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46 墜落



「さて、行くか。頼むぞ」


フェアリーズに弄ばれて、多少魔法もどきを使えるようになったジャン・スミス、新たな街へ出発します。

あの修行は主に懐にダメージ大だった。鍋さんから割引してもらっているとはいえ、菓子と名のつくものは食い尽くされたのだ。


「任せろー」


「よーし、ものどもー、用意はいいかー!」


「「「おー!!」」」


フェアリーズは私の周りに、六角形の頂点に立つように散開している。

彼らがザイーン付近の森に送ってくれるのだ。ザイーンはドワーフが多いので、見られても問題はないらしいが、森は魔力が多く繋ぎやすいのだそうだ。


「せーのっ」


「「「つなげーゴマ!」」」


 あ、ゴマは変わらないんだ。


 気の抜ける呪文とは裏腹に、魔力が急速に集まり規則正しく六重螺旋を描き、捻れた鳥籠のように私たちを閉じこめる。この鳥籠が大気中の魔力を魔法に構成したものだそうだ。

 ツンツンと触るとふよよんとした抵抗がある。


「世話になったな」


「おみやげ期待してる!」


 視界に霧がかるようになると、ふわり、と体を浮遊感が襲う。街の転移より不安定だ。人力(?)だし、こんなものかと思ったのだが。


「あ」


「いっけね、座標ミスった!?」


「うそーん」


「ゴメーン!あとはじゃんじゃんが頑張って!てへぺろ?」


 はあああ!?ストップ、止めろおぉぉぉ!!!




「ぅゎぁぁぁあああ!!死ぃぃぬぅぅぅ!!!」


 周りは青い。下は白い。

 何が言いたいかというと、私は命綱無しのバンジージャンプ中。心の準備してなかったから楽しめない!!あと普通に寒い!!

 目の前には縦に裂けた谷があり、何処まで深いのかわからないくらいには、底が暗い。


「風!」


 既に土色の顎門は過ぎた。

 魔力の白い粒子を手繰って、浮かすように強風を下から吹かせる。フェアリーズの指導の賜物である。

が、いかんせん魔法ではないし、何よりまだまだ付け焼刃の域を脱しない。


 何が言いたいかというと、大した効果がない。


 チクショウ、働け空気抵抗!今こそ最大の活躍をする時!!


「うわぁぁぁぁあああ!」


 もう地面!?めっちゃ終点!!

 ドワーフ達が驚いたように私を見上げていた。見上げてないで助けて!!


 うわぁぁぁぁあああ!!!


「ォエッ」


 急に腹の下に魔力が円筒状に構築され、羽毛布団に沈むように急激に減速した。かわりに腹に衝撃が走った。


「グエッ」


 羽布団のような魔力の塊は私を弾き、減速するころには(ほど)けた。それはもうアッサリと。

 たった1メートル程とはいえ、地面に腹から叩きつけられ、潰されるカエルの鳴き声を披露するハメになった。


「いってて……」


 体を起こして二度打ちつけた腹をさする。

 目の前にパッセルが着地した。胸毛を誇るように翼を腰に当てている。……スマン、見た目は普段と変わらなかったわ。

 ただ、地面に直行しなかった事から考えると、さっきのエアクッションのような魔法はパッセルが作ってくれたのだろう。優秀な友である。


「パッセル、さんきゅーな」


 できればもうちょっと早く助けて欲しかった。

 パッセルは用は済んだとばかりにいつもの場所(頭の上)に収まった。


「ゴボッ」


 口から血が。手が真っ赤。内臓が破裂したとかだろうか。汗は出ないくせに、無駄にリアルで困る。

 とりあえず回復薬を呷り、全身を【洗浄】する。


「お前さん、何者だ?なんで空から降ってきたんだ?」


 近づいてきた三人のドワーフのうち、黄色のヘルメットを被った鈍色の髭の一人が私に職務質問してきた。

 なお、他二人のドワーフは白いヘルメットを着用しており、興味深げに此方を伺っている。


「ジャンという、よろしく。フェアリーに転送してもらったのだが、事故を起こしたようでな」


 フェアリーのことを知っているのか、然もありなんと全員が頷いている。どれだけ信用ないんだ、あいつら。


「それにしても大丈夫か?」


「大丈夫ではなかったが、まあ、なんとか。あなた方は?」


「ワシはオルミナ、採掘場の現場監督だ。あとの二人は、赤毛がウトマニ、こげ茶がホディートだ」


 ずんぐりした体を器用に曲げて挨拶された。

 ふむ、よく見ても毛色以外の違いがわからんな。


「ここは、採掘場か?」


 少し離れたところに、ピッケルやスコップを担いだドワーフや鉱石が積んであるトロッコが見える。


「その通りだ。部外者立ち入り禁止なんだが、事故では仕方あるまい。オイ、ワシはこの兄ちゃんを中層に送るからおめーらキッチリノルマこなしとけよ!!」


「え~!親方早引きして酒飲むつもりだろ!?」


「それならオイラが送るぜ」


 護送権(宴会)を巡ってドワーフたちの仁義なき殴り合いが始まった。

 私、もてもて?いや、こんなちっこい髭もじゃおじさんズにモテても嬉しくないな。


 数十分に及ぶ議論(殴り合い)の結果、全員で飲み会に行くそうです。いやー、平和的な解決策だね!




