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48 天職

なぜだ……、主人公が一向に強くならない


あ、あけましておめでとうございます

笑う門には福来るということですし、無理にでも笑ってくださいね!(震え声)

 岩壁の洞穴を住みよく整えた蟻の巣状の宿が、私の泊まっている場所だ。

 洞穴と侮ることなかれ、壁は白く漆喰で塗り固められ、至る所に極彩色の布類が掛けられている。これらの品はドワーフの女性たちの手によるものらしい。


 ただ料理は美味しくない。腸詰め(ソーセージ)以外は基本的にパサパサである。三食じゃがいもか黒パンなのは流石の私も飽きる。

 もう朝昼晩ソーセージで良くないか?酒と肉だけは美味いのだ。




 今日は採掘場にお邪魔している。私が初日に落ちてきた最下層の採掘場だ。パッセルは暑がって何処かへ行った。


 冬の天気な上と違い、坑内は暑く、ダレスの観光Tシャツと、上半身をはだけさせたオレンジのツナギである。半袖オーバーオールに古風なヘルメット姿のドワーフ作業員とよく馴染む。

 嘘だ。私の格好はまだまだ着られている感じが否めない。

 だからといってこの格好が似合ってもあまり嬉しくはないのだが。


「なあ、これはなんの鉱石なんだ?」


 ごろりごろりと転がる硬質な石ころをスコップで掬ってはトロッコに積んでいくのが私の仕事だ。本当はツルハシを振るってガリガリ壁を削りたかったのだが、筋力(STR)が足りないのか掘削が遅すぎて足並みを乱したため、載積に回されている。

