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56 カカオ豆は種

2月3月はチョコレートの季節ですよね(ヴァレンタインに合わせられなかった言い訳ではナイヨ)

メーカー次第ですけど、ひなあられも好きです



《これより『カカオの襲来』を開始します。参加者はメニュー画面より参加を選択してください》

《活動時間あたりの貢献度により順位を決定します》

《なお、イベントは七日間です。ふるってご参加ください》


 メニューから参加を選択すると、転移特有の感覚がした。

 今回のイベントはヘエの街周辺のコピーが舞台だ。最終日にやってくる神授加加阿(テオブロマ)を倒せば星渡りの旅人(プレイヤー)の勝ち、倒せなければ負けだ。

 施設は使えるものの、消耗品や流通は自分たちで自給自足せねばならない。そして、ルールを見る限り期間中でも死亡後は復活参加できないらしい。

 聞いた限りではチョコモンスターズはさして強いわけでもないから順当だろう。


「なんか決まりはあるのか?」


 パーティーを事前に組んでいたため、一緒に転移した三人に尋ねる。


「弱小の僕らは大して無いですよ。生産と流通に励めば良いと思います」


「掲示板で~、とりあえず海は放置でいいだろうってなっていまして~」


「まあ、今回は現実の日を跨ぐから、緩めのイベントだろうって予想が強いね。とりあえず最初はみんなで狩に行かないか?」


 材料がないと鍋さんはチョコレート作れないもんな。ソワソワしてるのバレバレですよ。


「あ、能面いるか?」


「貰おうかな」


「是非」


「私は~、うーん、一応ください~」


 出来上がった能面をサカイくんに渡すと、また変な顔をした。なんでも認識阻害効果が付いているらしい。


「今回は何したんです?」


「失礼だな、私は至ってマジメに能面を打っただけだ」


 本当だって。そんな胡乱げに見ないでくれ、悲しくなるだろう。


 翁 サカイ。

 般若 クーゼ。

 小面 鍋。

 童子 私。

 パーティー「能仮面フォース(鍋さん命名)」爆誕。




「おおっ!カカオだ!!」


 私が叫んだ瞬間、顔サイズの赤・黄・緑のカカオポッドが飛んでくる。

 その間に灰色の木が、存外早く迫ってきて笑う。ふっ、ハニトレより遅い。


 手に持った鉈を振るって枝を打ち払い、手斧に持ち替えて幹を傷つけていく。チェーンソー欲しい。


「いやぁ、大量大量」


 皆で思い思いになぎ倒したカカオの群れの中に座り込み、鍋さんがホクホク顔だ。いや、小面をつけているから常に微笑んでいるのだが。


「貢献度って倒した数は流石に算入されるよな?」


「まあ、戦闘職(脳筋)は加工でカウントされないでしょうから」


 サカイくんの言葉にちょっと思いついて、一番魔法が得意なクリオロのカカオポッドを拾いあげる。どうせ試すならレアが良い。


「鍋さん、これ一個貰っていいか?」


「えー、いいよ」


「いいんかい」


「まあ沢山あるうちの一つだしね。私が作るチョコレートでは、クリオロは香りの調整に混ぜる程度だから」


 ちなみにこのメンツはみんな【解体】を持っているため、カカオの木を一体倒せば必然的に十以上の実が得られる。


 いざ別の獲物を探そうとその場を離れるとき、無用の倒れた木が哀れを誘った。

 実を全て捥がれ、失意に沈んでいるようにも見える。


 回収しとこう。普通のトレントたちとは仲がいい(?)ために伐り倒せないので、地味にまとまった木材の在庫はないのだ。

 しかしカカオを材木として利用する話は聞いたことがない。何にしようかな。


「何だ?」


 サカイくんが不審そうに見ているので聞いてみた。


「カカオの木の商品は見たことがないので。カカオ豆は薬にも使うのですが」


「そうなのか。まあ、使ってみるのも一興だろう?」


 その一言で何故か納得された。解せぬ。




 出来上がったチョコレートを分けてもらう約束をして、生産所に籠ることにする。


 能面は地味に着け心地がよろしくない。

 現実(リアル)でもそんなものではあるのだが、まず視界が悪い。

 息がこもるので戦闘(激しい運動)をするのに向いてない。

 作りが甘いのかズレる。


 まあどうしようもないのだが。色を塗った後で削るのはちょっとどころでなく嫌だ。

 だが、折角作ったので付けていたい。

 まあイベント中だけ使って売ってしまおう。誰か物好きが買ってくれるだろう。


 とりあえず装着したまま、カカオの木の加工に取り掛かる。


「ふんぬ!」


 寸法を決めて、堅い幹を板状に挽く。厚みが多少バラついたが仕方ない。

 いい感じに組み合わせて箱型の植木鉢をいくつか作った。水捌けの為に穴を開け、受け皿も用意する。

 ……端が微妙に揃っていなくて、どことなく不格好だ。まあ中で植物が育てばいいのだ。


 街の外で確保してきた森の土を詰め、それぞれの植木鉢に丸いクリオロの豆というか種を埋める。

 熱帯雨林の植物なので、とりあえず水を置いて室内を暖める。密閉空間なのでメイプルトレントの時より楽だ。

 直接与える水は妖精の迷宮(ギーメルのダンジョン)の泉で汲んだものにした。なぜなら面白そうだから!

 加えて木属性を意識しつつ、種に魔力を注ぎこむ。


《熟練度が限界に達しました。【妖精化(玄)】に変化します》


 ふふふ。私が企んでいるのはカカオの魔物を養殖し、成長した瞬間倒すというものだ。探し回らずとも敵討伐ポイントを稼げるという寸法である。

 天才か。


 詳しい生態を知らないので少し不安だったが、思惑通りカカオ豆たちは双葉の芽をだし、すくすくと育っていく。

 枝はしなやかに伸び、アーモンド型の葉が生い茂る。白い花が咲き、青臭さが漂う。やがて白緑色の果実が膨らんで色づき、収穫の頃合いになる。


 斧に手を伸ばすと木が脈打つように震えた。


「?!」


 ぐんとそれらは大きくなり、鉢と床、天井を突き破る。肥大化した根が驚く私を貫いた。


「ぎゃー!!」


 HPとMPががんがん減っていく。

 痛いし!動けないし!どうしろと!?


「【混沌】!」


 破れかぶれでとりあえず叫ぶ。

 すると、複数いたカカオたちが合体して更に巨大化した。

 ウソだろ。


「ノーーー!!!」


 絶叫する私に火の玉が殺到して爆発した。


 私もカカオを倒すつもりだったし、他人(カカオ)のことは言えないのだが、育てたカカオに殺されるとは思ってなかった。





名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.26

種族:人間 性別:男性

職業:【気分屋】

HP:171

MP:199

STR:30

VIT:18

INT:18

MID:62

AGI:89

DEX:98

LUC:65


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(初)】


魔法

【魔法陣(一)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(初)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】


備考

カカオの木の断面の色が見つからない。


挽き板(ラミナ)

大抵の人が想像する木の板。


単板(たんぱん/ベニヤ)

木材を桂むきにしたもの。トイレットペーパーみたいに一定間隔で切ってある。手で生産するのはキツイと思われる。

それを重ねて接着すると合板(ごうはん)やLVLになる。ベニヤ板という呼び名は正式名称ではないのだよ。使っちゃうけどね。


【妖樹の友】

幼子に道理は通用しないのだよ。伐り倒すべく斧も持っていたし。だから襲われた。決して「そろそろ主人公殺そう」などと作者が思ったわけではない。ないったらないのだ。

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