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38 妖精の迷宮2



 パッセルがもいだ枝は実に見事に――炭化していた。

 だが文句を言うのも筋違いなので、自分で切ると言ってかれこれ一時間。


 全く切れません。


 【魔力制御(一)】には進化したのだが切れず。


 なんでだろう、何体か出てきた狂ったフェアリーは切れたのだが。


 ちなみに狂って魔物化したフェアリーは、黒と黄色で構成されたストライプ柄の魚類や獣類で、目がオレンジ。ドロップ品は蛍光緑の魚の切り身や生肉だった。

 ……森で川を見ないから、宿の食事に出てきた大きめの魚は他の街から仕入れていると思っていたのだが、もしかしてコレを使っているのだろうか?サイズが近いんだが、正気か!?いや、味は普通に美味しかったが。

 あとは稀に星の砂のようなモノが出る。


 付け加えると、可愛くは無かった。女性がどう言うかはわからないが。彼女たちの「カワイイ〜」は困った時の便利な形容詞だからな。


「じゃんじゃんダメダメ〜」


「このすかぽんたーん」


「ボクらは〜、アン」


「ポン」


「ターン♪」


「マジか」


「「「ウッソー♪♪」」」


 めっちゃ楽しそうだな。パッセルは多分寝てる。鳥のくせに瞼閉じて寝る器用な奴でさ。バグかね?


「今更だけど、お前ら名前あんの?」


「「「無いよー!」」」


 無いのかー。へー。


「名前があると、こっちに来れないし」


「お菓子食えない」


「子どもつくるってカクゴしたら、名前を妖精王(オベロン)から貰うのよ」


「こっちで誰かを気に入れば、その間仮の名前を貰うけどね〜」


「めったに無いよ〜」


 ねー?とお互いの顔を見合わせて笑うフェアリーズ。


 それはともかく、ここの枝が欲しい。絶対面白い作品になると思うんだよ。

 もっと切実な理由もある。良さげな枝がたくさん欲しい。


 覚えているだろうか、私が杖になって処分された日。

 大量生産した杖も私と一緒にゴミになったのだよ。


 つまりノルマ百本が全然クリアできてないのだ。

 お気に入りといくつかの量産品、合わせて十一本は最初に【混沌】くっつけて、その都度ストレージに仕舞っていたから無事だった。それだけが不幸中の幸いかな。


「はぁ……」


「どうしたの〜?」


「元気出せよ?」


「お菓子出せよ?」


 私はインベントリから鴨サブレを取り出して、フェアリーズに与える。

 ため息が止まらん。こう、言われるままにあげてしまうの、良くないよなあ。


「なに、ディオディオに課されたノルマが終わらなそうだと思ってな」


「ほほう」


「どんなの〜?」


「きいてやろ〜」


 フェアリーズは無駄に偉そうだが、実際はただのお調子者のお人好しだ、たぶん。

 そして意外と口が固い。


 つまるところ、相談するのに割と抵抗はない。別にバレたとしても問題ないし。

 素直にノルマ百本の件を伝える。


「んー、それって数の問題じゃないよ〜」


「じゃんじゃん意外とバカねえ」


「色んな木と付き合いなさい、だと思うな〜」


「付き合う……」


 深い。

 でも単純。


 目先の数的課題に囚われて見失っていた。大事なのは私が良い作品を作ること、作れるようになることだよなぁ。

 一つ一つ仕上げた方が質が良い。量より質の時だってある。

 フェアリーにこんな事を気づかされるなんて……!


「不覚っっ……!」


「シツレイだな〜!」


「ボクらこれでも……、幾つだっけ?」


「えー、ニンゲンだと三百歳くらい〜?」


「……だぞ!ウヤマいたまえ」


 嘘だろ。

 一応言っておくが、お前たちが胸を反らせても、鼻息を荒くしても、威厳は生まれないからな?


「ワビを要求する!」


 フェアリーの一人がぐにぐにと、固まった私の頰を引っ張る。お詫びではなくお礼をやろう。


 てれててってて〜

 アーモンドチョコレート〜!

 サイズも丁度いいし、何より万人受けする美味しい菓子。

 フェアリーズが食べる姿はハムスター。癒される〜。


 さて切るかー。

 私の野望を悉く潰しやがる青ピンク野郎に向き直る。


「そういえばじゃんじゃん、斧使わないのー?」


「鉈とか」


「そろそろ魔力のギュッ度は良さげなのね〜」


 ポリポリとチョコレートから露出したアーモンドを齧りながら、私の刀を見つつ素朴な疑問を投げつけてきた。


「無駄じゃないか?」


 一応試しに手斧に替えて切りつける。


 サクッ。


「おーまいがっ!」


「「「イェーイ!!」」」


 チョコを片手にハイタッチするフェアリーズの前で、私は膝と手をついていた。




 ようやくまとまった量の木材を得られたので、割と手早く奥に進む。屑とは言え、奥の泉に沈むという星幽石は魅力的だ。

 勿論、道中の草や実も毟るわけですが。


「星幽石には精霊獣が住む、と聞くが、何か知ってるか?」


 私は頭上に陣取るパッセル――正確にはその胸毛――を見上げつつ、肩に転がるフェアリーズに聞いてみた。精霊獣は喋らないのだ。


「セイユー石が無くても別に問題ないケド〜?」


「セルちゃんゴゾンジー?」


 フェアリーズは精霊獣と話せるんだった。


「ふむふむ〜」


「なるへそ〜」


「星幽石がボクらを繋ぐ〜?」


 根気よく話の辻褄を合わせていく。【読書】様も稼働するのか、裏づけのような記述も脳裏にちらつく。パズルを解くような感覚だ。


「つまり、契約した精霊獣を()べるのか」


 星幽石は「接続・調和」という概念が大きいらしい。


 星幽石は精霊獣の住処、は妖精系亜人のミスリードによる人間の迷信であり、契約者との繋がりの強化的な役割を果たすようだ。

 近くにいなくとも、星幽石を介することで契約者を認識できるため、どこにいても契約者のところに行ける。つまり契約者が出勤先みたいな扱いということになる。そして嫌なら行かなくていいという……。


「精霊獣からすれば、星幽石があった方が契約しやすい、ということだな?」


「ぴんぽんぴんぽーん!」


「大正解〜!」


 人間側(こちら)としてもメリットはある。特に大型の精霊獣の契約者には嬉しいだろうな。

 パッセル程度なら宿も嫌な顔をしないだろうが、馬サイズだと大きな宿でなければ厳しいだろう。盗まれる危険もあるし。ダレスの闇市っぽいやつが思い出される。


「パッセル、お前も星幽石使って契約しとくか?」


 気をつけるとは言え、盗まれそうだし。網で簡単に捕まっていたから心配だ。


「別に良いって〜」


「おお!」


 それっていつも一緒に居てもいいくらい私を信頼しているってことだよな!ちょっと感動!


「お前からならすぐ逃げられるってさー」


「じゃんじゃん舐められてるぅ〜!!」


 私の感動を返せ、倍ぐらいにして。



名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.25

種族:人間 性別:男性

HP:171

MP:189

STR:30

VIT:18

INT:15

MID:59

AGI:88

DEX:96

LUC:64


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【魔力武装】【夜目】【逃げ足(初)】


魔法

【魔法陣(初)】【生活魔法】


生産

【細工】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御(一)】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】【魔道具】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



備考

今回の575(謎)

フェアリーズ 食べる姿は ハムスター


なぜか、私の中で変な色はショッキングピンクで固定されているのですよねー

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