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35 売却



 世間では武闘大会が終わり、精霊獣と星幽石ゲットに熱意を燃やすプレイヤーが多くなったらしい。

なんでも、優勝商品に『星幽石のペンダント(精霊獣の住処)』が含まれていて、掲示板が大層盛り上がったそうだ。


「でも星幽石なんてドロップしないだろう?だからすごく盛り上がっていてね。どこで手に入るんだーって」


「へー。ダレスで売っているのを見たが」


 私は久々に鍋さんと会い、グリーンスライムの干物を売るついでに出来上がった杖を取り出し、呆れたような表情の彼女に手渡した。


「ジャン君、キミね……。なんでレアものばかり一足早く情報が入るのかな?……ん?可愛い腕輪だね」


 白い花と鳥が散った飴色の腕輪は、鍋さんのお気に召したようだ。早速身につけてくれた。サイズも的外れではなかったよう。良かった。


「気に入ったよ、いくらかな?あと杖は?」


「は?それが杖だが?」


「コレが?」


 基本的に杖状の杖――自分で言っていておかしいとは思う――しか出回らないから物珍しいのだろう。

不思議そうに見ているので、アレフの街付近の弱いモンスターを討伐することにする。流石に人はもう疎らだ。


 念の為森に入り、二人で木の上を移動する。


「ゴブリンか、まあ手頃かもね」


 比較的手に入れやすい美味しい肉のラビット系ではなかったので、鍋さんはご機嫌だ。


「【火弾(ファイヤー・ボム)】」


 手を伸ばした先にやたらデカい白い火の玉が生まれ、ゴブリンに向かっていく。


 ボンッ。


 後には何も残らない。蒸発してしまったようだ。


「これ、どう考えてもヤバいね」


 ハイ、仰る通りです。初期から使える魔法でコレはヤバイ。


「んー、ジャン君、申し訳ないけどコレは買えないかな。私が持っていると余計な問題になりそうだよ」


 トッププレイヤーより高威力とか、騒動のタネにしかならない、だそうです。残念。んー、サカイ君に処分してもらう(売る)か。


「他に杖はあるかい?」


「あるぞー?」


 インベントリから取り出したるは、ネタシリーズの杖たちです。

 やっぱり仲が良い人には自信作をあげたいよな!


「このお玉と魚の串焼きは良いね。トングとかフライ返しもあるのか。今度は杖になっていない調理器具を作ってくれないか?」


「わかった」


 褒められると嬉しいぜ、頑張っちゃうよ!竹をさがさねば!

 ラームス氏に聞いてみよう。

 鍋さんは散々迷った挙句、魚の串焼き型杖を買い上げた。


 いや、支払いは大量の料理だったが。

 もう、取り出した時の匂いがねっっ、凄かった!魚介たっぷりのラーメンとか、ゴクリと喉が鳴るのも必然なのだよ!たこ焼きとかもねっっ、期待大ですよっっ!鰹節が魅惑的に踊り狂ってます。ソースってどうやって作ったんだろう……。そして地味にツナマヨが私の心を揺する。酒に合うんだよ、これが。柑橘系の酒と凄く相性が良いんだ。各種海鮮の揚げ物もタルタル付きで唾液を催す香りがやばい!つまみ食いする前にいそいそと仕舞いこむ。

 あとはココアやボンボンなどのチョコレート菓子各種かな。フェアリーズにも分けてあげよう。


 残念なことに米が見つからないので、海鮮丼や寿司はお預けだ。どこに生えているのか……。

 是非早く見つかって欲しい。切実に絶滅危惧種・鮪及び鰻をふんだんに使った丼を食べたい。


「コレはどんな杖なんだい?」


「見た目以外は普通の杖のはずだ」


 対価の食べ物の一つ、できたてのスコーンを齧りつつ答えた。美味い。噛むとじんわり広がる小麦の仄かな甘みが、やばい。私の語彙力もやばい。つけなくても美味しいが、バターと蜂蜜乗せたい。


 甘い匂いに誘われたのか、がさりがさりと茂みを揺らし、再び一匹のゴブリンが現れた。


「丁度良いね、【火弾(ファイヤー・ボム)】」


 鍋さんの持つ魚の先に生まれたオレンジ色の火の玉がゴブリンにぶつかり、燃える。ゴブリンは転げまわり火を消そうとするが、なんかめっちゃ燃えてる。

 私ずっと刀で処理していたけど、ゴブリン、貴様まさか可燃性……?


