前へ次へ
34/113

34 弟子?2



 一度飾り類を外し、丁寧にヤスリをかける。ディオディオレベルならヤスリ無しでもすべすべつやつやにできるし、できるならそちらの方が木に対するダメージが少ないのだが、私はまだまだ未熟なのとニスを塗る予定なのでヤスリをかける。

 腕輪に分けてもらったニスを塗り、磨き更にニス塗りを数度繰り返す。乾燥が早いっていいね!

 そんな私を不思議そうに眺めつつ、ラームス氏はもう一度言った。


「だから、その腕輪が杖になってるんだ。狙ったんだよな?」


「いや?」


 はあー、とこれまた深い溜息をつかれてしまった。酷くないか?酷いよな?


「よく見ろ」


 言われて、鳥と花を付け直した手の中の作品に目を落とす。なんの変哲も無い女性向けの装飾品に見えるのだが?


蜜妖樹(ハニートレント)は普通杖としては向かないが、髄を除いてやれば使えなくもないし、魔力吸収性、事象親和性自体はトップクラスだ。しかも、加工するのに最も適した枝だな。ハニートレントに散見される節がない。途轍もなく運がいいな」


 え、マジ?

 そう言う暇すらないまま、ラームス氏の解説は続いていく。私の作品なのに、私より詳しいというね。多分、国語の入試問題で取り上げられる作家の気持ちってこんな感じなのだろうなあ。


「そして三日月鹿(クレセントディア)の角は単体で杖として使えるほど魔力伝導性が高く、蜜妖樹(ハニートレント)とはかなり相性がいい。極めつけに鳥と花の配置が二重立体魔法陣を構成しつつ、回路を確保。また汎用性を高くしつつ知力(INT)効果も付いている。星幽石は回路の効率の補佐といったところか。一度でも魔法陣が傾いていたらこうはならない。偶然なわけないよな?あ゛?」


 確かに言われて見れば、飾りを結ぶと八面体が良い感じに二つ絡んでいる不思議。

 偶然ですと言えない何か。エヘッ。


「……マジかよ。いや、まあ確かに魔法文字入れなきゃ杖として機能しないが、マジで?」


「マジです」


「……マジかよ」


 しばし呆然としたラームス氏。また溜息をつく。


「幸せ逃げるぞ?」


「誰のせいだ、誰の」


「ハゲるぞ?」


「お前のせいだ、お前の」


「とりあえず、どの魔法文字入れようか?」


 納得してなさげなラームス氏と相談しつつ、理想を司る星と調和を司る双剣の文字に削った、くすんだ緑色の星幽石の破片と、外していた角の欠片の裏に魔法文字を刻んだ上で緑寒天(もち)由来の接着剤を塗って嵌め込む。

 どこに入れるべきかわかんなかったけど、ラームス氏が呆れつつ指導してくれたからな、バッチリだ!


「こんなもん?」


「仕上げがまだだ。素材がそんなに気難しく無いから、薬液は出回っているやつで十分だな」


 なんと、複数の材料を杖の一部として使った時は、全体を馴染ませるために薬液にくぐらせる必要があるのだと。共鳴するようにするらしい。


「それから気難しいヤツは、そいつ用に調製しないといけない。トレントたちも面倒だが、魔物じゃない奴らの方が意外と厄介なのが多いんだ。装飾されるのが嫌いなヤツとか、別の素材を合わせないといけないヤツとか。……よし、引きあげろ」