 谷底の採掘場から階段を上っていく。黒い岩壁にはへばりつくように通路があり、両側を繋ぐ吊橋がそこかしこに架かっている。

 家々の小さな出入り口や窓は埋め込んだように岩壁にある。赤やオレンジが多い。剣神、戦神という暑 苦しい神を祀っているからだろうか。

 にょきにょきと曲がった煙突が出ていて、更にそこからはもくりもくりと白い煙が出ている。これは上層より下層の方がいい立地だろうな。


 のんびり街の様子を見ながらドワーフ達行きつけの酒場に連れ込まれた。

 壁一面に樽がある。無論中身は全て酒だ。


「枝豆!!」


「お?兄ちゃんエダマメモドキ知ってんのか。通だな」


 手始めに出されたのが枝豆だった。茹でたての鮮やかな黄緑色が素晴らしすぎる。

 エールとラガーが選べたので、ラガーを選択。飲み慣れているからな。


「今夜も仕事の汗に乾杯(かんぱーい)!」


 豪快にジョッキを打ちつけ、一気に呷る。通るついでとばかりに喉を焼く。


「カァーーッ!!仕事上がりの酒はウメェな!」


「バカヤロウ!酒はいつだって最高だ!」


「ちげぇねぇ!!」


 おおう、飲兵衛の理論だ。爆笑している。

 彼らが酔っ払う前に枝豆の出所を聞かねば。


「ああん、エダマメモドキ?ハングマン共和国から持ってきてるぜ。海を越えたところだって聞いたな」


「賭博の街カフから転移させてくるんだ」


「獲れたてがウマイからな!!」


 酒とそのツマミに対する情熱が凄まじい。国中どころか世界中から転移装置を駆使して手に入れているようだ。


「にしてもニイちゃん、良い飲みっぷりだぁな」


「一丁飲み比べしようぜ!!」


「え」


 確かにラガーと枝豆のタッグにテンション上がって飲みまくっていたが。あ、サキイカ。


「おお!!」


「俺はウトマニに300S(ソルト)!」


「んじゃ人間のニイちゃんに20S」


 赤ら顔を盛大に破顔させ、賭け金を積み上げていく。退くに退けない。

 というか、私に賭ける人は相当な博打打ちでは?年中酔ってるようなドワーフに勝てるとは思えないんだが。

 ええい、どうとでも成れ!


 ウトマニ氏が前に座ると、ワッと歓声が上がり、次々と酒が運ばれてくる。

 地味にワインとかウィスキーが混じっているのが反則じゃないかと思わなくもないが、どんどん杯を開けていく。


 むー、眠い。

 水っ腹ならぬ酒っ腹。

 やいのやいのと囃し立てる声が遠く感じてきた。


「ニイちゃん、強えな……」


 数十分後、ウトマニ氏はニヤっと笑ってガクッと頭を垂れた。店内に大音量のいびきが一つ増える。


《30分間に限界以上の酒類を飲み続けたため、スキル【分解】を得ました》


「あのウトマニを飲み負かすだと……!」


「イイ勝負だったぜ!!」


「おめぇ、人間の皮被ったドワーフだろ!?」


「うおおお、俺の半月分の小遣いー!!」


「……人間だ。流石に眠い」


 酔うと眠くなるのだ。


「まあまあニイちゃん、勝者に最後の美酒はどうだい?」


 が、その言葉とともに出された酒に眠気が吹き飛ぶ。透明だ。


 日 本 酒 !

 こ! め!


「それはどこの生産物だ!!吐け」


「おrrrr」


「そっちじゃない」


 汚い上にもったいないじゃないか。


「落ち着けって!これはメムの街から取り寄せた酒だよ!だから揺らすな!」


「……悪かった」


 手を止めて離す。

 ゴドンッと重衝撃音。


「突然離すんじゃねぇ!」


「ガハハハ!」


 大人として恥ずかしいことをしてしまったが、なんかもうどうでもいいか、みんな笑っているし。

 眠い。zzz……。




 朝起きると、私はドワーフ達と雑魚寝していた。体の節々が軋む。

 ぎしぎしゴキゴキと関節を鳴らし、欠伸を一つ。吐いた息が酒臭い気がする。


 カウンターに目をやると、マスターが既にグラスを磨き接待していた。カウンターに座るドワーフは既に出来上がっている。

 とりあえず代金を払わねば。ヤバそうだなぁ。転がる樽とドワーフが目に煩い。


「お代は結構ですよ、親方殿が出されました」


 マスターは人間である。ドワーフだと売り物を飲み尽くしそうだ。加えて他人にいい酒を出し渋る可能性も考えられる。


「それは申し訳ないな」


 腸詰と芋沢山のシチューを朝飯に注文。色が寂しいので、せめて人参と玉ねぎを入れて欲しいと思いながら匙を進める。うーん、胡椒のきいた腸詰は美味い。鹿肉かな、あっさりしつつも肉肉しい。


「それから、皆さまから推薦状を預かっています。役所に滞在の旨、お申し出ください」


 帰り際、推薦状を貰ってしまった。

 私は玉ねぎ及び人参抜きポトフの代金をかなり多目に払った。親方たちの次回の飲み会分と推薦状分くらいはあると良いんだが。


 無いかな……。




名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.26

種族:人間 性別:男性

HP:171

MP:199

STR:30

VIT:18

INT:18

MID:62

AGI:89

DEX:98

LUC:65


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(初)】


魔法

【魔法陣(初)】【生活魔法】【詠唱】


生産

【細工(初)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(一)】【指導】【分解】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



備考

座標ミス

じゃんじゃんが不用意に構築中の魔法(魔力)をつついたことと、運が今日は悪かったことが原因です。


パッセルちゃんが意外と優秀で主人公が死なない件。


ドワーフは酒好きには割と軽く推薦状をくれます。主人公は戦闘面は心もとないですが肝臓だけはかなり強いです。

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