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52 製作中

先週の二話投稿はミス

比喩でなく頭を抱えた作者であった

誤字も最近多いよ!



「よっ、久しぶり!」


「帰れ」


「ディオディオ冷た~い」


「寂しかったくせにー」


 我が師匠、ラームス氏の辛辣さに心が擦り傷を作りかけたが、続くフェアリーズのセリフににやにやを抑えられない。

 ほほう、寂しかったのか。


「まあ土産だ」


 どさどさと作ってもらったばかりの菓子を山積みにする。たっぷりとシロップを使ったクッキーやケーキだ。出した瞬間甘い匂いをばらまく。

 ラームス氏は微妙な顔をしたので、ご当地ソーセージを出そうと思ったが、この人が料理をするとも思えないのでハンバーガーとポトフを出す。

 私もご相伴にあずかる。キャベツが入ったポトフって結構好きなんだが、現実(リアル)の実家ではあんまり入ってないのだ。玉ねぎとは違うしゃくしゃくした歯ごたえが良い。ハンバーガーは旗が刺さっていて子供心をくすぐる。この大きい楊枝だけは私が作った。食べづらいが、やばい旨い。トマトが脂を包むようでスッキリする。大好きだ。


 腹ごしらえを終え、楽器を引き取る。

 その前にラームス氏の食べながらの指導のもと調整し、良さげなリュートとリコーダーが出来上がる。


「なあ、これは本当に杖というか、魔道具になるのか?」


「聖別すればな」


 ハムスターやリスのように頰を膨らませ、フェアリーズと共に口の端にソースをくっつかせたディオディオは、エルフの威厳というものが壊滅的に欠如している。


 とりあえず聖別するべく適当な薬液を選択。リコーダーはコーヒーみたいな液体を棚から出して漬ける。

 【読書】さんが聖別祝詞集から適当に短いのを選ぶ。一応魔法陣の効果に合ったもののはずだ。もっと長いのはまだまだ駄目そう。


「『木よ、癒せよ』」


 取り出して気負いなく呟けば、笛に彫り込んでいた魔法陣が黒く浮き上がる。本体もちょびっと黒ずんだ。

 元が明るい茶色だったから、高価そうなこげ茶になっただけだが。


 リュートは……薄緑色のさわやかな液体を選んだものの漬けるに漬けられないので、布に含ませて拭う。効果が落ちるが仕方ない。


「『風よ、戯れよ』」


 首の濃い部分が僅かに緑色を纏う。胴体部分は鮮やかな生木色。


「よし。ディオディオ、採点!」


「良いぞ。あとおかわり」


 リコーダー、チーズバーガーを添えて。

 リュートはポテト添えだ。


「じゃんじゃんボクらにも~!!」


「勝負じゃないんだから、慌てなくても。あ、もう無い」


「「「ガーン」」」


 口に出さんでも顔でショックなのは伝わるから。落ち着け。


「ミートボールでもいいか?」


「なにそれ~?」


 てんでバラバラに首を傾げるフェアリーズの前に、蜜玉のハチミツ風味のトマトソースを掛けた肉団子を出してみる。私もとりあえず一口。

 ウマァ。


 フェアリーズも楊枝をディオディオにゆすってぷすぷす刺す。サイズ的に漫画肉だ。大きな目をさらにくりくりにして、いざかぷり。


「ウマァ~すぱぁい」


「意外とあまぁい!」


「柔らかーい」


 お気に召したようでなにより。


「……まあ、いいんじゃないか。増幅効果は支援系か。今回はマトモな杖だな」


 フェアリーズと一緒にパクついていると、採点が終わった。及第点で何よりです。


「その笛カッコイイ~」


「欲しい~」


「じゃんじゃん作ってー」


「ムリ」


 仕舞おうとしたら食いつかれたが、流石に小指サイズのリコーダーなんぞ作れぬ。


「うわーん!じゃんじゃんがいじめるよディオディオー!!」


「人聞きの悪い事を言うな」


「やってやらんこともない。ちゃんと稼いでこいよ」


「「「はーい!」」」


 スルー!?ディオディオ、なに了承しているんだ!?いつも冷たいじゃん、当てつけなのか、自分は凄いんだぜ的な?

