32 弟子
説明回です、すまない
【魔導具店ピヌス・コニス】
相変わらず苔と周囲に埋没した店である。
「邪魔するぞ」
ラームス氏はいるのかわからないが、見事な作品を鑑賞する。以前見た彼の容貌から想像できるように、物凄く雑に置いてある。
いくら適当に置いてあるとはいえ、触るとまずいかもしれないので、見るだけ。非常に残念ではあるが、見るだけ。
美術館でも似たようなものだと思えばどうということはない。……ないったらない。
ささやかな花が可愛らしい置物。これは林檎の枝を模したものか?なんの木から作ったか知らないが真っ白だ。楓?いや乾燥させまくった杉の辺材あたりの色かもしれん。
神主さんが振るような、榊の葉を精巧に再現した杖も神懸かっている。少し灰色がかった樹種なのか、自然退色によって灰色になったかは分からないが、これはこれで素晴らしい。遠目で見るなら、本物と見分けがつかないだろう。
うん、どれも風を感じさせる出来映えだ。触りたい。どうしてこんなに繊細に彫れるのか。撫でたい。そっくりに作ると、逆に本物っぽくなくなってしまうことも多いのだが、全くそんなことはない。舐めたい。よくよく見ると継ぎ目があるのだが、本当に目立たない。奇跡だ。
ああ、作ってみたい!
どう工夫すればこれに近づけるのかとうんうん唸っていると、背後から声をかけられた。
「何をしている」
……こえーです。そして相変わらず少し饐えた臭いが。
「作品を見ていた。素晴らしいな、正真正銘の芸術品だ」
あら、耳が赤くなってますよー?ぷくく。
「笑うな!出て行け!」
あ、怒った。
「やだ。もう少し見ていく」
「客でも弟子でもないのに、居座るな!」
「弟子なんているのか?」
驚いた。確かに腕は確かだろうが、このダメダメなエルフに、弟子がいるとは思えない。というより、職人よりも芸術家よりだろうし、人に何かを教えるのに向いてなさそうだ。
「いたぞ!」
すぐ怒るし。しかしいたのか。
「今は?」
「おらんが……」
言い淀む一応美形。こう反応が素直だと、加虐心がもたげるよな。フェアリーたちの気持ちがよくわかる。やらないけど。
「では私を弟子にしてくれ」
「断る。なぜ人間を弟子にしなければならない」
「私がとやかく言われず鑑賞したいから」
即答に即答する。話している間も見てはいるが。弟子でなくともなんだかんだ店を開けている時点で、私が入り浸る可能性は高い。
「しかしこれ、杖なのか?実用には向かなそうだが」
とても洒落てはいるが、戦うには邪魔ではないか?
「それは設置型魔道具だ。置きっ放しだから問題ない」
設置型魔道具。初めて聞いた、と思う。詳しく聞いてみよう。
このズボラなエルフはツンデレとみた!きっと答えてくれるはず。
「……。お前、馬鹿なのか。子供でも知ってるぞ?」
私を罵りつつも説明してくれたところをまとめると、いわゆる家電製品とかっぽい。
「お前は基礎を学ぶべきだ!そんなんで一流の杖が作れるわけないだろう、舐めているのか!」
「えー、基礎は一応学んだが」
【読書】さまがな!
「嘘をつけ。ならば俺の問いに答えてみろ」
次々と出される木工に関する質問。【読書】さまが久々の出番に荒ぶる。
道具の名前、使い方、彫りの名称(実際にやらされた)、木材の産地と特徴。木の鑑定や木の組織構造はちょっと危うかった。完全に現実の知識も頼った。いや〜、大学時代の教授に感謝だな!
そして果てはこの世界の神話まで。全く、【読書】さまさまですな。
「……」
ラームス氏は悉く答えてみせた私に絶句している。あ、再起動した。うぃーんという駆動音が、しない。
「では、魔法と魔術の違いについて述べろ」
「えっ、知らね」
ままま、魔法と魔術ですと!?使えそうもないから魔法陣の本しか読んでないぞ!
ラームス氏は勝ち誇ったように私を見下した。……ウゼー!!ムカつく!!
っは、これではまるで子供じゃないか、私は大人、オトナなはずだ。ヒッヒッフー……。
「ハア……。いいか、その丸い耳ほじってよく聞け。魔法とは世界、魔術とは人の夢だ。魔法を汎用化したものが魔術で、魔法陣がその最たるものだ」
面倒だとは思ったが、意外にも真摯な目に黙りこむ。べ、別に興味があるわけじゃないんだからねっっ!
