29 だるまさんが転んだ
「ふふふ、お前たち、私に傅くがいい」
私は今ギーメルにて例のごとくフェアリー達に集られている。が、ドヤ顔で言ってみた。
まあ集られている時点で威厳もクソもないのだが。
「えー、ヤダ〜」
「じゃんじゃんのクセに頭が高いぞ!」
「ナニヤツー」
「さっさと菓子出せよ」
欲望に忠実だな、お前ら。知っていたが。
こら、髪を引っ張るな、ハゲたらどうする!
「ハゲちゃえ〜」
「そうだそうだ〜」
「ふん、このダレスの土産が目に入らぬか!」
私は勿体ぶって奴らの目に入るように瓶を掲げた。
「はは〜」
「どうか我らにご慈悲を〜」
「お菓子くらさい」
一斉に土下座した。
手のひら返す速度尋常じゃない。
「良かろう」
手を出してきたので、スミレの砂糖漬けを一個ずつ渡してやる。
「じゃんじゃんサンキューな!」
「甘い」
「うまい」
次を要求されるのが面倒になって、二週目に入ったあたりで花の砂糖漬けの入った瓶ごと渡した。
「暫くはそれで我慢しろよ?」
「オッケー!」
「任せろ!」
全然信用できない。
こいつら自分に都合の悪いことは忘れるからな。
それは別に構わないのだが、胡乱な目を向けずにはいられない。
「じゃんじゃん今日は何すんのー?」
もきゅもきゅ頰を膨らませて咀嚼しながら一人が尋ねてくる。
「んー?とりあえず木材採取かな」
「ふーん、がんばー」
「今日はボクらもシゴトなの!」
今日はどうやらついてこないようだ。目が瓶から全く動かないので、理由は明らかなのだが。
菓子のない私は用無しとでも言いたいのか。
……当たっている気がして虚しい。
「お前らも頑張れよ〜」
返されない挨拶をして、鬱蒼とした森へ向かった。
いい枝手に入るかな?今回は太いのが欲しいのだが、取るのがマズイ気がそこはかとなく。
製材を買えないか今度フェアリーに聞こうか。
前回と同じように、森を上下左右気の向くままに採取兼戦闘をしていく。
これはえーと、たぶん湿地茸で、こっちが世紀茸?かな。で、こいつが山烏茸、のハズ。全部食べられる。合っていれば。
【識別】さん頑張って!
あと、ヤク草だろ、ハキ草、ハカナ草、ナオ草、ニガ草、んで、これがデ草?この辺は薬草と毒草だ。【識別】が合っていれば。
草によって根だけ葉だけ花だけ実だけ使うのだ。地味に面倒である。合っているかわからないから余計にストレスが溜まる。
よって私は切り離さず全てしまう。
ストレージ様々である。捨てるのは後でできるし、いいんだ!
枝は出来るだけ真っ直ぐで、節の少なそうでかつ小枝の少ないものを採る。あっ、これ素敵。直径もそこそこあるな。芯が細いが、まあいいや。
結構逆さ枝やら絡み枝やら、下り枝など、剪定初心者でもなんとかわかる範囲の良くない枝は三本以下でだが落とす。
三本なら大した手間ではない、通りすがりに目についたのを虫型モンスターや鹿のついでに切るだけだ。グリーンスライムは積極的に狩る。
たぶん森の管理者な妖精たちも、三本以下を守っていると手入れが行き届かないのだろう。木自体を間引いた形跡も無くはないから、本当に手が回らないのだろうな。
「お。あれがハニートレントか?」
黄金色に輝く雪だるまのようなものが至るところでぶら下がる蜜色の木を発見。ラッキー。
「えーと、下の玉は取って良かったのだったか」
近づいてみると、上の玉は蜂の巣っぽい。めっちゃ蜂おる。ノンアクティブなのか、近づいても全然襲われない。
蜜玉はいくつ取っても良いとフェアリー達は言っていたが、五個にしておこう。
柳のような細い葉がさらさらと連なり、たいそう優美だ。銀杏の葉のような黄色だが。
うん?トレントって魔物だよな?
なのに立ち枝やヤゴ、逆さ枝があるのか?とりあえずそれ優先で枝を落とす。
使えないと言う話だったが、一応回収しておく。
「んー、ちょっと開けた場所で杖でも作るか」
なんだかんだ変な体勢が続いて凝っていた体をバキバキと伸ばして、木から降りる。
たしか来る途中にいい感じの切り株があったはず……、そこまで戻るか。
カサカサッ。
背後で音が。
振り返る。
何もない。
前を向いて一歩。
カサカサカサッ。
再び背後で音が。
振り返り、何もないことを確認。
また前を向き歩き出す。
カサカサカサッ。
振り返る。
……トレントとの距離が変わらない。
えっ?ダルマさんが転んだ?的な?
「え、何?」
余りにホラーな現実にかなり動揺している私。
えっ、何コレ。逃げるべき?逃げるべきだよね!
当社比過去最高速度で走る。
カサカサカサカサカサッ!
振り返るとまだいる。
細い葉揺らして走ってる。
枝をしならせ走ってる。
速くねっ!?
えっ、ちょっ、待っ!
ファンタジーでホラーは望んでない!
うわああああああ!
《決死の覚悟で三十分逃げたことにより、スキル【逃げ足】を得ました》
ハニートレントから逃げきって、ハニートレントその二を見つけ、蜜玉を五つ回収。枝を三本払って、降りる。逃走劇再び。
ハニートレントその三を見つけた。以下略。
ハニートレントその四を見つけた。以下略。←今ココ。
いや、馬鹿だと思うかもしれないけどさ、目の前に蜂蜜あったら取るじゃん。時間かかるけど逃げきれるとわかったから余計に舐めプしたんだよ!【逃げ足】が進化するぐらいには走りまくったとも!
そしてハニートレントその五を見つけた……。
激レアという話は嘘だったのか!?敵意は感じないものの、なんかソワソワしてる雰囲気が……。
流石に回れ右しようかな。大きめの蜜玉すでにたくさん有るしね……。取らなきゃ来ないだろう。
回れー右っ、ぜんしーん。
カサカサッ。
えっ?
名前:ジャン・スミス Lv.24
種族:人間 性別:男性
HP:168
MP:182
STR:28
VIT:18
INT:15
MID:56
AGI:86
DEX:94
LUC:63
称号
【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【魔力武装】【夜目】【逃げ足(初)】
魔法
【魔法陣(初)】【生活魔法】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】【書画】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御(初)】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】
特殊
【混沌】【手抜き】【六文銭】
備考
主人公そろそろ死ぬと思ったのですが。
生き残りましたね、しぶとい。チッ。
剪定は本当は季節を考慮したり土を考慮したり難しいのですが、まあ気にしない方向で。