3 チュートリアル3
ブックマーク等、感謝です。
やってきました西の草原。
気持ちのいい風が吹き渡っている。
先程までの怒涛の混乱を押し流してくれるようだ。
ちなみに、【魔法陣】用のインクだけでなく、魔法紙という【魔法陣】用の紙があるそうだ。
フラスク老の知り合いの製紙職人宛の紹介状をもらった。
もちろん木工職人宛のもだ!抜かりはない。
ただ、この国のギーメルの街に行かないといけないそうだ。
どこやねん。
それは兎も角として、ウサギを狩らねば!復讐じゃー!
サービス開始から既に十時間。
要領の良い人はもうこの辺りにはいないのだろう、お仲間は疎らだ。
「依頼自体は三匹か」
遠目に見えた角のあるウサギにこそこそ近づいて、一撃。
妙な間を置いてからぼふっと音を立て角に変わった。
……もう一匹行くか。
《五十体のモンスターの死骸から素材を剥いだことにより、【解体】を得ました》
妙に煙に包まれるまで時間があるので、記憶を頼りに捌くとボロボロ死体が消えず、なんだか申し訳なくなって試行錯誤していたらアナウンスが。
ごめんな、ホーンラビット。
だが貴様のお陰で私の懐が少し温まりそうだ。ありがとう。
私は草原で黙祷を捧げると、街の西北門に向かって歩き出した。
「う~ん、大分無残だな……」
「申し訳ない」
私はギルドの買取所の奥にある解体所で、熊っぽい獣人のおじさんに叱られている。
「自分で解体するなら、キチンとここで習得していけ」
そう言うと、私が提出した唯一比較的傷のない(死体をそのまま荷物に突っ込めるのかという実験をした)ホーンラビットを捌きはじめる。
まず、血を抜き、毛皮を剥ぎ、腹を開いて内臓を捨て(自己責任で食べてよいとのことなので、後で食べることにする)、血を水で洗う。
「別に仕留めた場所で捌いてもいいんだが、ストレージに入れておけば時間が経たないから、街に持って帰ってきて解体するのがお勧めだな」
星渡りの旅人はストレージがあるから便利でいいな、と言われてしまった。
NPCは使えないらしい。
「なるほど。ここはいつでも使っていいのか?」
「職員に言って空いていればな。偶に大物を解体していることもあるからいつでもというわけではない」
なんだかいいことを聞いた気がする。
「聞きづらいんだが、無残なウサギはどうしたらいいんだ?」
「あ~、そいつらは肉に血が回っちまっているし、毛皮も酷いから角以外家畜の餌だ」
一瞬思考が停止した私は悪くないはずだ。
「家畜?餌?」
「おう。モンスターの中には家畜化できるやつがいてな。南に牧場があるから、内臓とかそこに売るんだよ」
そんな仕組みがあるのか。
「なるほど、肉や毛皮は卸すのか?」
「そうだな。まあ、買った奴はこの後熟成なり薬品に漬けたりするな」
熟成やなめし加工は自分たちでやってしまう業者が多いらしく、ここではやっていないようだ。
「どうやるんだ?」
「そりゃあおめえ、肉なら店特有のハーブを塗って時間加速と冷蔵の魔法か魔法陣使うんだよ。んで、皮は鞣すな」
!?
生活に便利なちょっとした魔法は魔法陣になって安価に流通しているらしい。
「【魔法陣】って随分庶民的なんだな」
「何勘違いしてるんだ?戦闘用の魔法陣もあるぞ」
物凄く高価だから受注生産とのこと。
「んじゃ、査定終わったから精算カウンター行ってこい」
ぴらっと伝票を渡された。
「はい、お疲れ様でした。クエスト合計達成料300S、素材買取料5750S、合計6050Sとなります」
「ありがとう」
そう言えば薬草も手元にあったな。
「薬草の買取もしているのか?」
「はい、基本的なものだけですが。冒険者ギルドで扱う素材をまとめた物がギルド二階資料室にございます。他にも周辺に出没する魔物を記載したものや、地図などを保管しております」
【鑑定】や【識別】がないとモンスターの名前や採取対象かすらわからないから、それの救済措置だろうか?
