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27 到着



「ふむ、じゃあ俺たちのパーティーそれぞれが勝手に攻略して良いのか?」


 このパーティーではどれくらい時間がかかるかわからないので、ダンジョンには潜らない。というか潜れないので、グレンさんの言葉は当然の帰結だと思う。


「私は全然構わない。鉱石が出るか、分かったらでいいからそれだけ教えてくれ」


 あくまでも自分で掘りたいのだ。……やはりピッケルとヘルメットを買うべきだろうか?


「私もだ。ただ、食材になりそうなドロップがあったら融通してくれ」


「鍋さんに同じく〜」


「僕も構いません。ただ広めるのはそうですね、五日、いや三日は待ってくれませんか?金儲けしたいので」


「自分のところも攻略が終わるまでは言いふらさないと思います。混むと面倒でありますから」


 簡単に合意に至る。楽チン。


「今後はダンジョン探しもしなきゃな!楽しみだ」


 メニューに載っている詳細を見る限り、沢山ありそうだものな。




 そして本来進む予定だった、ダレスの街に続くトンネルの中。途中で二つに分かれた左の通路の出口の光が見える辺り。


 真っ赤……いや、暗いから色なんぞ分からないのだけども、グレンさんと佐倉さんから事前に聞いた情報からすると赤いのだろう狼が立ちふさがっている。


「これ、住人は進めるのか?」


 ふと浮かんだ疑問。


「プレイヤーのためのイベントボスだろ?NPC(住人)がいると出ないんじゃねえか?」


「右の通路を通るのではないでしょうか?恐らく回り道だと思われます」


「今度検証班に回しておきます」


 サカイくんの豪気な一言で決着が着いた。


「んじゃ、倒してくるから!付与だけ切らさないでくれ」


「仲間の小さい狼の処理は任せます」


 そう言って護衛二人が巨大狼に突っ込んでいく。それに合わせてクーゼさんがバフを掛け、サカイくんが一時的な属性を付与する。

 初めて見た。


 巨大狼はHPが二割ほど減る度に吠え、小さい狼が五体やって来る。まあ、これくらいなら問題ない。

エンチャントやバフを切れないように掛ける二人を守るため、刀を振るう。ベスの街付近のモンスターの例に漏れず、ただの物理攻撃は効きづらいので魔力を纏わせて首を刎ねる。


 にしてもよく切れるな〜。

 手応えがまるでない。強いて言えば雲。

 ただ、前の脇差もそうだったが魔力を通すと少し違和感があるなあ。


 鍋さんは火魔法だろう、火の矢を取り巻き狼の攻撃に当てて潰している。すごく器用だ。しかし、使っている杖のデザインが私の好みじゃない。ゴテゴテと無意味な飾りが取り回しに悪影響を与えている気がする。


「魔法も使えたのか?」


「一応ね。料理に使えると思ったんだけど、そっちには使えなくてさ。いつもはナイフだよ」


 確かに効果はそんなに強くなさそうだ。本職よりダメージ量がないと言っていたサカイくんと大して変わらなそうだ。チラッと前方を見る。


「トドメだ!【弧斬】!【剛撃】!!」


「【突】【繰り突き】」


 残り一割のところで怒涛のスキルラッシュ。かっこいいな〜。


 私の【刀】には正統派というか、二人が使っているようなそれらしいカッコイイ技は登録されてないんだが。悲しい。


 最後の小狼の処理も終わってしまい、私と鍋さんは完全に休憩モードだ。新作のオレンジモドキのムースが美味い。ヤバい。しゅわっ、と甘くはじけて溶けていく。

 美味しかったのでいくつか買って仕舞っていると、海苔煎餅(改)を出された。かじる。うん、やはりプロは違うな、草っぽさが消えたぞ。緑茶が欲しい。


《ファントムウルフを倒しました》

《ダレス・転移許可証を得ました》


「終わったぜ……ってなんだそりゃ」


「煎餅だな」


 あ、佐倉さんの目が光った。


「鍋殿、自分にも」


「鍋さん?新作は仕入れたいのですが」


 サカイくんも食いついた。


「いいよ、一枚五百S(ソルト)ね」


「高いであります」


「なんでそんな高価なんですか?」


 値段に文句を言いつつ、金を取り出す二人。


「手間がかなりかかるし、材料が現在ジャンくんしか持ってこられないから」


 ぐるん、と二人ぶんの目線が刺さる。鍋さんめ、私を売ったな!