 もうちょっと弟子を労わって!




 ディオディオがミニチュアリコーダーを製作する横で、私はダンジョンの元・銀色泉でゲットした白っぽい流木を加工している。中でも腰ぐらいまである大きいやつだ。

 元の木が旋回木理なんだろう、大胆に入った流線の筋がなんとも素敵。なのでこれを生かすために削るのは最小限にしよう。


「硬い……」


 別に面倒くさくなったとか疲れたとかそういうわけではない。ないったらない。


 ……もはや堅いを通り越して硬いのだ。

 微調整とか不可能なのではと疑うほど難しい。

 石じゃないかと思うぐらいだが、繊維がなんとなくわかる時点で木なんだよなぁ。流石侵食に耐えた部分なだけある。


 ぐねぐねと枝分かれしているそれをよく見て、螺旋状の繊維の流れに合わない細い枝を切り落としていく。

 うっかりいい感じの小枝も切り落としていたのを全力で誤魔化すため、取っておいた枝も結局切ったりしたので、手元の枝は随分スッキリしている。

 なぜだろう、上の方の五枝しか残らなかった。


 というか、下の方を切りすぎて上の方のは切るに切れなくなったのだ。

 ……呆れられそうなのでディオディオには言わない。


 とにかく、全力で誤魔化した結果、高さと長さの微妙に違う五本の枝が微妙に渦巻きながら開いていく。

 中央のは切った。一本だけ比較的真っ直ぐに伸びていると、花を貫通して茎がある植物に見えて気持ち悪かったからだ。まあ花と言えるほどそれぞれの枝の高さは同じではないが。


 その貫通枝というか、主枝とでも言うべきかという部分を取り除いた部分に、いつぞやの星幽石の中から元々球形のものを選んでセットしたのだが、どうにも格好がつかない。浮かせたらバランスがいいと思うのだが、どうするべきか。


「師匠~」


「お前が言うと本当にキモいな」


「そう言わずに」


 困った時のディオディオ!カモン!


「これを浮かせてくっつけたいんだが」


「性能が犠牲になるぞ」


 作りかけの木と星幽石を見せると、ディオディオが難しい顔をした。


「そこをなんとか!お知恵を!」


 かっこよくて強いから良い杖なんだ。両手を合わせて拝み倒す。


「ハア、お前は【魔法陣】を持っていたな?固定と共鳴の魔法陣を転写すれば良い。星幽石と杖本体のキャパシティを一部犠牲にするが、両方とも材質は良いし誤差だろう」


 たしかにその二つの魔法陣は私でも描け……描けるっけ?えーと、【読書】さん的に中級魔法陣ぽい?

 杖本体の木はかなり珍しいらしい。正確には流木が、だが。普通のこの樹種の枝よりずっと魔力を含んでいるんだとか。へーへーへー。


「共鳴と転写の陣はあるからいいとして、お前の腕だと固定の陣は失敗するだろう。よし、アイツら(フェアリー達)に見てもらえ」


「えっ」


 示された意外すぎる人選に思わず声を上げる。


「気持ちはわからんでもないが、コイツらが認可した陣は一級品だ」


 陣の出来が良いほど、性能が良くなる。今回の場合、相対距離の固定状態を維持するための労力が小さくなる、というのはわかるのだが、フェアリーズの指導というのが不安を煽る。