 人間の場合、肝臓の強さと採掘の巧さには相関が無いらしい。


 カンテラの光を浴びて、時折帯状に青く光るゴツゴツした黒い石は、割った高品質の木炭に似ている。

 これは一体なんだろう。鉄鉱石って赤いよな?酸化鉄だし。


「うん?星幽鉱石だぞ」


「は!?」


「手を止めるんじゃねぇ!!」


 ~~~っ!

 殴る前に注意してくれ、目に涙が湧いてきたじゃないか。


 貴重だと思われる鉱石は、見る間に溜まって外へと運ばれていく。

 含有量は案外少ないのかもしれない。そうでなければ、もっとありふれたものであっても良いはずだ。この街の武器屋でも置いてあるのを見たことが無いのに珍しくないということはないだろう。


 適当に理屈を捏ねて、一応の納得を得る。

 ガラガラと放りこんでいると、段々楽しくなってきた。

 石ころ同士がぶつかって響く、硬く澄んだ音。

 石が大きければやや低く、小さければやや高く。

 スコップを時々捻り、音の合間を調節する。

 時に弱く、時に強く音に落とす。

 予想外の音が響けば即興的に空気が弾む。


「遊んでんじゃねぇ!!」


《無害で不謹慎な行動を30分間続けたため、称号【悪戯小僧】を得ました》


 要らねえ。

 そして私は小僧と言える歳ではない、はずだ。……ドワーフの平均寿命っていくつだろう。


「っ!!ワームだ!!総員戦闘体制!!」


「「「おう!!」」」


 何がなんだかわからないままボケっとしていたのは私だけだった。敵の気配がしないのだが……?

 しかし、みな思い思いに眼光鋭くスコップやツルハシを油断なく構えている。


 とりあえず日本人らしく空気を読み、私もスコップを他の作業員(ドワーフ)を見倣って構えてみる。


 断続的に大きくなる地響きと、それに合わせてパラパラと天井から砂のようなものが落ちてきた。

 ヘルメットを被っていなければ、「目がぁ、目がぁ」な某大佐の如き醜態を晒していたに違いない。

 これはゴーグルが売れるな。


「おい、逃げろっ!!」


「ん?」


 必死の形相で声を荒げられた。私の後ろの人かな、などと暢気に構えていた。ドワーフにも売れるゴーグルのデザインを考えていたからだ。


「オぼぅふ」


 顎に衝撃が走る。

 妙にヌメッとしていた。




 死にました。


 どうやらザイーンの街の関所脇のようだ。街外れの空き地に、ポツンと小さな御堂がある。折れた剣や錆びた剣を回収して供養するそうだ。初めて来た。

 関所をくぐれば自動的に見るはずだったが最初は落ちてきたからな。


 折角来たので、御堂に参拝していくことにする。

 剣神と鍛治神を祀った祭壇の前に砂地があり、突き立てるように、あるいは折り重なるようにくたびれた沢山の剣が置いてある。


 ……っておい、穴の開いた鍋とか錆びたスプーンとかあるんですけど!?

 一気に襟を正したくなるような寂しさが失せた。金属ならなんでもいいのかもしれないな。


 G戦で折れた脇差を突き刺し、焼香をあげ、手を合わせて目を瞑る。

 何の匂いかサッパリ分からないが、しんみりした香りに自分が溶ける気がする。

 香木を探すのも良いなあ。今度探そう。

 生えているとすると亜熱帯っぽいところか?ヘエの街にあるかな?


 暫く侘しさに浸っていると、体格の良い住職(?)が現れて、剣を抜いては抱えた箱に詰め込んでいく。

 ……なんかここ、色々台無しじゃないか?


「すまない」


「はいぃぃ!?えっ、人!?」


 声を掛けるとものすごい勢いで驚かれた。気づかれてないとは思わなかった。


「……すまん」


 それにしても驚きすぎて目が白黒しているので、もう一度謝っておく。


「あ、いえ。こちらこそ取り乱してしまい申し訳ございません。して、何用でしょうか?」


「ちょっとした質問なのだが、回収した金属類はどうするんだ?」


 箱の中に割と丁寧に収められた道具の成れの果てを指差す。


「大地に還り、復活を待つ……という教えですが、これらは鋳潰して再利用です」


 内緒ですよ?と指を唇に当てるのがお茶目だ。

 ハゲマッチョにやられても萌えないという事実が赤裸々になっただけである。


 よし、目を閉じて美女がこのポーズをとった場合を想像しよう。

 ……なぜハゲマッチョ(お前)がバニーの服を着る。


「大昔は土に埋めて墓を建てたそうですが、昨今はそうも言ってられません。交易が盛んになり使い捨てにはできないのですよ。中には希少金属もありますし、この街の坑道にはダンジョンがありますから、生活用品だけでなく武器は常に必要ですしね」


 成る程~。

 というか街中にダンジョンがあるのか。

 うーん、ここのダンジョンの産出物って多分鉱物だよなぁ、行かなくても良いか。


「そうだ、貴方は星渡りの旅人さんですよね?ここ最近、就職の為によく旅人さんたちが訪れるんですが、貴方はなさらないのですか?」


「やります」


 知らんかった。だが即答である。

 「キリッ」っという効果音がしそうな顔面を作れたと思う。


「儀式にはお布施を頂いていますが、それで宜しければ、此方に」


 ガタゴトと箱の中身を鳴らしながら進む、ハゲマッチョの後に続いた。案内されたのは、渡り廊下でつながった、こぢんまりした奥の間である。

 此方には再生を司る神獣の絵図が掛かっていた。創造と破壊の二柱に仕えるどっちつかずなコウモリ野郎である。

 蝙蝠と言ったが、誤解無きよう補足すると描かれているのは白い蛇だ。


 ハゲマッチョは蛇の前に陣取ると、数珠を取り出した。素材が謎だが、何やら沢山の素材が混じっているらしくカラフルである。


「これから天職の儀を行います。普段お使いの道具かご自身の作品はございますか?」


 作品は全部売り払ってしまったから……、木工道具で良いか。


「これで」


「はい。*****……」


 長い。

 シャリシャリと擦れる数珠の音と合わさって中々厳粛なのだが、長い。同じフレーズを繰り返しているようにしか聞こえん。

 しかしようよう終わりらしく、マッチョの頭部がカッと光った。


《天職の儀に抵抗(レジスト)しました》


 え。

 えー……。


「む、弾かれた……?えーと、この道具は古く見えますが、いつから使われていますか?」


「えーと、一年は使ってないな?それは中古品だ」


 ゲーム内の時間経過なんぞ覚えとらんしなぁ……。


「ああ、道理で。この道具たちはまだ元の持ち主を愛しているというか……、その」


「未練タラタラというわけか」


「ごほん……えー、元の持ち主の魂の欠片を取り込んでいますね。まだ貴方を持ち主とは認めていませんな」


 ホラーな道具だな。そしてワガママな道具だ。

 子供が親を選べないように、道具は人を選べないのだよ!フハハハハ!


「作品はお持ちでない?」


「生憎、今は手元に無い」


「となると手を握って再び儀式をすることになりますが……」


「頼む」


 コレはお布施を弾まないとマズイパターンか。仕方あるまい。いつまでも無職(ニート)というのも世間体が悪かろう。


 朗々とした子守唄が再来し、うつらうつらしていた。さっきのより長い。時計の針が遅々として進まない事実の方が、重要かもしれないが。


《天職の儀を受けたため、職業【気分屋】を得ました》


 気 分 屋 ! ?

 職って選べないんだ……。君にはガッカリだよ。




 リサイクルと転職に纏わる有難いお話を聞いてお布施をした後、死んだ作業場に戻った。

 心配されているかと思ったのだが、そんな事は無かった。彼らは私が逸れる前と変わらぬ様子で採掘していた。


「いやぁ、星渡りの奴らって死なないだろ?あの時はお前がそうだって忘れていたから焦ったぞ」


 豪快に笑われても、死ぬ時は痛いんだが?聞こえてますか?


「まあホレ、お前さんも自由に掘るといい。これから掘ったものは自由にしていい」


 誤魔化す気マンマンだ。

 ふん、乗せられてやろう。別にツルハシを振りたいわけではない、うん。


 ヒャッハー!




 夢中であちこち掘っていて、ふいに、コロリ、と転がった石の音が聞こえた。そして我に返る。


 あれ?

 なんかまた逸れた?





名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.26

種族:人間 性別:男性

職業:【気分屋】

HP:171

MP:199

STR:30

VIT:18

INT:18

MID:62

AGI:89

DEX:98

LUC:65


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(初)】


魔法

【魔法陣(初)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(初)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(一)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



備考

【悪戯小僧】

なぜか憎めない。イタズラ系の行為に補正がかかる。具体的に例を挙げると、覗きの成功率(視力上昇・隠密性上昇)が上がるなどである。


坑道蚯蚓(トンネルワーム)

けっこう強い。とりあえず主人公ごときなら一撃でヤれる。ぬめぬめなのに硬い。好物は鉱物。


職業【気分屋】

後先考えない者の天職。効果:思い立ったが吉日。やりたいことにはプラス補正、やりたくないことにはマイナス補正がかかる。

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