 疑惑の眼差しを向けていたが、鍋さんがトドメのためにナイフを突き刺し、動かなくなった。南無。


「うん、私が今使っているものより手に馴染むし、結構威力も高いね」


「それは良かった。が、燃え続けるのは普通なのか?」


 ご機嫌な鍋さんには悪いが、私には燃えたゴブリンが気になる。顔は確かに脂っぽかったかもしれないが……。


「ああ、小鬼油(ゴブリンオイル)をドロップするゴブリンだと思うよ。偶に燃え続ける個体がいると聞いたことがある」


 【解体】だと多分肌から絞るんじゃない?と続ける鍋さんが恐ろしすぎる。


「……。杖は、【鑑定】していなかったが、それでいいのか?」


 油には触れない方向で。【解体】持ちの鍋さんが死体を回収しないということは、料理に使わないのだろう。安心した。


「普通の杖っぽいし、いいよ。【鑑定】は正直、食材以外には使いたくないんだ。(初)にはなっているのだけど、ものすごい情報量でね、必要な情報を見つけるのも一苦労なんだよ。私は【抽出】がある分マシだけど、知り合いの何人かは頭痛が酷くて、使うのをやめたくらいなんだ」


 うわぁ。鬼畜だわあ。

 初めて【鑑定】が無いことに積極的な感謝を覚える。


「じゃあ、私はサカイ君のところに行って腕輪を売ってくる」


「私も行くよ」


 鍋さんはついでにカカオ本体と新作のチョコレート系食品を売るそうなので、一緒に行くことにする。今居るかな?




 連絡してみると、今日はベスの街で商売しているとのことで、私たちはベスに転移した。


「いらっしゃい、二人とも」


 指定された場所で、相変わらず怪しげな露天商(コンビニ)をするサカイくん。ビシッとしたファンタジー服が、イマイチこの雑多な感じと合っていない、というか胡散臭さを助長していると思うのは私だけなのか?


「久しぶり。店は持たないのか?」


「行商人というのが良いんですよ。ロマンです。NPC(こちらの人)も買いに来てくれたりして仲良くなれたりしますし。ああ、鍋さんもまだ店はお持ちでないですよね?」


「まあね。とりあえず食材を網羅したいし、屋台は客から直接感想が聞ける機会が多いから」


 そう言われると何も言えないよな〜。


「そういうものかー。あ、杖を一つ売りたいのだが」


 と言いつつ、鍋さんに先に取引してもらう。チョコレート系はまだ出回っていないらしく、二人ともホクホク顔だ。鍋さんは目立たずに売れるようになるし、サカイ君はまだ物珍しい商品を売れる。