 恨みがましく鍋さんを見ていると、当人から、す、とカップを差し出される。

 飲んでみると緑茶だ。煎餅に緑茶が合う(ベストマッチ)。なんちゃって緑茶らしいが、合う。


「って流されないぞ!」


「さあジャンさん、吐きなさい」


「自分も欲しいであります」


 ガシッと両肩を掴まれる。なんだかデジャブ。気のせいかな〜、ハハハ。




「ギーメルの街開放したのジャンだったのか。道理で情報が来なかったわけだよ」


「しかしこれからはギルドを経由しない住人の依頼(クエスト)ももう少し受けるべきでありますな」


 別に隠すような情報ではないので、歩きながらサクッと話した。鍋さんの作ったお高いハンバーガーを奢られてしまったのでね、話さざるを得ない。

 グリーンスライムの乾燥法だけは秘匿した。ふはは。

 ブルースライムと一緒だけど。隠す必要も無い気はしているけど。


「それにしてもスライムの活用法は広いですね〜。ゼラチン〜、餅〜、繊維〜、まだまだあるんでしょうね〜」


「ジャン君は色々ゲテモノを食べ過ぎだと思うね。助かっているけど」


 指折り数えるクーゼさんと、微妙な目を向けてくる鍋さん。


「ギーメルにいく条件と街における暗黙のマナーは書きこんでおきます。あとは内緒にしておきましょう」


「助かる」


「いえいえ、僕にもメリットがあるので。ああ、あれがダレスの街でしょうか?賑やかですね」


 その言葉に促されて前を見ると、人がたくさんいる。

 街全体が市場と言った雰囲気か。周りが荒野で、周縁に見える黄緑色の木々や泉がオアシスっぽさを出している。

 ここでは門番も特にいないようで、来るもの拒まず感がヤバイ。


 この国、街同士で離れているとはいえ、かなり方向性が違うので心配になるな。まあ、ゲームだし、良いのか?


「ああ、ここの北ではテイマーでなくても騎獣にできる精霊獣が出るそうだ。俺たちもまだ行っていないが」


「流石に徒歩はそろそろ厳しいであります」


 確かに。

 アレフの街、ベスの街、ヘエの街は比較的近かったが、今回はかなり長旅だった。戦闘に時間はあまり掛けていないが、三時間は歩いている。

 AGI(速さ)の補正で現実よりも速く移動できていることを考えると、四十キロはあるか?


 私も欲しいな〜。もふもふの精霊獣が良い。


 護衛役二人とはここで別れる。またなー、とお気楽そのものだ。


 出ている数々の屋台からは混ざり混ざった香辛料の香りが。

 コレは、ケバブと見た!買わねば!

 ウマっ、何の肉かわからないが旨い!ジュワッてする!


 同じように露店を覗きこんでいたサカイくんが思い出したように声を掛けてきた。


「そうでした。ジャンさん、一応伝えますけど、またイベントがありますよ。今回は対人戦ですが」


 うん、素晴らしい推理だサカイくん。全く見てない。


「ありがとう。しかし今回は見送りだな。対人は気が重い……」


 ゴブリンや妖精の解体だってやりたく無いのだ。人汁ブッシャーな展開はゴメンだな。


「観客席もあるそうですし〜、プレイヤーだけですけど屋台も出ますよ〜?鍋さんも出店するそうですし」


「それは心惹かれるが、私もやりたいことが多くてな。前回のイベントから考えるに、また運営が動画を上げてくれることを期待しておく」


 そろそろお面作りたい。


「ジャンさん、そういえば楽器って作れます?」


「作ったことないな」


 楽しそうだ。


「作ってみてくれません?」


「良いぞ〜」


 少し懐かしいような風味のアイスを食べつつ答える。ヤギの乳かね?


 楽器か、簡単そうなのはカスタネットやギロか?駄目かね?

 しかし弦を張るのは難しそうだ。私は音痴だしな。


 ……ヤバイ、不安しかないぞ?


「ではお願いしますね。種類は問いませんし」


 やっぱり断ろうとしたところで最終通告。仕方ないかあ、頑張ろう。


「……うまくいかんと思うぞ?ここでも売ってそうだが」


「ジャンさんなら出来ますって!面白いもの」


 煽てても出来なかったら出ないぞ。期待して失敗しても知らんからな?ん?


「ああジャンくん、私の杖もお願いしたいな。あと、大会までにグリーンスライムの干物もたくさん欲しい」


 ちょっと見ないと思ったら、めっちゃ買いこんでますね、鍋さん。まあ、次々とストレージに消えていくのだが。


「スライムは了解したが、杖?他のプレイヤーも売っているだろう?」


「君に頼めば面白いのが出来そうだから!杖は、期限は無いから適当に作ってくれ」


 言うだけ言って鍋さんは本格的な仕入れに去っていった。自由人だな〜、でも香辛料多いしワクワクする気持ちは分からなくもない。


 あれだ、彫刻の展示会みたいな気分なのだろう。私はワクワクする。作品の曲線が堪らないよな!


「では僕らも解散で」


「さよなら〜」


「またな」


 さて私は奥に見えるザ・バザールな辺りをぶらつきましょうかね!




幻想狼(ファントムウルフ)

魔法か魔力を帯びた攻撃しか目立ったダメージを与えられない。明るいところで見ると美人らしい。毛皮は高値で売買される。


影狼(シャドーウルフ)

魔法か魔力を帯びた攻撃しか目立ったダメージを与えられない。黒い。

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