43 森のダンジョン(俗称)
不自然なほどカラフルな魚や、大小の真珠、未加工の種々の珊瑚、名産の『星の塩』を買いこみ、ギーメルに戻ってきた。
これからフェアリーズに修行を積まれるのである。
とは言っても。
単に森の中のダンジョンを攻略するだけなんだが。
木の上を駆け、気になれば以前は文字通り青々しかった枝――今も葉の緑で青々としてはいる――を、前回学んだ要領で伐採していく。そしてまた木の上を駆けていく。
「そこでグッと掴む!」
何を?
魔力を、である。
白い綿毛擬きを引き寄せることからして、かなり遅い。フェアリーズと比べるのが悪いと思うのだが。
集めた魔力を追い風になるように整理する、のだが……。
「ぷぷぷー」
「そよ風そよそよそ~」
風が吹くだけマシじゃないか?木々の間を飛び跳ねながらっていうのが間違っている気がそこはかとなくするのだが。
「じゃんじゃん~、『風』って言ってみ~」
「魔力を動かすのとー」
「いっしょにね~」
ちくしょう、こいつらぽりぽりたまごボーロ食いやがって。
「風?」
何も起きない。
「ちゃうねん」
「声に魔力を乗せるんじゃー」
「同時に震わせる~」
また魔力かい。
私の認識では、魔力イコール気合いである。
よって気合いを入れて「風!」と連呼する。
「風!…風!……『風』!」
何度目かの掛け声で背後から風が吹いた。
弱いが、そよ風よりはギリギリ強い。うっかりバランスを崩して空を踏む。
ただ言葉の方が集中しなくていいから楽だ。
「『風』!『風』!……」
おおう、楽しい!とりあえず連発しまくる。
何だこれ。
「『竜巻』!…へぶぅ」
下から巻き上げる風に空に打ち上げられる。HPピンチ。
フェアリーズは巻き込まれなかったので、かなり小規模かつ移動しないものらしい。
「じゃんじゃんチョウシ乗りすぎ~」
「ついな」
いい加減移動しながらは厳しいので、地面で練習する。フェアリーズは「ツマラナイ」とゴネたが、黒糖の欠片と南国フルーツ味のスライムが詰まった瓶を一つずつ出したら黙った。
静かになったところで各種属性を魔力をこめて呟いていく。
「『水』」
バシャっと盛大な音を立てて私がずぶ濡れになる。
……火からにしなくてよかった。
「『土』……汚い」
拳大の土くれが頭に当たって砕けた。石じゃなくて良かった、ということにしておく。
「む、『光』!……?」
光らねえ。何でだ。
「じゃんじゃ~ん、出したいところに魔力寄せてみ?」
「あと、じゃんじゃん光と闇はムリぽ」
「こうだよー。……『草』」
見本を見せるように、フェアリーズの内一人が目の前を指差した。よく見るとそこに魔力が集まり、『草』の合図と共に集まった白い魔力が震えて緑に芽吹く。双子葉類だ。
「草?」
「木属性だよん」
しばらくして空気に解けるように双葉の芽が白く溶けた。
そういえば、いつの間にか私の髪や服も乾いており、土汚れもない。
「ありがとう。よし!『草』!」
何も起こらない。
「アハハハハ!!」
「じゃ、じゃんじゃんの頭に生えてる~!!」
「ぷくくくっ。あっ、消えちゃったー」
「ちぇー」
ま、魔法で良かった……!生えたまま抜けないとか悪夢だ。脳に絡みつく植物の根を思い浮かべてしまう。
それにしても、目に涙を浮かべるほど笑わなくてもいいじゃないか。そしてさも残念という顔もあまり愉快ではない。
くそう、今に見てろよ!