 指示通りに漬けた腕輪取り出すと、木材部分はやや深みのある色に、角は艶を持ち宝石は輝きが増した。そして最も簡易な聖別の文句を唱える。

 この聖別に依って、杖は杖として完成するのだそうだ。私の腕が上がらないと使える聖別は増えないらしいが。……奥深すぎだ。


「『言葉在れ』」


《熟練度が上限に達しました。【木工(初)】は【木工(一)】に変化します》



 早くね!?というか括弧内の変化の法則が全く掴めない。

 それはともかく、改めて腕輪を見る。ツヤツヤだ。


「うん、いい出来じゃね?」


「ふん、これが一人でできていればな。偶然でなく計算して作れるようになって欲しいものだな」


「かーっ、いいじゃんケチー」


 耳に痛いが、かなり凝った杖が作れた。折角なのでこれを鍋さんにあげよう。


「ラームスはこういう複数の素材を使った杖は作らないのか?」


 私の手元を見ているディオディオに、ふと気になったので聞いてみる。


「ああ、作らないな。ここら辺は合わせるのに向いた素材が多くないし、大抵の使い手の技量なら一本の木から削り出した方が扱いやすい。注文が入らない限り作らないぞ」


「んん?設置型魔道具はどうなんだ?微妙に木目がズレていたし、いくつか使っていたよな?」


 色々使っているように見えたけども。あれ全部着色とか言わないよな?


「あれは同じ木から作り出したパーツを組み合わせているから、素材面ではそんなに面倒じゃない。余計に薬液に浸す必要はあるが」


 ほー。同じ()ね。樹種って意味ではなく、本当に同じ木から作るのか。一本の木から出来てるって、ちょっとロマンだよな。杖もそうといえばそうなんだが。


「それで、ダンジョンの話が聞きたいんだが」


「ああ、人間が知らないのは、基本この街に来れないからだ。それにこの森自体も俺たちみたいな妖精がいなきゃ、魔物に囲まれるし迷うしだからな」


 初耳だぞ。

 私一人でも、フェアリーズと出かけた時並みだったけどな?


「へー、で場所は?」


「北北東だ。ザイーンとの境の山脈の、こちら側の森だ」


「それ、ダンジョンなのか?」


 森じゃね?


「ああ、アイテムがドロップするからな」


 それ普通やん。多分、【解体】持ちの星渡りの旅人(プレイヤー)しかダンジョンだって認識できないパターン。


「あと森の色が少し変だ」


 それを早く言え。あー、でも少し変ってことは、大した違いではないのか。


「星幽石が取れるなら行きたいんだが」


「まずさっき使ったような屑しか出ないぞ?俺たちはそれで充分だが、人間に売れるか?……まあ、迷路を抜けた奥の泉の中に沈んでいるぞ」


 不審そうな顔をしつつも、ラームス氏は地図まで書いてくれた。流石ディオディオ!ツンデレは健在だね!

 ……無言で殴られました。解せぬ。




「む」


 翌日、アレフの街の生産所に来て、杖を作る。ラームス氏の課題に取り組んでいるのだ。

 ノルマは70点くらいでさっさと終わらすのが私クオリティ。

 100点目指したら終わらねえからな。仕事と一緒さ〜。気が向いたら頑張る。


 全ての枝を一気に乾燥させ皮を剥ぐ。割れとひびが出ないのが本当に嬉しい。

 ざっくり下書きしてざっと切り出す。同じ杖は作りたくないけど、100本を一々集中するのも面倒だと思う私です。


 でもやっぱり飽きるので、細部はちょこちょこ変える。持ち手をドラゴンにしたり、カエルにしたり、フクロウにしたり。干支シリーズや星座シリーズも彫る。


【木工(一)】になったせいか、いつもよりやや思い通りに刃が進む。気がする。


 やっべ、彫り方ミスった。頭の方向が中心向きじゃなくて外向きになってら。

 このままだと逆向きで使われそうだ。元々の木の根元近い方を持つのが、一番杖の性能を発揮できるんだけど。ま、いっか。売る予定はないし。


 完全に飽きが来て、もうネタに走っている。私の両手の暴走が止まらない。

 団子の杖や魚の串焼き、う◯このささった某司会者の棒、かなりリアルなお玉。


 個人的に魚の串焼きとお玉が傑作です。串焼きは鱗とかめっちゃ気合い入れたし、たい焼きの型よりリアルだ。色が上手く塗れれば遠目だと本物と見分けがつかないと思うんだ。お玉はあの独特のしなりを出すのに苦労した。あの数度の曲がり具合が使い心地を左右すると思っている。


 ヤスリをかけ、手触り滑らかになった杖たちをまとめて薬液に漬け、聖別する。

 フラスク老に素材を渡して、彼の指示のもとインクと一緒に癖のない杖用薬液も何種類か作ったのだ。【調合】が生えたし、これらはニスがわりにもなるのですごく嬉しい。本物のニスより手間も無いし最高だ!