 だって魔法陣だぞ?コイツらが理解していると思うとしょっぱい気分になる。

 【読書】さんという外部記憶装置に頼って、魔法陣の所定の位置に距離や対象を置き換えてとりあえず描いてみる。今まで応用には使ったことがなかったから不安だ。


「じゃんじゃん~」


「綴りアウトっぽいの」


「ここ太いよー」


「この部分要らなくなーい?」


 ウッ。寝そべってスノーボール・メープル風味を齧りながら、テキパキと指摘していく。粉砂糖を固くまぶした丸いクッキーは、後でこっそり食べようと出さないでいたのだが、菓子を持っていないという嘘がバレてしまい、出さざるを得なかった。カツアゲされた気分だ。


「なんでお前らそんなに出来んの?」


「魔力の通り具合~」


「ぱっと見のいんしょー」


 つまり描けないけど良いものかどうかは分かると。で、不自然な部分や欠陥部を指摘していると。そういうことか。

 言われてみれば、描いた魔法陣のうっすらな光具合にはムラがある。【妖精化】万歳?

 まあ既に百回は描き直してるけどな!


《熟練度が上限に達しました。【魔法陣(初)】は【魔法陣(一)】に変化します》

《熟練度が上限に達しました。【書画】は【書画(初)】に変化します》


 え、あのまだフェアリーズのOK出ないんですけど?


「お前、他にインクは無いのか?」


「無い」


「新しいインクを仕入れて来い。それか今作れ」


 無茶な。


「店に置いてないのか?」


「星幽鉱石を使っているやつばかりで仕入れづらいんだよ。ヒヨッコのお前が使うにはもったいない」


 酷い言い草だが尤もだ。しかぁし!私のポケット(インベントリ)には星幽鉱石(精錬前)がたんまりある。これと交換してもらおう。


「それじゃ、これで頼む」


「お前な……」


 まさか私が持っているとは思わなかったらしく、目を軽く見開いたあと呆れたようにため息をついた。

 インク、ゲットだぜ!


 早速描いて転写する。もうフェアリーズの指摘は諦めた。どこかしらダメなんだよ、結局。妥協って素晴らしいね(トオイメ)。


「うし、出来た!」


 青い宝石もどきが宙に浮いた、まずまずファンタジーな杖だ。

 星幽石の中と杖の台座(?)部分には転写した魔法陣が銀色に刻まれており、すっごくそれっぽい。これが傷つくと星幽石取れてしまうので、弱点といっても過言ではないのだが、カッコいいので良いとする。


「『星よ、月よ』」


 薄水色の薬液を用いて聖句を唱える。杖が白っぽく魔力を吸い込んでおり、良さげな雰囲気。

 高く売れそうである。思わず鼻歌が飛び出た。

 楽しそうに見えたのか、一人のフェアリーも聖句っぽく唱えた。


「『移ろえ~、ゴマ』!」


 何も起こらない。

 ただの遊びのようだ。




名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.26

種族:人間 性別:男性

職業:【気分屋】

HP:171

MP:199

STR:30

VIT:18

INT:18

MID:62

AGI:89

DEX:98

LUC:65


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(初)】


魔法

【魔法陣(一)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(初)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(一)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】


備考

お高いハンバーガーって体高15cmくらいありませんか?あれってどうやって食べるものなんでしょう。友人は分解して各部分を別々に食べていた(玉ねぎだけ、パンズだけみたいな)のですが、あれだけは違う気がします。ナイフとフォークが戦犯でしょうか。


妖精の縦笛

回復、バフ・デバフ効果のある音が鳴る。奏者次第で効果範囲・威力が異なる。星幽石と魔法陣を併用しているため、普通に杖としても使える。美幼女が装備した時に限り、一種の変態さんを魅了できる……かもしれない。


妖精のリュート

混乱、魅了、睡眠、狂化などの状態異常を引き起こす。但し敵味方問わず。制御できるかは奏者次第。普通の杖としても使用可能。


旋回木理

ただ単に繊維方向が捻れていること。捻れながら大きくなる木の模様的なアレ。強度関連が面倒なやつ。

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