36 精霊獣
結局、腕輪は六十万で売却した。普通の住人の店売りで一番高いのが四十万くらいだから相当だ。
サカイ君はもっと高く買い取ると言ってくれたが、今は欲しいものが特にないのでそんなにいらないのだ。うっかり簡単にできてしまったから、そこまで価値があるようにも思えないのが最大の理由だな。
それでも私にとっては大金なので、即行で銀行に預けました。
私が売った杖は、サカイ君がA×6か竜の軍歌所属の魔法使いに売りつけるそうだ。
なぜその人選か聞くと、金払いが良いからだそうで。深く納得した。
「口止めは任せてください」
とキラキラしい素敵笑顔だったので、お願いした。何するのか、とてもとても気になる。
《お知らせします。ザイーンの街に到達したプレイヤーが現れました》
《これより職業システムが稼働します》
《詳細はメニューよりご確認ください》
なんだか気になるワードが出てきたな?
久しぶりにメニューを開く。
『ザイーンの街の職人・冒険者協会本部で職業を登録できるようになりました。登録した職業に則って、成長に補正がかかります』
ご利用はお早めにってことか?いつもの三人を誘ってみて、予定が合えばみんなで、合わなければ一人で今度行ってみるか。
私に待つという選択肢は無い!
見事に振られた私は、偶には外に出るという三人のフェアリーズとザイーンを目指すことになった。地図的にギーメルが一番ザイーンに近いのだ。
「なあ、私はまだ精霊獣に会ったことないんだが、どんな生物なんだ?」
「えー??じゃんじゃんなに言ってんのー??」
「街の中にも居たじゃんか」
「え?栗鼠とか鼠とか、各種小鳥しか見なかったけど。あとは犬とか猫か?」
木々で寛ぐ小動物たちは見かけた。フェアリーズが偶に一緒に昼寝していて、犯罪者が出そうだったレベルのほのぼのさがヤバかったのは覚えている。
「だからー、その子達が精霊獣だよ!」
「じゃんじゃん見る目無ーい!」
指差して笑うな、菓子をやらんぞ。
「じゃあ、契約しても精霊獣に乗って移動とか出来ないな」
ガッカリだ。
「もともと大きな子もいる」
「馬型〜、虎型〜、熊型〜、鹿型〜♪」
「変化する子もいるよー」
「狐型〜、狸型〜、狢型〜♪」
「「「でも滅多に懐かなーい♪」」」
楽しそうだな。
そして私には懐いてくれなさげなフラグが。実家の猫には引っ掻かれてばかりなんだよなー。
「「「!!」」」
「じゃんじゃんストップ!」
あと数十分歩けば森を出る、というところで声が掛かる。いつもより小声で、目つきが険しい。珍しいな、能天気じゃないフェアリー。
剣呑な雰囲気なので、私も声を低くしてどうしたのか尋ねる。
「密猟者だよ」
「セイバイ」
彼らが指差す方向を、足を忍ばせ木の上に登り、そっと窺う。
すると、網を持って昼寝している雀――サッカーボールくらいある――に近づく人間が数人。全員色味が地味だし、顔も地味だし、たぶん住人。
ていうか気づけ雀。お前の野生は何処にある?
「なんかまだ居るよ」
「じゃんじゃん気をつけて」
「今日は多い」
言われて網持ちの数十メートル後方に、カラフルな六人組が。プレイヤーだ。あ。
「どうかしたの?」
「後ろのは知り合いだ、見覚えがある。説得出来ると思うぞ」
とりあえず、密猟者を捕まえるか。縄無いんだけど、代替品あるかね?
と、悠長に構えていたら雀が捕まった。密猟者たちがバタつく雀に気を取られているうちに接近、足の腱を切る。痛そう。
しかしこれならポーションで治せばいいだろ、うん。
「お前らいつもどうしてる?」
私はギャンギャン騒ぐ密猟者の手足を餅もどきで拘束し、痛そうなのでさっさとポーションを掛ける。上出来!……上出来?