 今までの作品はそのままだったから、作品の見た目レベルが上がった気がする。

 性能はやや上がるそうだよ?素人製薬液だから大した効果は無いそうだが。


 薬液を乾かして布で軽く磨く。銀食器を磨くのって、こんな感じだろうか?きゅきゅっと。


 機嫌が良いので、道具を片付け作った杖に片っ端から【混沌】を掛け、仕舞っていく。


「混沌〜♪」


 何がつくかな〜。鑑定がないのは不便だけど、想像するのはとても楽しいから結果オーライ。だってどうなるか全くわからないんだ。それって最高の娯楽じゃないか?

 ネタシリーズに掛け終えて、まあ普通シリーズにも呟いていく。ワクワク気分でノリノリだ。単純作業だけど。


「混沌」


 ブツッと視界が利かなくなる。何もない。


 えっ!?


 声が出ない。

 音もない。

 身動き取れない、感覚すらない。

 さっきまで嗅いでいた木屑の匂いもない。


 ワッハズハプンド!?


 ……何が起きたと言ってはみたものの、とてもとても身に覚えがありますね。


 つ え と ど う か し た 。(多分)


 スライムパターンですね、はっはっは。

 ……クソつまんねーぞ?何も出来ないし。


 とりあえずログアウトするか。今回で二度目だからか、冷静に対処できる。こんなことに慣れてもなあ、なんか虚しいような気がする。


 使用時間終了間際にもう一度ログインしよう、あと三十分くらいのはずだ。




 ぱちっと目を開く。お馴染みのアレフの旧聖堂だ。美丈夫と美女二人の像が目に入る。


「なんでここに?」


 首を傾げつつ、メニューの最新ログを確認する。


《廃棄により死亡しました》

《プレイヤー内で初めて確認された死因のため、【六文銭】により六万S(ソルト)を得ました》


 ……私、時間切れで忘れ物としてゴミ処理されたのか。




名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.25

種族:人間 性別:男性

HP:171

MP:189

STR:30

VIT:18

INT:15

MID:59

AGI:88

DEX:96

LUC:64


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【魔力武装】【夜目】【逃げ足(初)】


魔法

【魔法陣(初)】【生活魔法】


生産

【細工】【採取】【料理】【木工(一)】【解体】【伐採】【書画】【調合】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御(初)】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】【魔道具】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



備考

魔法文字

同じ文字でも違う意味の時もあります。


緑寒天接着剤

濡れると接着能力が失せる。現実の木工用ボンド的な扱い。


弟子って本当はこんなにゆるゆるじゃないんでしょうけど、ゲームとして考えると長期拘束はアウトかなーと思ってやめました。


巨大焼き団子はいい思い出です。一つの玉(?)がお手玉サイズでしたねー。醤油が香ばしくて美味しかったです。お店は数年前に閉めちゃったみたいですけど。


杖(主人公)が捨てられるとき意識があったとしても、折られても痛みは感じないでしょう。生きていればともかく、材料になった木材に痛覚無いでしょうし。

この後主人公はすぐに宿屋でログアウトしました。


因みにバーコードやキューピーなエルフがいますが、見た目しわくちゃな年寄りのエルフはいません。


【六文銭】

プレイヤー内で初めて確認された死因で死亡した場合、金銭を得られる。総初死因数×一万。

プレイヤー内で既に確認された死因で死亡した場合、金銭により死因をなかったことにする。死亡無効回数×一万。


主人公内の衝撃の大きさは、廃棄>六文銭です。

前へ次へ目次