2 チュートリアル2
呼び止められて渡されたのは紹介状だった。
横から書くところを見ていたが、おっちゃんはサラサラと意外なほど丁寧な字で書いていた。
なんでもこのアレフの街にハーミット王国一番の薬剤師がいるらしく、その人を訪ねれば更に草花に詳しくなれるそうだ。
気に入られれば。
それ、難しくないか?と思いつつ、その薬剤師のお宅の扉をたたく。
「ごめんくださーい」
「はーい」
ん?なんだか想像と違う高くて明るい声が……。
「すまない、ジャンと言う者なのだがフラスクさんはご在宅か?」
「お爺ちゃんは今ぎっくり腰で動けないの。気難しいし会うかどうかわかんないの」
孫娘か。そばかすの散った顔は愛嬌のある娘だ。
連れ立って歩いた場合、同郷人に通報されかねない感じである。
「紹介状をもらったのだが……」
「うーん、聞いてみる!」
たたた、と軽い足音を立てて少女は奥へ消えた。すぐに戻ってきた。
「会うって!」
「おお。お邪魔します」
揺れる赤毛を追って中へ入ると、つんとした草の匂いが鼻につく。
芸が細かい。
案内された部屋にはベッドに腰かけたしわしわの老人がいた。
長く垂れた眉毛で見えにくいが、覗きこむようにこちらを射抜いている。
「お前さんか、リディタスが書いていたのは」
おっちゃん、そんなカッコイイ名前だったのか。
「んん?ほう、【読書】なんぞ持っとるのか。【採取】【魔力制御】……、ま、ええじゃろ」
「何がだ。というかどうやって私のスキルを確認しているんだ」
「【識別】というスキルじゃ。お主も持っとるじゃろ」
話を聞いてみると、その道の先達に教わった知識が発揮できるらしい。経験がモノを言うスキルだそうだ。
独学の場合は判定結果に?が付くらしい。
なお【鑑定】は【識別】より上位で、叡智神の祝福関連がない限り手に入らないとのこと。
「まあ、【読書】がある分他人より楽じゃろ。あとは数じゃな」
【読書】は文字情報の完全記憶と読み書き能力だそうだ。話せはしないらしい。
な ん だ そ れ。
学生時代に欲しかった……!
「……で、本題じゃ。【魔力制御】と【採取】を持つお主に頼みがある」
なんでも少し離れたところにある草やら花やらを持ってくることらしい。
「北の山に生えているパチプチの木になる実を採ってきてくれ。腰痛に良く効くんじゃよ」
「普通に採れないのか?」
「まず【採取】がないと手をすり抜ける」
「まあ、それくらいなら普通……か?」
「【魔力制御】がないと、実や葉が爆発する」
ファッ!?
「【伐採】がないと斧が爆散する」
「危ないな!」
フラスク老は重々しく頷いた。
「そうじゃ。心配で孫には採りに行かせられん」
私はいいのか。
「そもそも私、魔力がよくわからないんだが」
フラスク老はこれ見よがしに溜息を吐いた。
そもそも魔力というのは大気中にも充分に存在し、酸素のように身体に取り込まれ体内を循環している、らしい。
ただ、循環する回路は人によって異なるそうで詳しいことは自分で学べと言われてしまった。
今回は私の体内魔力と対象の魔力が接触しないように念じればなんとかなるだろうとのこと。
雑である。
そんなこんなで北の山にやって来た。
パチプチの木は山の中腹辺りに生えているそうだ。
時々出てくる蛾の魔物がキモい。モンスター名不明。
【薄影】は常時影が薄くなるスキルらしく、こそこそしつつ、現在モンスターを見つけ次第奇襲している。
熟練度が上がったら任意で影を薄くできそうだ。
囲まれるとすぐ死に戻りそうなので、見つけ次第背後から蛾を強襲すること数時間。
《奇襲を百回成功させたことにより、スキル【奇襲】を得ました》
《クリティカル攻撃を百回連続で出したことにより、スキル【会心の一撃】を得ました》
え?
まさかずっとクリティカルだったのか?
……私、STRも低かったな、そう言えば。
全部瞬殺だったのは敵が弱いからではなく、攻撃が全てクリティカル判定だったのか。
やはりスキルの内容がわからないまま、目的地にたどり着く。
とは言え、今回は取得経緯がある分大分予想がつくが。
「さて、毟るか」
フラスク老に読まされた薬用植物図鑑の知識が引き出され、あちこちに薬草が判別される。
便利だ。
「うおっ」
【魔力制御】の仕事が甘いらしく、黄褐色の実をもぐと小爆発を起こした。
地味に山を登り始めて初のダメージである。
道中でレベルが上がってなかったら既に瀕死だ。
初期配布の等級外ポーションを呷る。
……なんか味しない。完全無味。
気合をいれて実と葉をプチプチ。
最後の方は結構上手く採れるようになったらしく、ダメージは入らない。
周辺の植物も図鑑の指示通りに採取していく。
ついでに謎の植物も適当にブチブチ。後で訊こう。
「さて」
私は【伐採】を持っていないわけだが。
良質な杖になるパチプチの枝が欲しい訳で。
低レベルなうちはアイテム喪失がない訳で。
コレはもう試すしか!
ボンッッ!!
《称号【無謀】を得ました》
失敬な!!
今回は仰向けで目覚める私。
やっぱりダメだったかー。
まあ帰る手間省けたし、結果オーライで。
さて、称号はどんな特典があるのか。
【無謀】
安全に撤退できるにも関わらず、成功する見込みのない挑戦をした者に与えられる。
成功率が零パーセントから一パーセントになる。
これはまた破格な。
つまり最大でも九十九回死に戻ればあの枝が手に入ると言うことか!
とりあえず採れた分を届けに来た私。
フラスク老の目の前に並べてみる。
「半分くらい使いものにならんの」
「ええ〜」
何でもパチプチの実は爆発させずに採取した物が最上品らしい。
少しでも爆発させてしまうと効果が落ちるそうで。
ぼちぼち他の戦利品の評価などを聞きつつ、それって私あの枝手に入れられないって事か?と思い至った。
【伐採】、取ろう。
「うむ、では報酬じゃ」
「別に構わないが……」
本見せてもらったし。
採取依頼用の薬草も揃ったし。
「まあ、先立つ物は必要じゃし」
手渡されたのは、採取用鋏と採取用手袋、採取用手斧だった。
「【魔法陣】用のインクもオマケじゃ」
手の上に褐色の小瓶が。
えっ!?
ええええええ!?
「陣の一つでも書けるようになったら調合を手ほどきしてやろう」
名前:ジャン・スミス Lv.8
種族:人間 性別:男性
HP:94
MP:86
STR:14
VIT:7
INT:13
MID:35
AGI:32
DEX:52
LUC:37
称号
【混沌神の玩具】
【運命神の憐憫】
【怠惰神の親愛】
【無謀】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】
魔法
【魔法陣】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】
特殊
【混沌】【手抜き】
補足(きっと言及されない設定)
刀系統はDEX、AGI依存。
剣系統はSTR、DEX依存。
Lv.1上がるごとに
HPMP+10
他ステータス+10
自然習得も可能なため、スキルポイントは基本得られない。