじゃあ星幽石も頼むな」
ここに来て怒涛のお使いクエストかよ!
「今、森から帰って来たばかりなんだが?」
「別に急ぎではない。採ってこなかったら破門な」
しっしっと追い払う仕草がムカつく。
畜生、足元見やがって。
「サクッと採ってくるぞ!」
「おおー、がんばー」
ゆるいフェアリーズの声援を受けて森へとんぼ返りした。地味に付いてきてくれないの悲しい。
受注クエスト欄に、【星幽石を取ってこよう2NEW!】とある。
……期限:20年。そんな掛からんわボケ。
メニューからクエスト情報を確認すれば、星幽石(大)×1、星幽石(極小)×50とある。星幽石(大)はいくつかストレージにあるが、屑星幽石はそんなに無い。
ダンジョンの泉に潜らねばなるまい。
途中パッセルを拾い、ふんわりフェアリー見習いに突撃されながらダンジョンを踏破。
今回はトリ頭のシーラカンスがボスだった。
移動速度が陸上だと非常に遅かったのだが、なんでこんな形態で泉から出てきたのか謎である。そのかわり堅かったが、目から頭を貫けば倒せた。星幽石(大)二個ゲット!
「私も強くなったということか」
ふふん。全部パッセルのせい。
さて潜ろう。
ヘエで買った水着を装備し、チマチマ泉の底で屑を集める。流木はもう良いや、硬いし。
パッセルも付いてきた。水の中でもしぼまない体毛、ヤバイな。撥水性とかそういう次元じゃなく、存在がフェアリーズと同じなのだろう。
泉の底の祠は健在だった。よく朽ちないな。
苔を払い、水草を取り除き、なんとなくスライムゼリーをお供えをすると。
「まぶっ」
祠が突然発光した。
カッと目を焼く白い光に慌てて目を閉じ両手を翳す。
「ん?何も変わってないな」
徐々に光は収まって、目を開けたが何も変わっていない。祠がちんまりと佇むだけだ。
……いや、何故か初期装備(魔)に着替えていた。いつの間に。
とりあえず水面へ浮上……、あれ、なんか遠いような?
「はあああ!?」
《お知らせします。異界へ到達したプレイヤーが現れました》
《称号【越境者】を得ました》
空は桃色、木は銀、葉は金。他にもいろんな色の組み合わせの木がある。
そして何より、デカい。
もう一度言う、デカい。小人にでもなった気分だ。
さっきまでギーメルのダンジョンに居たよな?異界?何それおいしいの?
「痛!」
呆然と立ち尽くしていると、後頭部に衝撃が走る。振り返れば私より二回りデカイすずめ。
まさか。
「パッセル……?」
「ぴ」
とりあえず、抱きつき、埋まる。
すずめの胸毛、思ったよりスカスカしてなかった。もふんもふ。
パッセルだけかもしれないが。
至福です。
もふもふよりもふんもふは埋まる感じだと個人的に思っています。
ぼふぼふと迷ったんだけど、どっちの方が埋まる感じします?
【八咫雀のお守り】
高位の精霊獣の羽を使った小型ドリームキャッチャー。デスペナ軽減効果がある。
売ってしまったが主人公に必要なものだと思う。
【雪崩大猿のお守り】
着用者に氷耐性を付与。雪山も楽々!な防寒のお守りとしても使える。
異界へ飛ぶ条件
レベル40、ダンジョン踏破の称号、(一)以上の熟練度対応したスキルまたは定められた種族をダンジョン踏破時のパーティーメンバー全員が満たしている
ちなみに精霊界なら、最後の条件は【妖精化】もち、種族がエルフかフェアリー、ドワーフ、のいずれかです。
【越境者】
異界へ飛ぶ条件のうち、スキルは満たさなくても異界へ行ける。
今の主人公
精霊界に渡ったことで【妖精化】が強化。フェアリーズサイズ。