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22 ギーメルの街2



「じゃんじゃん、おはよ〜」


 目が覚めると……というかログインすると私の泊まっている部屋に既にフェアリーが。鍵掛けたんだけどな?


「おはよう」


 カラフルなのがわらわらと集ってくる。懐かれているのだろうな。


「菓子くれ」


「クッキー!」


「マシュマロー!」


「じゃんじゃんスライム!」


 完全に餌づけだが。


「現金だな、君たち」


 などと言いつつ、ポップコーンを取り出す私もどうなんだろう。ほんと鍋さんありがとう。


「初めて見るー」


「およよ、ショッパイ?」


 塩味のお菓子が珍しいのか、目をくるくるさせるのが大変可愛らしい。ちなみにキャラメル味もある。後であげよう。


「こら、私の上で食うな。食うならポロポロ菓子のカスを落とすな」


「ケチな男はモテないぞー?」


「ぞー?」


 もうため息しか出ない。


「まあそんなガッカリすんなよ!俺ら結構セキニンカンあるんだぜ!」


「どの口が言うんだ、ん?」


 手近な奴のふっくらとした頰をツンツンつつく。ヤバイ、癖になりそうだ。しかもウルウルしてなんか嬉しそう。


()つふなー!!」


 あ、怒った。残念。


「ほれ、責任とってみろ」


 勝ち誇る菓子クズまみれの私。楽しい。


「む!!ボクらも大人だもん!」


「見てろー!【洗浄】!!」


 ふわっと風が身を包み、なんかさっぱりした!菓子クズも消えたし、部屋も綺麗になった。これは褒めてやらねば。


「スゴイな!」


「だろー?」


「でしょー?」


「惚れて良いよー?」


「惚れんが見直した」


 さてそろそろ下に降りて飯を食おう。空腹度が少しピンチだ。


「あ」


 ドアノブに手をかけたところでフェアリーズが正真正銘ウッカリという顔をした。


「どうした?」


「描いたおヒゲも消しちゃった!えへ」


「貴様ら……。オヤツ抜きな」


 とびっきりのごまかし笑顔が凍りついたが私は知らん。




 グレープフルーツっぽい果物のフレッシュジュース、豆とトマトの煮込みと、川魚にしては大きい魚の切り身のソテー。主食は焼きたてのカンパーニュのようなパン。バターが無いのが残念。自前のをこっそり取り出して付ける。うまっ。

 融けるバターは一種の贅沢だ。トーストにしていないならなおさら。


 自前の食品を持ち出すのはマナー違反だとはわかっているのだが、何か付けたのも食べたかったんだ……。 ジャムが付いていたのだが、想像すればわかる通りフェアリーたちにおねだりされてしまってですね……。

