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26 出発



 空は快晴。白い洗濯物がよく映えそうな青い空。ボス戦日和だ。


 私はベスの街の東門でサカイくん達を待っているのだ。十分前に来た私がいけないのだが、どうしたものか。


 そう、私は致命的なミスに気づいてしまったのだ。


 今回の同行者、もとい雇われたという護衛の顔も名前も聞くのを忘れていたのである。

 これは時間ギリギリに来た方が良かったか?


 悶々と人見知りな自分と向かい合っていると、大変ラッキーなことにサカイくんとクーゼさんが来た。


 こっそり、ほっと息を吐く。


「おや、もう来ていましたか」


「お久しぶりです〜。初期装備に戻ってますね〜?」


「久しぶり。早速だが、装備を買いたいのだが」


 前回に比べて布がなめらかな光沢を持ち、高級感がある。光に当てる角度で、七宝模様が浮かぶのがカッコいいな。

 脇差の拵えも、燻したような銀が使われていてそこはかとなくお洒落だ。


「ありがとう。いい出来だな。そうだ、ちょっとどうして良いかわからないものを手に入れたんだ。買い取らないか?」


 スプリングスライムの亡骸を忘れないうちに処分しようと画策する私。


「是非見てみたいですね」


 サカイくんは相変わらず笑顔が素敵デスネ。

 そんな面白いものでもないと思うのだが。


 とりあえず取り出す。


「でかっ」


「うわ〜」


 ぽかーんとする二人。うん、高さだけでも大体三メートルはあるからな。横は五メートルくらいか?


「……!!ジャンさ〜ん、これ私に売ってください〜!」


「構わないが。そんなに慌てるようなものか?」


 くわっと目を見開いて、クーゼさんが私に詰め寄る。怖いですよ?エルフなのに肉食系ですか?


「これ、魔法防御効果の高いポリエステル……いえ、それよりはまだ綿に近いものですね〜。絶対に紡いで織って服にします〜!譲ってください〜」


「いいぞ。それの値段の分、今回の服割り引いてくれるか?」


「お安い御用ですよ〜!タダにしますね〜!」


 刀の代金と立て替えてもらった護衛料だけで済んでしまうな。せっかく作ったビーズはストレージの肥やし行きか……。

 いや、良いんだけど。


「そうだジャンさん、モチムニの木は要りますか?仕入れたんですよ」


「いいのか?」


 高くて前は一本しか買ってないのだよなあ。

 差し出された製材を見る。割れも虫食いもないし、日本人受けが良さそうだ。乾燥もきっちりしてある上に歪みも少ない。しかもかなり真っ直ぐで、長さも二メートルほど。

 専門でもないのに、よく見分けられたものだ。


「いくらだ?」


「一本五万Sですよ」


「おい、この材でそれは安いだろう。もう少し払わんとだろう」


 前に私が買ったものより上質で安いんだが?

 怪訝に思うもはぐらかされる。もしやこれは、私普段から相当割引して売ってもらってる……?下手すればほぼ仕入れ値じゃないか?嬉しいが、うわー、マジか。


 結局サカイ君は笑顔のまま、「きちんと儲けは出る」と言って頑として譲らず、彼の言い値で諸々の代金を渡した。まあ、また珍しいものでも売ればいいだろう。

 そのあたりで折よく鍋さんと見知らぬ二人がやって来た。


「俺はオルグレン、グレンと呼んでくれ。大剣使いだ。今日はよろしく」


 赤みの強い金髪に緑の目の、騎士然とした筋肉(細マッチョ)。にかっという音が似合いそうな笑顔で挨拶された。


「佐倉であります。自分は槍を使います」


 軽く会釈する、此方は日焼けした肌のザ・武士、と言った趣の筋肉(ガチムチ)


 結論:とても暑苦しい。


「オルグレンさんはA×6(ヘキサ・エース)のリーダーで、佐倉さんは竜の軍歌のアタッカーです。お二人のパーティーは既にダレスに行ったんですよ」


「二人は私の屋台の常連でね。今日が暇だというので、冗談半分に頼んだら引き受けてくれたんだ」


 サカイくんと鍋さんから補足が入った。なんか聞いたことがあるパーティー名な気がする。


 思い出せないがな!


「凄いんだな。私はジャン。今日は世話になる」


「さて行きましょうか」


 サカイくんの号令で、東方向に歩き出す。多少整備されているとはいえ、小石も多い道だ。


 そろそろ移動手段が欲しい。木の上を飛び回るのも楽しいのだが、なんだかんだ言って街道は長い。自動車……は無理だろうし、馬とか?

 しかし馬はあんまり好きじゃないんだよなあ……。


「ジャンくん、君は結局ヘエの街には行ったのかい?先日一人で行くと言っていたが」


 ファンタジー世界における移動手段に思いを馳せていると、鍋さんが話しかけてきた。


「行っ……たぞ」


「なんだいその微妙な間は」


 うう、鍋さんの眇めた目が迫力満点です。


「その話、俺も興味あるな」


 グレンさんも乱入。佐倉さんも興味深げにこちらを見ている。


「大した話じゃない。ヘエ・転移許可証は手に入れたが、途中で力尽きたんだ」


「倒したのかよ!?いや、俺らも出来るけど、ジャンは生産職だろう?」


 なんとも答えづらい質問だな。必殺、日本人の愛想笑い!