「眠らせて街に報告〜」
「運べないしね〜」
どうやら森の外に捨てるらしい。とりあえずフェアリーズに言って、魔法で密猟者を眠らせる。
急にガサガサと茂みが揺れ、飛び出してきたのはいつぞや図書館で会った赤毛ツンツン少年パース君だ。
「よっ」
「あ、なんであんたがいるんだ!?」
「ツナさんは今日居ないのか?」
居るのを実は知っているけど、聞いておく。パース君が口を開こうとしたとき、後続が着いた。
「ちょっとパース、置いてかないでよ!」
「お前アホやろ?ほんまに話聞いてはったか!?」
「リーダー、任せなきゃ良かった」
「ぜーっ、はー、はー」
「……明日、弁当のオカズ奪う」
ぜーはー、と肩で息をする五人。
「で、お前たちはなんでこの森にいるんだ?」
「……可愛い」
ローブを被った小柄な子が、私に集るフェアリーズをガン見している。手がイソギンチャクのごとくワキワキしており、流石の妖精たちもひいているのか、私の髪の毛が抜けそうな勢いで掴んでいる。
痛いからやめろ。
一人妖精を摘んで、その子の手のひらに乗せてやる。他の少女の手にも一体ずつのせてやった。
居心地悪そうに動けない妖精と、撫でたいが嫌われるのではと葛藤する良識的な彼女たちを放置し、話の通じそうな少年に声を掛ける。
「……あなたは?」
弓を背負ったエルフ君が、やや警戒心を覗かせて聞いてくる。そこらへん隠さないと、腹黒い大人になれないぞー?
「私の名前はジャン。自称木工職人だ。君達と同じプレイヤーだぞ、一応。パース君は知っているが、君達は?」
「僕はシュンです」
「僕は八ツ橋や。よろしゅうな」
エルフ君がシュン君で浅黒鬼少年が八ツ橋君ね、理解した。
自己紹介もソコソコに、事情を聞く。六人は精霊獣の密猟者を捕まえるクエストを受けたそうだ。
「なるほど、じゃあ此奴ら連れて行っていいぞ。私は通りがかりだし、むしろ邪魔したのは私だしな」
頭を下げておく。
「いいんですか!?ありがとうございます!」
「構わない。それに私はザイーンに行く途中だしな」
そう言うと少年たちはポカンとした顔を晒した。
「ええ?」
「お前なんでこの森にいるんだ!?ダレスからだと回り道だぞ!?」
「パース、お前うるさいで」
パース君の頭はボカッと大分いい音を立てた。これは日常茶飯事っぽいぞ。パース君の無さそうな頭が言葉までも失いそうだ。
「私はギーメルから出てきたからな」
「それホンマか!?」
「この森にギーメルの街があるんですか!?」
「お、おう」
興奮するエルフと鬼少年を落ち着かせ、街はこのまま真っ直ぐだが紹介状が無いと無駄足になりかねないことを伝えた。
「行くだけ行ってみようぜ!」
叫んで飛び出すパース君。
「あっ、馬鹿っっ!」
「もうアイツ放置でええやんな」
「そうだねー」
「……賛成」
「ちょっとみんな」
八ツ橋君が投げやりに提案し、他も賛成ムード。ツナさんは言葉だけは心配しているように聞こえるが、フェアリーズを撫でるのに夢中っぽい。フェアリーズは固まって動かないが、心なしか涙目なので助けてやる。
「じゃんじゃんー、助けるの遅いー!」
「怖かったー!!」
「ほれ、菓子やるから。元気出せ、な?」
鍋さんの新作、チョコレートを出してやると、途端に笑顔になった。相変わらず現金だ。
……少女たちが恨みがましくこちらを見ている。怖い。
兎に角、五人を説得して密猟者を運ばせ、そこで別れた。多分また会うんだろうなー。
そういえばさっきの雀どうした?
突然、ボフッと頭の上に何かが乗った。
「あ、さっきのヤタスズメだ」
口の端に菓子クズをつけて私の頭を指差す。
「その子、じゃんじゃんの頭が気に入ったみたいだよ」
「居心地良いもんねー」
「むー、ボクの特等席」
私は椅子じゃないんだぞ、知っているか?
「そっかー、じゃんじゃんについてくの?」
「いいカモだよ、お菓子くれるもん」
おい、雀に変なことを教えこむな。
というか、私のことそんな風に思っていたのか。聞いてる?無視するな。
「じゃんじゃん、名前あげてー」
ほほう、ネーミングセンス皆無の私に良い度胸だな。
「よし、お前の名前は『すずめ』だっ!」
「うわー、じゃんじゃん、それは無いわ〜」
「嫌だってさ」
我儘だな。痛っ、今私の頭を蹴りましたよこの雀。
「えー、じゃあ『ちょんまげ』とかどうだ?頭の上にいるし」
再び蹴りが。爪が痛い。血は出てないだろうな?
「んー……、『チュン介』」
……げしっ。
嫌らしい。面倒で我儘だな、置いていこうか。
……げしっ。
「はー……。んー、パッセルは?」
「あ、おっけーだって」
え、マジ?結局スズメなんだけど……。名付けておいて無責任だが、パッセルって呼びにくいよな、どうすっかなー?
備考
妖精たちより気配察知が下手な主人公でした。ガンバレ。
八ツ橋くん京都弁にしたいんだけど、間違っている気がするがどう違うかわかんない。正しい京都弁を誰かー!