《百回連続で詠唱を成功させたことにより、【詠唱】を得ました》
《【風の心得】は【詠唱】に統合されます》
《【土の心得】は【詠唱】に統合されます》
《【金の心得】は【詠唱】に統合されます》
《【木の心得】は【詠唱】に統合されます》
《【水の心得】は【詠唱】に統合されます》
《【火の心得】は【詠唱】に統合されます》
《熟練度が限界に達しました。【妖精化(一)】に変化します》
ようやっと思った場所に魔力を集めて、それに魔力を乗せた声を当てて魔法が発動したらコレである。
吃驚した。
そしてステータスが大分スッキリ……。
「次は無詠唱ね!ぼちぼちがんばー」
「じゃんじゃん~、泉に行こうぜー」
私の失敗を見て爆笑していたフェアリーズも、流石に飽きたらしく移動を促してくる。
それでもかりんとうを食べるのはやめないのだが。
ちなみにこのかりんとう、白い。初めて見た。フェアリーズに持たせた袋から一つ拝借。
美味い。純粋に甘いんだけど、素朴っていうか、なんというか。普通のかりんとうにある苦味がない。やべ、なんか手が止まらない。
「フェアリーストーップ」
「これ以上はダメ!僕らの分なくなる!」
「もともと私が買ったんだが。もう買ってこないぞ」
「「「さーせんした」」」
相変わらず変わり身の早い。
木の上を、追い風を受けながら移動していく。バランスを取りつつ時折枝を踏み外しつつ、順調に泉に着いた、のだが……。
「なんで普通の泉?」
以前は銀色にとろりとろりとしていた水が、底が透ける程度に透明の水に変貌していた。
泉の中に白を基調に柔らかい色を挿した修業中フェアリーズが見える。のたのた~とぎこちなく泳いでいるので、近くでラムネを消費しているフェアリーズのようになるのは遠そうだ。
きらきらと底で明滅するのは屑星幽石だろうか。後で素潜りだな。
水の中を観察していると、攻撃的な色合いが目に入った。ぐんぐん大きくなって近づいてくる。
「!!」
尖った歯を見せつけるように大きく口を開け、水から飛び出してきた。躱すと上陸した状態のまま、私に襲いかかる。
フェアリーズは既に逃げていた。薄情者め。
なんとか距離を置いて相対する。
頭は魚、腕はもふもふ、胴はぶよぶよ、脚は猛禽、尾は爬虫類。キメラである。混ざりすぎでは?
鋭い爪を避け、魔力を被せた刀で胴を狙う。
「滑る……」
めっちゃぬめる。両生類なら斬られてくれよ!
そして抜けざまの私の足を尻尾が掬わんとする。踏むけど。やべ、掠った。
げ、靴がちょっと溶けた!靴高いのに!
「こなくそ!」
体のバランスが悪いせいか、妙に隙が多い。刀を目に刺す。
「ギッシャァァァア!!」
「うわっ」
無作為に振るわれる爪を避ける。しまった、刀を目玉に置き忘れた。
「『風』!」
風で自身を心持ち飛ばし、急いで手斧を取り出す。鞄に入れておいて良かった!
歯が悪くなるから使いたくないんだが、仕方ない。
そこではたと気づく。
ここはダンジョンだからドロップで、つまりどれだけ傷つけても結果は変わらない。なあんだ。
「『火』『火』『火』……『熱』!」
『火』より『熱』の方が効率がいいのか、ちょっと発動が早かった。
「ギィヤァァァア!!ギャッ……」
効果もバツグンだ!(?)
暫くのたうちまわって息絶えた。
あ、ちゃんと『熱』って唱え続けていたからな?サボってないぞ?
「じゃんじゃん、その右手の飲み物なにー?」
「これか?レモネードだ」
喉が渇いていただけだからな?戦闘中には飲んでないぞ?
《ダンジョン3-1/1をクリアしました》
《称号【界渡り(魔)1/1】を得ました》
《初討伐記念品『精霊の革靴』を得ました》
界渡り?星渡りではなく?
ちなみにドロップ品は五つの大粒星幽石とワインみたいな毒と初期装備(?)でした。
あと【界渡り(魔)1/1】は何故か灰色です。分数を見る限り満たされてるのだが?
名前:ジャン・スミス Lv.26
種族:人間 性別:男性
HP:171
MP:199
STR:30
VIT:18
INT:18
MID:62
AGI:89
DEX:98
LUC:65
称号
【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【夜目】【逃げ足(初)】
魔法
【魔法陣(初)】【生活魔法】【詠唱】
生産
【細工(初)】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画】【調合】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(一)】【指導】
特殊
【混沌】【手抜き】【六文銭】
備考
相変わらず無様です。
魔力を乗せた声は今後、『』無しになります。雰囲気で「あ、【詠唱】してるなー」と思ってください。
また、【詠唱】は他にも取得方法があります。
私は東京カリントの『野菜かりんとう』のほうれん草味と中野製菓の白い『かりん糖』が好きです。
合成獣
基本二種か三種混合で、三種混合が最強。混ざっている分だけ星幽石を落とす。五種混合なんぞ滅多に出ない。でも六種混合程ではない。プレイヤーの人数と強さに比例して上限はあるものの強いのが出る。このダンジョンボスは泉の水を摂取するか、泉に飛び込まないと現れない。
ちなみに味は美味しくない。
謝罪
【土の心得】は前からずっとステータスに書き忘れていました。ベスの街辺りまで遡って修正するのが面倒なので申し訳ありませんがこのままを維持します。幸い、これまで【心得】シリーズ使ってないですから、話に影響はないはずです。