5 合う装備はどこですか……?
結局、サカイくんには叱られつつ色々と基本的な操作を教わってフレンドになれた。
掲示板を見ろだの、こまめにステータスを確認しろだの言われたけど、多分しないだろうなぁ。
その後は流石に寝ないとまずかったので急いで宿屋を探してログアウトした。
そしてまた今日も仕事が終わってログインしたのだ。
……どっかで有給休暇取ろうかな?
一日中工作とか夢のようだなっっ!!
……一日中ゲームしているのがバレたら家族に怒られそうだ。実家に強制送還されそうな気がひしひしとする。
まあ、それはともかくとして、装備くらいは新調しようと思う。次にサカイくんに会ったらまた言われそうだし。
そう決意したまでは良かったのだが……。
何だかしっくりくるのが見つからない。
プレイヤーメイドは性能もそこそこ、デザインはかなりいい。きっと中の人は現実でも裁縫が得意だったり本職なんだと思う。
ただ、コスプレ感が酷いわけで。
平凡な私には似合うとは言い難いわけで。
女性でもモデルさんでもないから化粧をするのもちょっと、と思う私は悪くないはずだ。
NPCの店行ってみるか。
きっと当たり障りないのがあるはずだ!
あってほしい!!!
そして現在古着屋にいる。
何があったかわからないだろうからありのままに話すぜ!
プレイヤー露店→NPCの防具屋→NPCの洋服屋→NPCの古着屋(←今ここ)
防具屋はそもそも鎧とか盾とか、精々ローブしか売ってなかった。
洋服屋は普段着だが富裕層のオーダーメイド専門店。門前払いされた。
プレイヤーの露店が賑わっていた理由が分かった気がする。鎧下とか売ってないみたいです。
嘘です、私が探すのに疲れたとも言う。
で、古着屋なう。
まあ不貞腐れて裏通りぶらぶらしてたら見つけたんだが。
おそらく住人用なんだろうなあ。
「いらっしゃい」
奥に品の良さ気なお婆さんが座っている。
私は軽く会釈して商品を物色する。
「ん?」
訂正。
どうやら古着屋ではなく、リサイクルショップみたいな感じです。
短剣とか杖とかも置いてありました。
「おおっ、彫刻刀がある!」
ちょっと古いけど、大事に手入れされてきたことがよくわかる。なんで手放したのかわからないレベルだ。
私は最終的に、木工用品各種と時計、街着っぽい装備を買うことにした。アンティークな懐中時計とか完全に趣味で買ったが。ホクホク。
もうちょっとで本来の目的を忘れるところであった。
……しかし私、本当に住人と区別つかなくなるんじゃ……?
まあ、それはそれで面白い気がする。
いっそもう装備はパッと見普通で揃えようかな。
見た目が一番良いし。
「おやおや、お前さんお目が高いね。どれ、服はサイズを合わせようか」
何やらいい感じのを引いてしまった模様。
……ステータス、LUCがそこそこ高いとか、関係あるのか?極振りってわけでも無いのだが。
「この彫刻刀は、最近亡くなっちまった腕の良い職人のでね。跡取りが居ないからうちに売られたんだ」
……一気にヘビーな。
幽霊憑いてないだろうな?私はホラー苦手だぞ?
「服は普通のものだけど、この靴は速度上昇の魔法陣が付与してある。私の腕じゃあ靴の調整はできないから、お前さん、運が良いさね」
お婆さんは糸の通った針を取り出すと、ものすごい早さでシャツとズボンの裾を調整した。すげえ。
言葉に出ていたらしく、お婆さんは苦笑しつつ答えてくれる。
「歳をとると針に糸を通すのが難儀でねえ。娘が居れば娘に魔法を掛けさせたんだが」
「魔法?」
思わず聞き返してしまった。
「お前さん、星渡りの旅人かい?……見えないね。最近よく見かけるのはみんな別嬪さんだろ?」
ぐはっ!
まだ私ちょっと見た目のことは気にしてるんだっ!気を遣って下さい……。
「ああ、悪かった。すまないねえ、落ち込まないでおくれ。娘の使う魔法は【生活魔法】のサイズ調整ってヤツさ。大抵は調整済みだから大して役に立つわけではないけどね」
何でも、生活に便利なチョットした魔法が扱えるらしい。
ただ、サイズ調整は一つの装備品に一度しか掛けられず、掛けた後に最初に身につけた人のサイズで固定するそうだ。
魔法陣にも同じものがあるそうだが、魔法が使えれば安上がりとのこと。
それはそうか。考えてみれば当たり前のことではある。
「魔法陣はどこで習うことが出来るんだ?」
「ベスの街にある魔法ギルドさね。【魔法陣】スキル自体があるなら、図書館で独学できたはずだよ」
「そうなのか、ありがとう」
図書館かあ。【読書】あるし、行こうかなあ。でも【伐採】取りたいし……。
《時計を手に入れたことにより、メニュー画面でゲーム内時間が表示されるようになりました》
店の外に出るとアナウンスが。
これ、要るのか?
悩んだ結果、東の森再び。
ホーンラビットに殺られた忌まわしき森です。
嘘。ぶっちゃけぶつかられた衝撃しかなかったから、大して覚えていない。
良い感じ(主観)の枝をさくさく手斧で切り取っていく。
なので、杖に適したヤツかどうかは全く考慮していない。
が、高い枝だろうと登って手に入れる!!!
地味に【木登り】を修得したりしました。
上機嫌で収穫すること三時間ほど。
《五十の木材を採取したことにより、スキル【伐採】を得ました》
キターーーー!!!
念願の【伐採】ですよ!
パチプチの木採れますよ!
キリも良いし手に入れた木材加工しようそうしよう!
新しい道具も手に入れたしね!
ふぅー、落ち着け私。
前回それでヤツに背後から殺られたじゃないか。私はキチンと学ぶ子だ。
というわけで近くの木に登って作業開始。
ここならウサギも来れまい。
太めの枝の、邪魔な細い枝を短刀で払い、荒く削る。
どんな彫刻し・よ・う・か・な〜!
無難に梟とか?
まあ、こんなもんかな。下書きしなかったにしては上出来だと思う。
民芸品としてはなかなかじゃないか?
初の作品を矯めつ眇めつ眺めていると背中に衝撃が。
デジャブ。
ホワホワとした光の中、石の床の上にうつ伏せの私。
これまたデジャブ。
ログを見ると、
《フォレストビーに攻撃されました》
なるほど、今回は蜂に殺られたらしい。
おのれ……っ!
名前:ジャン・スミス Lv.9
種族:人間 性別:男性
HP:99
MP:91
STR:14
VIT:7
INT:13
MID:35
AGI:34
DEX:58
LUC:39
称号
【混沌神の玩具】
【運命神の憐憫】
【怠惰神の親愛】
【無謀】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】
魔法
【魔法陣】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】【木登り】
特殊
【混沌】【手抜き】
備考
主人公の本当の死因は落下ダメージです。