「なるほど、閲覧は可能か?」
「できます。ギルドでは扱わない物や、さらに詳しい情報は図書館でも調べられますよ」
私は精算カウンターの受付嬢に礼を言ってギルドを出ることにした。
さて、金も手に入ったことだし、買い物でもしよう。調べ物は今度にしよう。そうしよう。
ふらふらとバザーを見る。美男美女ロリショタが多いのでおそらくプレイヤーの露店だろう。
薬品や簡素な武器が所狭しと並んでいる。
イマイチ心惹かれることなく冷やかしていると声を掛けられた。
「お兄さん、プレイヤー、ですよね?」
革製品を扱っているような露店の青年に声を掛けられた。チョコレート色の髪に琥珀色の瞳の美形である。
彼の前には様々な商品が所狭しと並んでいた。
「そうだが」
「ですよねぇ、見た目がプレイヤーっぽくありませんけど、初期装備ですもんね。ちょっと自信なかったんです」
青年はほっとしたように笑顔になった。
確かに、私は没個性的な見た目ではあるな。気にしてなどない。ないったらない。
「見たところ鞄を持っていないようですが……。よろしかったらうちで買っていきませんか?」
必要ないだろう、という思いが顔に出ていたのか、説明を加えてくれた。
「お兄さん、戦闘中はストレージ使えませんよ。ですからみんなポーションとかを入れる鞄を持っているんですが」
ほら、と示された辺りを見るとプレイヤーの集団が。
確かに皆ポーチのようなものを持っている。
「知らなかった。ありがとう。おすすめはあるか?」
「うーんと、在庫は、っと。この三つですかね」
見せてもらったのはウエストポーチ型、ショルダーバッグ型、リュック型のものだ。
「大きい奴ほど容量が大きいんですよ。と言っても三種類ずつですがね。値段もその順で高いですよ」
「ではウエストポーチ型のを」
やはり大して必要だと感じていない私がいます。
でも買うことにしたものはステッチが素朴ながら中々凝っていて気に入ったので良しとする。
合わせて財布も買わされた。商売上手だ。
この革財布は使いやすさを優先しているようだが、所々に刺繍があしらっており味がある。
「お兄さん、余計なお世話かもしれないですけど、ログアウトする時は宿に入らないといけませんからね?アバターは消えませんし、意識のないアバターのストレージは漁れますから気をつけてくださいよ?」
「そうなのか?世話になるな、ありがとう」
なんだか相手の方が年下っぽいのに、心配を掛けてしまうとは情けない。
にしてもお人好しな青年である。
「装備も替えた方がいいですよ?」
「了解した。後で買う。……良ければフレンドになってくれないか?」
青年は驚いたようだったが了承してくれた。本当にいい人だな。
「僕はサカイと言います。委託販売をメインにしているんです。これからもご贔屓に」
「私はジャン。木工師志望だ。よろしく」
握手をしてはたと気づいた。
「どうやってフレンド申請出すんだ?」
サカイくんが笑顔のままずけっとバランスを崩した。
名前:ジャン・スミス Lv.9
種族:人間 性別:男性
HP:99
MP:91
STR:14
VIT:7
INT:13
MID:35
AGI:34
DEX:58
LUC:39
称号
【混沌神の玩具】
【運命神の憐憫】
【怠惰神の親愛】
【無謀】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】
魔法
【魔法陣】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】
特殊
【混沌】【手抜き】
備考
素材買取内訳
角兎の角 30S*47
角兎の毛皮 50S*1
緑蛾の鱗粉 20S*63
緑蛾の羽 20S*42
緑蛾の触覚 10S*19
角兎の内臓などその他 2000S(解体費なども引かれている)
計5750S
ちなみに主人公は刀がSTR依存だと勘違いしたままです。
虫に触りたくないので蛾の時はスルーしておりました。
【解体】は解体時の補佐機能で、一定時間放置するとドロップ品になるのは変わりません。