「ジャンさんは戦闘もある程度やりますよ」


 サカイくん、言うな。生粋の戦闘職じゃないんだぞ!恥ずかしいじゃないか!


「フォレストベアも一撃でしたしね〜」


 クーゼさん(ブルータス)お前もか。

 仕方ない、腹を括ろう。いや、まあ括る必要はないのか?


「まーあれだ、ちょっと変な称号効果でな」


「ふーん?」


 グレンさんの目がネズミを見つけた猫のようにニンマリした気がする。私は全力で見なかった。見なかった!別に事実が知られるのは構わないが、期待されるほど面白い裏話があるわけではないから、持ち上げられるのはほどほどがいい。


「でもよ、街への転移許可証を出すモンスター、あんまり強さは変わらねー感じするよな?」


「相性の問題はありますが、概ねそうでありました」


 助っ人二人組はうんうん頷いている。


「なるほど、それでヘエとダレスの開放が早かったのか。そういえばダンジョンとかはないのかい?」


 鍋さんの疑問は尤もだ。この世界にありそうなものだが。

 割合歩いたところで、整備されたトンネルが見えてくる。


「あ」


「どうしました〜?」


「いや、そういえば東に廃坑があるらしくてな。ちょっと掘ってみたかったんだ」


 スコップは買っておいたのだ。ピッケルなどは買ってないが。予算が厳しくてね!


「廃坑ですか?聞いたことがないですね。僕は鉱石が出るのか確認したいですね。皆さんはどうです?」


「良いですよ〜」


「私も構わないが。二人はどうだ?」


 顔なじみは鷹揚だな。


「面白そうだし、行っても良いぜ」


「恐らくファントムウルフ討伐に時間は掛かりますまい。自分も気になります」


「なんだかすまないな。ありがとう」


 二人に攻略情報を聞いていると、とりあえず街の開放を優先していて、寄り道はあまりしないらしい。


 A×6(ヘキサエース)はどんどん新たな場所へがモットーで、竜の軍歌は迷宮都市を目指しているそうだ。テスの街が怪しいので、とりあえずそこが目的地らしい。


 テスは遺跡だと聞いたのだが……?

 まあ良いか、黙っていよう。不確定な情報は要らんだろうし。




 トンネルから僅かに逸れて、草に埋もれた轍を辿る。何も知らなければ、恐らく気づくことすらできないだろう。


「ジャン、お前自由人って言われないか?」


「いや。……マイペース、とは言われたことがあるかな?」


 薬草や果物をパーティーの進行速度が遅れない程度に採取していく。鍋さんも毟っているのだから、私だけに言わないで欲しい。


 サカイくんとクーゼさんはAGI(はやさ)があまり高くないので、現実(リアル)よりも速くはあるのだが、私や鍋さんとは一般登山客と熟練猟師並みの進行速度差が出る。


「同じではないですか」


 佐倉さん、そんな呆れなくても良いじゃないか。淡々と寄ってくる魔物を処理しながら言われるとツライ。デキる男はカッコいいね!

 目を凝らすと、昼間にも関わらず黒々とした口を開いた、木で補強された穴が見える。


「お、見えたぞ。先に行ってる。死んだら放置してくれ」


 木の上から声をかけて飛び出す。

 話を聞いた感じ、私以外は鉱石を掘らないようなので、早めにサクッと掘らねばと思う。完全に私の我儘だしな。


 洞窟……旧坑道に到着。うむ、良い感じの朽ち果て具合だ。

 所々錆びたり欠けたりしたランプ、力なく垂れ下がるロープ、斜めに傾き風に侵された柱。

 地面の光と影の境界の先は、明るさに慣れた目には何も映らない。


 まあ、越えるんですが。


《お知らせします。ダンジョン2-1/3を発見したプレイヤーが現れました》

《これにより、ダンジョンシステムが稼働します》

《詳細はメニューよりご確認ください》

《以後、新規ダンジョン発見のアナウンスは流れません》


《称号【探検家】を得ました》


 ファッ!?


「おいおい、マジかよ。狙ってたのか?」


 追いついたグレンさんに嬉しそうにからかわれてしまった。ヒドイ。

 とりあえず首は横に振っておく。


「ふふっ、このダンジョンに必要な物を仕入れて売りさばきます。ジャンさん、誘ってくれてありがとうございます」


 サカイくんが良い笑顔。黒い。鏡見ろ!


「称号を貰えるとは、幸運であります」


「私も〜、生産以外の称号は初めてですね〜」


 二人ともにこにこだ。佐倉さんは雰囲気だけだけども。サカイくんの後に見ると癒しだな。


「どうでも良いけど、ダンジョンならモンスターが出るから採掘キツイんじゃないかい?このメンツで攻略も不安だしね」


 鍋さん、正論!

 折角来たのに……、残念。




名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.24

種族:人間 性別:男性

HP:168

MP:182

STR:28

VIT:18

INT:15

MID:56

AGI:86

DEX:94

LUC:63


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性】【魔力武装】【夜目】


魔法

【魔法陣(初)】【生活魔法】


生産

【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】【書画】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御(初)】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】


特殊

【混沌】【手抜き】【六文銭】



備考

パーティー全員に称号が出ています。

【探検家】

ダンジョン内でのレアドロップ率上昇

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