……自分でやっといてアレだが、くそキモいな?オエェッ!
「魔法は古来、神の言葉であり奇跡だ。魔術は神と繋がり願いを自分で再現する。繰り返された願いは叶いやすい。【詠唱】があればともかく、前例のない願いは叶いにくい」
んん?いきなり難解な……。わかるようなわからぬような。紙一重でわからない。首が自然と捻られる。
「【言霊】、というスキルはなんなんだ?」
以前クーゼさんに教えてもらった彼女のスキルだ。
ラームス氏の話に当てはめると、サカイくんの【言語】がおそらく神(?)の言葉に当たる魔法言語っぽい。とすると、【言霊】は何に当たるんだ?
「古代の巫女に連なる者に稀に現れる、かなり珍しい才能だな。神に直接上奏する資格を持つ者であり、原初の海の祭司だと言われている」
「それだと、魔法関連のスキルに階級があるように聞こえるが」
「勿論存在する。【言霊】、魔法言語、各種魔法、【奉納】、各種魔術の順で汎用性が高い。無論違う序列をいう者もあるし、効果は使い手次第だがな」
ほう、汎用性か。魔術が機械化に当たるのか?誰でも扱えるというのはシステム的に素晴らしいものだが、今回ラームス氏が言及した汎用性は、効果の選択肢の広さを指すのだろう。
魔法スキルはその分野における干渉権のようなものだそうだ。
「魔道具にも二種類ある。この設置型のように決まった魔法を発動するもの、そして魔法スキル持ちの者が使う杖に類するものだ」
「えっ、杖も魔道具なのか!?」
「大馬鹿者!ど素人!間抜け!阿呆!大うつけ!お前はやる気が足りん!」
めっちゃ怒られた。ヒドイよ〜。私、泣いちゃう!
オエェッ(二回目)。
とにかく、あらゆる馬鹿の類義語を並べ立てられたが、キチンと違いは教えてもらえた。ラッキー!
「ハア、魔法発動の主体が人か道具か、という違いだ。人が主体ならその者が扱える魔法が発動するし、道具が主体なら刻まれた魔術しか発動できん」
「待て、では【魔力制御】や【魔法制御】、【詠唱】にはどういう意味が?」
深い深い、恐らくマリアナ海溝レベルのため息をつかれた。この人でなし!あ、エルフか。
いやだって現実に無いもん仕方ないもん!
「【魔力制御】は自分の体内の魔力に作用し、【魔法制御】は自分の体外の魔力に作用する。そして【詠唱】はその二つの補佐、と言ってもいいだろう。どの魔道具も二つの制御スキルは必ず代替している。良いものは他にも性能差が出るが、まずはこの能力をキチンと引き出せぬ者が杖職人などと名乗ってはならない」
《魔道具について一定以上の正しい知識を得たことにより、【魔道具】を得ました》
「ほへえ」
ラームス氏とお知らせ、二つの情報に自分でもアホみたいな返事が零れた。
「つまるところ、【魔力制御】や【魔法制御】が無くとも杖と魔法スキルがあれば魔法が使えるのか、知らなかった」
私の言葉にラームス氏がクワッと目を見開く。血走ってね?寝不足ですか?あ、カルシウムが不足しているんですね?
「貴様は無知すぎる!杖も手掛ける木工職人とは言えん!鍛え直せ!」
「つまり私を弟子にしてくれるということだな?」
「なぜそうなる!」
前略、私はエルフの弟子になりました(笑)。
名前:ジャン・スミス Lv.25
種族:人間 性別:男性
HP:171
MP:189
STR:30
VIT:18
INT:15
MID:59
AGI:88
DEX:96
LUC:64
称号
【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【魔力武装】【夜目】【逃げ足(初)】
魔法
【魔法陣(初)】【生活魔法】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】【書画】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御(初)】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】【魔道具】
特殊
【混沌】【手抜き】【六文銭】
備考
【魔力制御】と【魔法制御】はどちらかがあれば杖なしでも魔法が発動します。かなり効果や速度に違いが出ますが。
【魔道具】
魔道具(魔法・魔術が関わる物品)に関する事柄に補正がかかる。割と曖昧。
手順を踏めば本来魔法に関係ないものも魔道具化できる。