59 遭難は冬の醍醐味
短いです
「さぁぁぁみぃぃぃ」
暑いヘエとは一転、ザイーンの北の雪原に来ている。霜氷樹なるファンタジーな木があると聞いたのでやってきたのだ。
星渡りの旅人謹製のスキーウェアとスキー板を装備し、中にはモコモコのセーター、頭にはニット、目にはグラサン、首にマフラー、腹にパッセル、足には裏起毛ブーツという完全防備のはずなのだが、寒い。
気合いを入れねば。
吹雪く中北へ北へと滑っていく。吐く息は即座に凍り、痛いほどの冷たい風が頬を舐める。
時折飛び出るユキモグラを轢き殺し、軽快に進む。このスキー板、地味に攻撃力が高い。
スピードが落ちるので遺体は拾ってないが、【手抜き】効果なのかドロップが自動的に回収されている。
地味に進化している。前はドロップを拾わねばならなかったことを思うと、最高に楽だ。
「ここからはスキーはキツイか」
聳え立つ青白い山々の裾野。斜面は割と急かつ道はない。夏でも雪に埋まっていると聞いた。
スキー板を外し、一歩踏み出す。
ずぼっ。
埋まった。
見事に。
胸の辺りから雪だ。このままだと凍死確実。
わさわさと手で雪を掻き、なんとか脱出する。粉雪怖えよ。
仕方なく雪の上に面材を出し、その上に座りこんで即興かんじきを作成する。
ゴミ屋敷と化している疑いがあるインベントリから麻紐と枝を取り出して組み合わせると、記憶にある小型の橇のような見た目の物体が出来上がった。
さてここで問題が発生した。
熱を加えながら曲げた枝二つで楕円を作り、その腹辺りを渡るように麻紐をぐるぐると結びつけたのだが。
どうやって履くんだこれ。
とりあえず圧力を分散すればいいわけだから、かんじきの裏と靴底が同じ高さになれば良いはずだ。適当に結ぼう。
……、うん。ちょっと沈んだけど雪の上に立てたしもうこれでいいや。
頭や肩に積もる雪を時々払いながら、耳が痛くなるほどの静寂の中をのしのし進んでいく。雪が固くなるように念じれば、割と楽勝だった。
霜氷樹は山頂付近に生えているはずなのだが、樹々は埋もれているもののなんか普通の木っぽい。
たまに雪間から現れるのはモグラとウサギ、キツネ、クマなどなどである。みんな白いくて大きくてもふもふである。
そして何気に強い。登るほど強くなっていると思われる。
しかし奇襲すれば瀕死までいくので、なんとか凌げている。
吹雪はいつのまにか弱くなり、視界は良好。
雲の上に出てしまえば、折良く日の出である。ところどころ陽に透けて黄味を帯びた雄大な白い雲海が眼下に渦まく。
その下が吹雪いていることを考えなければ本当に綺麗だ。
「あった!」
やっと辿りついた山頂には、沢山の巨大な霜柱が光を浴びてキラキラしていた。やたらめったら乱反射しており、ダイヤモンドのように派手である。
早速もぐ。
「冷てっ」
分厚い手袋をものともしない冷たさ。一瞬で手が凍えた。
しかしここで諦めるわけにはいかない。この樹は不思議と、手でないと折れないのそうだ。
このゲームは気合いを入れれば大抵なんとかなる。実際は魔力だが。
指先の血液よ巡れ~と念じて手を添えると、氷の枝はパキリパキリと硬質な高音をわずかに立て、傾ぐ。
そんな調子で数本ゲット。
さて下山して帰ろうと思ったのだが、山の向こう側が気になる。あちらも何があるのか分からないほど白い。
これは行くしか!
「ヒャッホー!」
再び装着したスキーで滑り降りていく。障害物は【空駆け】の要領で足場を作り飛び越える。
「げっ」
気持ちよく滑って下山していたが、目の前に崖が。まあジャンプすればいっか。
「うわぁぁぁ、落ちる!?ウソォォォ」
飛んだら予想以上に高さがある上、下は氷海、向こう岸は雪と氷の大陸である。
必死で【空駆け】と魔力を操ってなんとか対岸に着陸。
いやあ、焦った。
かまくらを作り一夜明かした。宿以外でログアウトするのはドキドキするな。
まあでも、小さいとはいえ、おとぎ話に出てくるようなザ・かまくらを作れて私は満足です。今度来るときは七輪持ってこよう。パッセルだけでは熱源として足りない。
氷の大陸をペンギン横目に軽快に進む。
今日もスキー板が大活躍。
偶々出ていた突起を使って大ジャンプ。昨日は死にかけたが思い返せば楽しかった気がする。
「ギャァァァァ!!」
目の前に凄い白いモフモフが!
軌道修正間に合わず激突。
ぼふんとはね返される。
もぞもぞしたあと、その物体は白いモップの塊みたいなゴリラに変形した。
ゴリラというには丸いが。
「む。イエティ……?す、すまん。うぉう!」
謝ったにも関わらず、殴りかかってきたので多分モンスター。
慌ててスキー板を脱ぐ。
刀を構えてカウンターを入れては飛び跳ねる。
氷の上より空中の方が動きやすいという事実に気づき、微妙な気分である。
「ウッホォォオオオオオ!!」
「しまっ」
雄叫びとともに体が硬直する。
間髪いれず放たれたパンチを顔に食らってぶっ飛ばされる。
「いっ……あれ死んでないな?」
痛くもないし。
あれ、HPもそんなに減ってないな?
やべ、追撃きちゃう。
突進の進路上から退こうとしたところで咆哮。
再び体が硬直する。
腹のパッセルだけでも逃さないといけないんだが!
精霊獣って死んだら死ぬの!?
イエティの頭上に魔力が凝る。
アーーーッ!!
ピッシャッ
「……」
雷が落ちた。イエティに。たぶん、パッセルの魔法だ。
目の前に黒いゴリラ。
《ハグレイエティを倒しました》
《サメク・転移許可証を得ました》
《称号【補佐官】を得ました》
フィールドボスだったのか。ところでサメクの街って初耳なんだが。
名前:ジャン・スミス Lv.31
種族:人間 性別:男性
職業:【気分屋】
HP:171
MP:259
STR:30
VIT:19
INT:20
MID:76
AGI:108
DEX:113
LUC:74
称号
【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】【変異種】【補佐官】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(初)】
魔法
【魔法陣(一)】【生活魔法】【詠唱】
生産
【細工(初)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】
特殊
【混沌】【手抜き】【六文銭】
備考
雪潜竜
白くてモコモコの土竜。つぶらな瞳が毛に埋もれて見えない。雪の中なのに土竜って書くのなんか微妙だと思って。奇襲が得意。
雪崩大猩々
倒さないと追って来る。群れる。カバディカバディ風に発音する。
遭難中雪崩大猩々
迷子ともいう。一度逃げる(戦線離脱)と転移許可証はゲットできない。
霜氷樹
サクシャクの木とも呼ばれる。
元祖スキー板
AGIの二乗に比例した攻撃力を発揮する。スピード狂御用達。木製なのに主人公作ではない。
昔ながら(?)の靴で履けるタイプ。木の板に靴を結ぶ紐が付いただけのやつ。
面材
合板とかOSBっぽいのを想像して欲しい。壁にべたってはる感じのやつ。テーブルの天板とかでも可。
<=>軸材(梁とか柱とか細長いの)