 宿の主人は諌めてくれたのだが、まあ良いかなと結局私が許してしまったのだ。上目遣いされたら許可せざるをえない……。本当にあざとい。


「じゃんじゃん、今日は何するんだ?」


「道案内なら任せろ!」


「おかし!」


「お前たち、ジャムで口元が真っ赤だぞ……私にも【洗浄】が使えれば良いんだが」


 MPやたらとあるしな。


「じゃんじゃんも使いたいのー?」


「そうなのー?」


「任せろー!せーのっ」


「「「ひらけーゴマ!」」」


《【生活魔法】を得ました》


 そんなんで良いのか。とりあえずベタベタの口元をにっこりさせて胸を反らす彼らに礼を言わねば。


「ありがとう。……【洗浄】」


 ソコソコのタイムラグがあった後、フェアリーたちの口元が綺麗になった。


「くるしゅーない!」


「じゃんじゃんまだまだー」


「うむ、ショージンせー」


 こいつら本当に可愛いな。


「とりあえず今日はトレントの枝と虫こぶが欲しいんだが、案内頼めるか」


「任せろー」


「これ食べきったらね!」


 あーあ、折角綺麗にしたのに、またジャムまみれに。




 フェアリーズに頭の上から案内されてやってきたのは東の森。この子達の話は基本食べ物についてだが、質問すれば思いの外キチンとした答えが返ってくる。


「トレントさんは基本的には怒らないの」


「一人につき、実は五個まで、枝は三本までならおねむのままー」


「熟してないのも、ダメー」


「この街の人たちの暗黙の了解ねー」


 なるほど、今度サカイくんに頼んで掲示板にでも書いてもらおう。


「そもそもトレントと普通の木の違いがわからないのだが」


「ぼくらもわかーんなーい」


「だからいつでも実は五個までなの!」


 そういうことか。そもそもあまり実や枝が少ないときは、採取してはいけないらしい。

 いい感じの枝を確保しつつ、美味しそうな実を厳選してもぐ。ついでに三本以下でできる範囲の簡単な剪定もする。


 その前に。


「おい、そもそももげないし伐れないんだが」


「えー?」


「なんでー?」


 フェアリーたちがジッと私を凝視する。しばらくその居心地の悪さに耐えていると、一人がぽんと手を打った。


「あ!じゃんじゃん手のひらに魔力足りない!」


「ホントだ!」


「斧にもだー」


 原因がわかって喜ぶ彼らの要領を得ない説明を何とかまとめると、手や斧に魔力を纏わせないとこの辺りの植物を採取できない、ということらしい。パチプチの木とは真逆である。


 ギーメルの街の住人――エルフやドワーフ、フェアリーたちは普段から無意識に調整しているからすぐには分からなかったそうだ。


 早速、気合をいれて念じながら紅い木の実に手を伸ばしてみると、今回はキチンともげた。よしっ!

 ガッツポーズをすると、フェアリーたちが盛大に拍手してくれた。まるで甥っ子が初めて立ち上がった時の両親のようで、少々恥ずかしいのだが。


「他に注意することはあるか?」


「えっとね、フォレストディアとグリーンスライム、ゴブリンは駆除対象なの!」


「協会……お外だとギルド?にお仕事もあるよー」


 後で行こう。今も鹿の在庫がやばい勢いで増えている。ゴブリンは人型だから解体したくないので放置します。ドロップ品もロクでもないが。


 とりあえず、インクに使える指定された虫こぶかわからないのだが、どうするべきか。適当に虫こぶ採っていけばいいか。いいよな?


「ハニートレントいないかなー?」


「いないかなー?」


「ハニートレント?」


 きょろきょろと辺りを見回すフェアリーたち。きのこや薬草(多分)を毟りつつ、名前からしてなんとなくわかるトレントについて聞いてみる。


「あのね、甘〜いの!とっても珍しいのー!」


「ミツミツの実は採り放題なんだぜ!下半分だけだけど」


「枝とかは甘くないって長老が言ってた!」


「偶に蜂の巣!」


 最後のが不穏だ。湧き出た緑色のスライムにお札よろしく乾燥の魔法陣を貼る。またカサカサだな。これもゼリーに出来るのだろうか?


「あ、じゃんじゃん、あの花食べられるよ」


「薬草にもなるのー。あまあま!」


「ムカゴモドキも生えてる〜」


「どれどれ」


 妖精ナビは優秀です。但し食べ物に限るが。

 しかし私のストレージ内のお菓子の減りがですね、ヤバい。加速度的に消えているのは確かだ。


 一旦鍋さんと会って菓子を補充するべきか……?


「あっ、ファングラビット!」


「こいつもウマイぜ!」


 とりあえず彼女の土産用にナビ(フェアリーたち)に従って料理に使えそうなのを得よう。





名前(ネーム):ジャン・スミス Lv.23

種族:人間 性別:男性

HP:163

MP:177

STR:28

VIT:16

INT:15

MID:52

AGI:83

DEX:93

LUC:63


称号

【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】


スキル

戦闘

【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性(微)】


魔法

【魔法陣】【生活魔法】


生産

【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】【書画】


その他

【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】【木登り】【地図】【風の心得】【金の心得】【木の心得】【水の心得】【火の心得】【効果】


特殊

【混沌】【手抜き】



備考

【生活魔法】意外とプレイヤー・住人で持っている人は少ない。フェアリーたちにすごく気に入られると、気まぐれに何か授けてくれる。主人公はかなり運がいい。


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