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37 妖精の迷宮1



 想定外の出来事のせいで、ザイーンには向かえそうもなくなってしまった。

 私は結局、フェアリーズとダンジョンに行く事にした。無論(?)、パッセルは頭の上に陣取っている。


「へえ、フェアリーや精霊獣はダンジョンから生まれるのか」


「のんのん!」


「ダンジョンは実体化訓練場なの!」


 ダンジョンはいくつもの異界に繋がっているそうだ。そのうちの一つがフェアリーズやパッセルの生まれ故郷で、ダンジョンで特訓して此方に出てくるらしい。

 フェアリーは元々魔力の塊で肉体がないが、実体化出来るようになればお菓子が食べられるようになるから、ダンジョンで特訓するのだとか。


「訓練に失敗すると狂ってマモノになっちゃう」


「動物だったり〜♪虫だったり〜♪」


「この姿になれるボクたち、エリートなのよ?」


「おお、凄いな。ってことは、この辺の木や魔物はみんなフェアリーなのか?」


 刀を構えつつ、時折現れるゴブリンを切り捨て進む私だが、偶に踏み潰しているだろう虫が全部フェアリーとかゾッとする。しかしすまん、踏む!


「ダンジョンの中だけだよ〜」


「ミジュクモノは魔力が薄いところにいられないもんね!」


 薄い胸を反らすフェアリー。ぴるぴると背中の羽も震わせている。


「早く言え。ところで、ここのダンジョン以外の魔物は全部フェアリーなのか?」


 私は飴玉を一つずつ与えて聞いてみた。ブルードットピーチ味だ。鍋さんが頑張って毒抜きしてくれたので、麻痺を気にせずしゅわしゅわ口の中で溶けるのが楽しい逸品。


「しゅわしゅわ〜!!」


「ナニコレ〜!!」


「で、魔物は?」


 全部フェアリーの修行中の姿だと考えると、ちょっとどころでなく嫌だな。


「魔物は魔物の世界からなのよ」


「ボクらとは違うんだな!」


「じゃんじゃんも人間の世界から来たんでしょー?星渡りだもんねー」


 チッチッチッ、っと口で音さえつけて指を振って教えてくれたが、魔物が生まれる詳しい原理はわからないらしい。


「だってボクらのことじゃないしー?」


「ああ、でもたしか妖精は狂ったままお外に出て増えちゃったヤツもいるのよ」


「よくわかんなーい!」


「ごもっともで」


 軽口を叩いていると、下生えの合間に苔のように慎ましく光る帯が覗く。

 これの向こうがダンジョンらしい。




「ピンクっっ!??」


 少し変わっているどころじゃないよ、ディオディオ!!

 空はレモンイエロー、木々は葉がショッキングピンクで幹はコバルトブルーでベタ塗りじゃねえか!!


《ダンジョン3-1/1を発見しました》


「じゃんじゃん何言ってんの〜?」


「普通に木は緑と茶色だよぉ〜」


「空も青いしね?」


 え、ええー。

 生物学上構造が違って光の受容体の種類も違うみたいな感じなのか?


「あっ、スンとユンの子だ!」


「おひさ〜」


「頑張ってんじゃん」


 前方から水色の水玉模様が散った、これまたファンシーな白い魚がやってきた。器用にも空を泳いでいる。

 フェアリーズの反応を見るに知り合いのようだが……。


『¥☆さ%○奈〆6¥』


 何言ってんの?


「うんうん、もうちょいだよ!頑張れ!」


 どこらへんが?


『は<〒8才☆♪べ#×』


「そうそう、ボクらとお揃いになれたら美味しいの食べられるよ!」


 美しい先輩後輩関係なのだろうなあ……、たぶん。


「せっかくだし、じゃんじゃん殴っとく?」


「なんでそうなる!?イッ……たくない?」


 私に体当たりしてきた魚フェアリーが、そのまま私の体をすり抜けていく。少し引っかかるような抵抗を感じるくらいで、衝撃もない。

 ステータスも一応確認するが、殆ど変わらない。微量のMPが減ったくらいか?


「んー、やっぱりマダマダだねー」


「ショウジンするのだ〜」


「お菓子は遠いぞ!」


 今まで空気だったパッセルの上で、威張りくさ……先輩振るフェアリーズ。


『ま4€°々』


「うん、またね〜」


 魚フェアリーは尾鰭を左右に揺らして去っていった。


「なあ、私はこのダンジョンではサンドバッグ……程のいい練習台なのか?」


「えー、そんなことないよぉ」


「おい、私の目を見てもう一度言うんだ」


 口を窄めて目が豪快に左へ泳いでいるフェアリーの翅を摘んでぶらぶらさせる。

 妖精保護団体などが見れば訴えられるだろう。が、この世界にそんなものは存在しないのだよ!労働組合が存在しないようにな!


「きゃ〜!離せ〜!」


「言う割に楽しそうじゃないか」


 軽い体は面白いように揺れる。自力で飛べるのに私に揺らされるから楽しい……のだろうか?とりあえず笑顔なので説得力はない。


「じゃんじゃん、ヒドーイ」


「アレはジョウダンなのよ?」


 どう冗談なんだ。説明してみろ。それは私が納得できる理由なんだろうな?


「ふふん。ここにはデキソコナイの舎弟もいるのね!」


「倒してくれたら、妖精の世界に戻れるの」


「狂ってるから一目リョーゼンよ?見境ないもん」


「ほー?」


 アクティブは倒せばいいということか、理解した。


「ダンジョンから出ちゃうともう戻れない」


「だから見つけたら倒して欲しい」


 お願い、と手を合わせるフェアリーズ。

 ここは私もカッコよく返さねば!


「うけたわ……承った!」


 か、噛んだー!!!(泣)


「プププ!じゃんじゃん噛んでるー!!」


 ほっとけ!




 派手な青い木の枝を切り出す。ここのダンジョンでは、植物が過剰な魔力に曝され続けて変質しているのだとか。


「かった!金属かよ」


 いつものように、刀に魔力を纏わせて切りつけたのだが、物凄い抵抗がある。私が切った中では最硬だろう。


「じゃんじゃん、纏った魔力じゃ足んないよ」


「全然なの」


「こう、もっとギュってしなきゃね!」


「ギュ、ねぇ……」


 元々魔力なんぞ、現実(リアル)じゃ使わないのだから、無茶言うな、と思う。

 が、今まで魔力操作は気合しか問題にならなかったし、イケるか?未だに魔力がわからない私デス。


「想像力だよ、じゃんじゃん」


「創造力だよ、じゃんじゃん」


「想造力だよ、じゃんじゃん」


 根性論は好きではないが、優秀なコーチ(?)もいることだし、やってみるか!

 とりあえず密度分布を想像しよう、そう思った時だった。白い閃光が、ガラスが割れるような音と共に空を裂いて目の前に突き刺さる。


 ポト。


 目の前で切ろうとしていた枝が落ちた。


「セルちゃん……!」


「良い子ね〜」


「カッケー!!」


 え、パッセルさんんんん!?君寝てなかった!?

 雷の遣い手とかカッコ良すぎじゃないですか!?(飼主)の立つ瀬がないぞ!



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