「ああ、サカイ。星幽石だけど、ダレスで売っているらしいよ。ジャン君が言っていた」


「本当ですか!?」


 ものすごい勢いで私まで売られた。鍋さんヒドイよ。教えるつもりだったからいいけどさ。しかし、寄こしてきたウィンクが妙に似合うな。


「ああ。『リプラの宝石箱』という店で売買していると聞いた。たぶん、結構有名な店だ」


「ありがとうございます。今度訪ねてみます。えーと、お代はジャンさんの杖代に上乗せしますね」


 眩しいほどの笑顔だ。それだけ星幽石は相当ホットらしい。クーゼさんに向けてやれよ。


「頼む。コレなんだが、専業魔法使いでもない鍋さんが使ってもヤバくてな」


 そう言って、鍋さんに返品された腕輪を出す。


「若い女性受けしそうなデザインですね。コレが杖なんですか?」


 不思議そうに見たあと、鑑定し始める。時々眉を顰めているから、鍋さんの言う通り辛いのだろう。


「……!!」


 サカイ君は以前鑑定してもらった時より随分時間が掛かって鑑定し終えた。


「これ、現在確認されているプレイヤーメイドの杖を軽く凌駕しますね。下手なところには売れません。出所を探られて粘着されます」


 いつになく真剣な顔つきのサカイ君に促され、近くの個室有りのカフェに移動する。鍋さんは帰ってしまった。折角来たのでスライム狩りをするそうだ。スライム型のゼリーやマシュマロはまだまだ売れ筋らしい。


 注文した飲み物――久々のアメーで味を調える茶が届いてから、杖の商談を始める。


「正直、値段を付けられないのですよ。お二人の話を合わせなくても、鑑定結果がトンデモないんです。鑑定結果を出しますね」


 サカイ君は魔法紙を取り出し、謎言語で何事か呟く。すると紙には焦げ茶色の文字で鑑定結果が書かれていた。


 ファ、ファンタジー!いいな、私も使いたい!!


 おっと昂ぶってしまった。渡された紙を見る。


アイテム名:蜜妖樹と三日月鹿の腕輪

効果:魔力制御大、魔法制御大、魔力変換効率大、魔力相克軽減小、魔法相克軽減小、全属性適性、魔力消費-34%、知力上昇+31%、魔法投射速度+17%、魔法実現可能性+9%

製作者:ジャン・スミス


 なんかよくわかんないな、凄さが。魔力消費軽減と知力上昇は数値で出ているからわかりやすいが、魔法実現可能性って何?


「大分簡潔にまとめましたが、効果が十も出たのは初めてです。基本的に杖ですと、魔力制御、魔法制御、魔力変換効率の他に一つ二つくらいしか出ません。補正数値も高級なNPC製やドロップならありえないとまでは言いませんが、他の杖(プレイヤーメイド)の五倍はあるでしょう」


「どうしようか……?」


「この杖と同等の品、大量に作れます?」


「無茶言うな」


 偶々できた奴だもん。


「ですよねー」


 サカイ君も分かっていたようだ。乾いたような笑い声だ。

 省かれた鑑定結果に「奇跡の品」とか「神の悪戯」とか出ていたのかもしれないな。でなければもっと食い下がりそうだし。


「この腕輪が鑑定されると面倒なんだよな?隠せたりできないか?せめて製作者だけでも」


「僕には無理ですね。ああでも、闇ギルドに通せば何とかなるかもしれません」


 サラッと違法そうな組織に関係があると曝露しないでくれよ。怖いじゃないか!!


「比較的ホワイトなところですよ?」


 裏を通じないと手に入らないものも有りますからねー、とのほほんと言うサカイ君が恐ろしいよ。あと心は読むな、頼むから。


「出来ればあまり危ない橋は渡って欲しくないな、しかも私の関係で。最悪そのまま売ってくれ。NPC(住人)に売ればいいんじゃないか」


「そうか!!ジャン・スミスさんは住人ということにしましょう!」


 投げやりな提案が解決策のヒントになったようです。

 そう言えば私、住人にすら住人だと思われるんだっけ……。



ソースの類って、材料と作り方パッと思いつかないですよね?自分が食べる専門なせいだろうか……。


ジャン・スミス作白い花と鳥の腕輪

【運】【手抜き】さんが物凄くいい仕事をしました。ラームス氏の監修補正も効いています。実力で作れるのはいつのことやら。


ジャン・スミス作川魚の塩焼きの杖

見た目以外は正規の手順に忠実に従って作った杖。腕輪を抜けば、現在プレイヤーメイドの中ではまずまずトップクラス。【混沌】により【料理】が運良く付いている。


闇ギルド

住人(NPC)運営の非合法組織。手広くやってる。

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