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33 弟子?1

短いんですけど、キリがいいので。



「だっかっらっ!そこは刃を立てろ!」


「ヤスリが甘い!お前は全体的に詰めが甘い!」


「オス」


「返事が弱い!」


「……」


 なんだか、弟子になったのを後悔するレベルのガチ勢です。私は趣味でやってるのだから、そんなに求めないでほしい。


 やるけど。


 現実(リアル)では弟子入りなんて出来ないことを考えれば、破格の体験だ。宮大工とか昔憧れたクチです。


「まあ、いいだろう。とりあえず百本杖を仕上げろ」


「百!?」


「文句あるのか?」


「イエ」


 とりあえずお墨付きをいただきました。そして課題を与えてラームス氏は自分の仕事に戻った。

 よっしゃ、あの体育会系のノリから解放されるぜ、よかった。


 というわけで基本の杖を作ろうと思う。既に集中力が半減しているってわけじゃないぞ?

 基本だからといって手を抜いていいわけではないのだ、うん。


 心材かつ成熟材の、少し色の濃い芯持ち材。なんでも、髄が杖全体を貫くのが一番魔力の通りが良いのだとか。

 そして歳を重ねた木の根元ほど良い。


 まあ練習用なので私が使うのは若い奴だ。というか、ごく最近の狂気のトレント剪定会でもらった枝である。


 然程太くない枝を一本取り出す。


 とりあえず乾かして皮を剥ぐ。ヒビや割れが無いことを確認し、あたりをつけてザックリ削る。

 目指すはポッターな指揮棒風杖!鼻唄混じりでも余裕!


 ……あ。削りすぎた。いっけね。


 ま、いっか。



 十本くらい作ったところで集中力が切れる。百なんて無理。【木工(初)】になったし、良くね?よし、やめよ。


「ディオディオ、飽きた」


 さっき師匠って呼んだら怒られたので、フェアリーズに倣って呼んでみた。意外と語感がいいよな。


「ええい、その名で呼ぶな!」


 案の定一発で反応しました。いや、作業中悪いね、これでも結構待ったし、ラームスって呼びかけたんだけどな!心の中で!!


「まあ落ち着けって。飽きたし、楽器とか作りたい」


「お前が怒らせたのだろうがっ!」


 始終イライラしながらも教えてくれるのがディオディオ・クオリティー。流石です。


 さて、ここで問題発生。なんとラームス氏が作るのは弦楽器と笛のみだそう。いきなりハードル高すぎでは?


「他の楽器に向いたものはこの辺りでは採れないのだから、諦めろ。普段使わない物では、俺が満足に扱えん」


 無慈悲な現実を突きつけられ、膝を折るしかない。私、涙止まらない!


「私、音感ゼロなんだ!友人と手拍子していてもズレるレベルなんだぞ!弦楽器とか笛とか、そんな難しそうなのできるわけないじゃないか!」


「弦楽器は案外楽だぞ?調律は他人も出来る」


 なるほど!そう聞くと私でも作れる気がする!


 ……んなわけないよな(泣)!


 思いっきり首を磨くところで引っかかってる私がいます。横からまだまだと言いたげな鋭い目線が、手元に刺さります。今なら血が出る気がする。

 あと、糸巻きとかの金具の部分は貰えたけども、木でもネジ作れるようになれよ、などという言葉を頂戴し絶望の淵におります。


 そんなこんなで作っているのは、くびれのないギターみたいな楽器。エルフはこれか竪琴はみんな弾けるらしい。優雅デスネ。ケッ!


 良さげな穴をくり抜く。リュートのように綺麗な幾何学模様の切り絵のような円を描いても良いんだが、疲れたから気合の入った時に新しく作ってやることにする。

 弦をつける部分と調弦用のネジもくっつけ、組み立てて膠で固める。この膠、なんと(スライム)入りだ。やたら出てくるな、おい。


 とりあえず初めて作ったにしてはまあまあじゃないか?まだ固まってないけど!


「まあ、ギリギリ見習い作、といったところか」


 厳しいっすよ、こっちは素人です。どうせ下手の横好きだい!


「初めてにしては上出来か。まあ、完成は一週間後な。ニス塗りと弦を張るのはそん時だ」


 ハイ、デレ頂きましたー!


 いらねー。

 それ誰得?ちょっと口の端あげて美形度増しただけでいい気になってんじゃねーぞオラ。


 はっ、いけない、これでは下っ端チンピラではないか。落ち着け私、お前はNo.3くらいのはずだ、うん。


「んじゃ、また来る」


 新しい仕事を言われる前に去る私。まじスマート!


「おい、まだ終わってねえぞ」


 ハハハ。




 なんとか杖作りは回避した。雑談混じりの工作タイムですよ、癒されますな。


「フェアリーたちに星幽石のついた楽器を見せられたんだが。どんな効果があるんだ?」


「ああ、アレか。あれは【魔力制御】と【魔法制御】の同調……いや、スキル同士の干渉緩和のような役割がある」


 杖の発揮するスキルと本人の持つスキルが相克するのを防ぐのが星幽石の役割なんだと。

 妖精系はみんな星幽石付きの杖じゃないと使う意味がないんだそうだ。つまり私も星幽石無い杖は使う意味無いらしい。


「え、じゃあ人間は基本【魔法制御】や【魔力制御】ないのか?」


「熟練者はそのうち生えるそうだが、生えないやつの方が多いらしいぞ。おい、二ミリズレかけてるぞ」


 手元のレモン香るチーズケーキ(私提供鍋さん作)を口に運ぶラームス氏。

 私は指摘通りに二ミリズラして蔦を彫りこむ。ハニートレントの太めの枝から作る腕輪だ。蜂蜜色の木目美しい木で、透かし彫りが楽しい。


「ちょっと寂しいか?」


「白い石でも花や鳥の形にして嵌め込めはいいだろう」


 成る程、良いセンスしている。そう言えば鹿の角なんか白くて良いよな。丁度小さめにしてあるし、少しずつ違う目標形態があれば作業も楽しい。


「そもそも、木材が加工しやすいというだけで、他の素材で杖を作っても良いしな。素材によってはすでに星幽石の役割も果たすものもある。高価なものが多いから、ギーメルでは木と星幽石がメインになるがな」


「でも星幽石高くないか?」


 チマチマ作った小鳥と花を飴色の台座に散りばめていく。意外と地味だ。折角なので緑色の石の欠片をもらい、葉に見立てて適度にはめる。

 うわあ、大分フェミニンになったけどアリだな。私は着けない、そんな勇気ない……。


「ん?この辺の迷宮(ダンジョン)で出るぞ?それにその緑のも星幽石の屑だ」


「は?」


「お、杖になってんな。三日月鹿(クレセントディア)の角なんぞよく持ってたな?」


「は!?」


 私の脳みそパンクでしてよ!

 ちょ、説明!説明プリーズ!呑気にチーズケーキ食ってんじゃねえぞ。




備考

心材…赤身の強い中心部分。軽くて丈夫。

辺材…水分たっぷりで、乾燥させないと腐りやすい。白蟻の好物。

未成熟材…中心の古い年輪の何センチか分。残念なことに強度は低い。

成熟材…上記以外。強いよ?

芯持ち材…年輪の中心を含む製材。丈夫という先入観が強い。別に強度は芯あるなしに関係ない。


楽器の部位も色々名前あるのですけど、そちらには私の愛がないし、書いたところでわかんなくね、と省略しました。ネットで適当に漁ったので、もしかしたら楽器の作り方は間違えているかもしれないから、あんまり信じないでください。

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